第44話 曖昧な三角関係

ある朝、台所から見えるリビングのテレビを透明なガラスコップを洗いながら空翔は見ていた。


「今日、午後から雨降るらしいから折り畳み傘持って行った方がいいらしいぞ。天気予報士の田中さんが言ってる。もうすぐ卒業するみたいだよな、その子」

 

 シンクにあたる水が響く。リビングのソファに座る夏楓がスマホを見ながら、今日のスケジュール確認していた。ぶつぶつとつぶやいている。孝俊は、食卓で朝食の目玉焼きつきのガパオライスを夢中で食べていた。もぐもぐと食べながら、テレビを見てうなずく。


「そうなん? あれ、どこだっけ東大卒の子? 頭良くて可愛いよな」

「えー、孝俊、こういう子が可愛いと思うわけ? 夏楓と全然違うタイプだよな。どちらかと言えば、夏楓はキリッとしたタイプ?」

「……それ、褒めてるの? けなしてるの?」

「え? そりゃ、もちろん褒めてる!」

「……空翔、そういう発言には気をつけろよ」

「孝俊に言われたくない」

「あ、そう」


 孝俊は、黙々と細かく刻まれた赤パプリカと黄パプリカ、ひき肉をごはんと混ぜてスプーンですくって頬張った。夏楓は、立ち上がって、バックを肩に背負う。そろそろ仕事に行く時間になった。


「そろそろ、時間だから行くね。行ってきます」

「今日、夕飯当番だけど、食材は?」

「あ、本当? うん、大丈夫。冷蔵庫の中で決めるから。んじゃ」

「おう、行ってらっしゃい」


 空翔は、洗い物を洗い終えて、声を掛けた。夏楓は冷蔵庫を開けて、確認した。孝俊は、まだご飯を食べ終えてなかったため、口をもぐもぐさせながら手を振った。


「おーーー」

「孝俊、お前もそろそろ時間だろ」

「はいはいはい。今行きますぅ」

 

 コップに入ったプロテインをガブガブ飲んで、バックを持った。孝俊は慌てて出かけて行った。空翔は、ふぅとため息をついて、1人ゆっくりホットカフェオレを飲んだ。まるで学校に行きなよと送り出した保護者の気分になっている。こんな生活になったのかいつからだろうか。偶然にも、空翔と夏楓、孝俊と3人で鉢合わせして飲み会をしてから話が盛り上がり、意気投合をした。いつの間にか、そのままシェアハウスすることになって、早くも3ヶ月。夏楓と同棲した時は1ヶ月で終わったのに、3人で住むようになったらバランスが良くなったのか順調だった。住む時の条件はお互いに干渉しすぎない。恋愛関係になるのは禁止。仕事のパートナーのように家事を分担する友人関係でフラットに過ごしている。それが3人にとって、ちょうどよかった。一番早くに生まれて年上でもある空翔がリーダーになっている。何だか、部活動みたいな雰囲気でもある。こういうのもありかとテレビの朝のバラエティ番組を見て、現状を再確認する。ただ、気になるのは、夏楓の色恋の話になるとどうしても、昔の記憶がよみがえり、頭の隅の方で嫉妬心が生まれて来る。孝俊と離婚したという話もここに引っ越した時に打ち明けられた。なんとなく、そうだったんじゃないかと予想はしていたが、まさか本当だったとは信じられなかった。あの時の結婚式で渡したなけなしのご祝儀はどうなるんだと沸々と怒りがこみあげるが、ここは大人の対応を取らないといけないなと自分で自分をなだめた。


 空翔は、部屋の中を整えてから、鍵を閉めて、外階段を下りた。階段から見える空は清々しい景色だった。このまま、誰とも結婚しなくても心穏やかならいいのか、いやでもこのままではすぐおじいさんになってしまう。孫の姿を見せろと母親からの言葉が耳に刺さる。リクルートバックを持ち直して、ビルが立ち並び、人々が行きかう石畳の歩道を歩いた。何とかなるだろうと言い聞かせていつも通りに出勤する。


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