第13話 夜空の打ち上げ花火は半円に見える

 朗月ろうげつが東の夜空に照らし、雲が無く天気が良い地元のお祭りの日。

一緒に神社に行って、露店をまわり、花火を見ようと夏楓を誘ったが、人混みは嫌だとか、外食は太るとか、さらに浴衣を着るのが面倒と文句ばかり。付き合った当初はなんでも積極的に出かけていた。3年も付き合うと、本音と建前がなくなって来るのかなとプラス思考に考えた。きっと空翔に対してリラックスしてきたんだと。


 そういう理由から窓から見える寂しく打ちあがる花火を見るしかなかった。周りにはビルや住宅が立ち並び、半円の花火しか見えない。なんの形か把握できないのだ。

 楽しみといえば近所のドラックストアの特売で買ったお酒とお惣菜の焼き鳥くらいだった。どこにも行けずに部屋の中でずっと過ごす。


 あまりいい気分がしなかった夏もある。


◇◇◇


「ただいま」


 ある日の西日が道路に伸びる夕方、夏楓がそう言って入ってきた。


「間違った。お邪魔します」

 ㇵッとここの住人じゃないことを思い出した。


「おかえり。別にいいよ。気にしないで」

 声がして、すぐに玄関に駆け寄った空翔は優しく声をかけた。空翔は本当は嬉しかった。元カノが自分に会いに来てくれるなんて、友達の少ない空翔にとってはこの上ない幸せだ。夏楓は自分の荷物を取りに来た。前もってまだブロックしていないスマホに連絡来ていた。


「夏楓の物はその箱に入れてたよ」

 丁寧に『夏楓のもの』と名前が書かれた段ボールに指差した。


「ありがとう。助かる」


 少し気まずい空気になって沈黙が続いた。ほかに話すことはなかったかなと頭を振って考えたが、何も出てこなかった。振られた身分で何も進展はないだろうと呼吸をすることでいっぱいだった。


「んじゃ。帰るね」


 段ボールを持ち上げて、あっさりと夏楓は帰ろうとする。呼び止めることも考えたが、手を振ることしかできなかった。空翔は、つくづく自分自身が情けないとソファに置いていたクッションをパンチして悔しがった。キックボクシングでも習おうかなとひらめきが出て来た。何を考えているか自分でもわからなくなる空翔だ。


◇◇◇

青空に泡雲が広がるある日の昼下がり。

お弁当作りが面倒でワンコインランチでも同僚と行こうかと会社から歩いて行ける公園を通りがかりに行くとチワワを抱っこする夏楓と横で笑っている孝俊がいた。目的地は飲食店にも関わらず、どうしてここに来てしまったのだろうと後悔した。


2人の仲睦まじげな様子をばっちり目撃して、これはもう決定打。目を伏せて、あっちに行こうと同僚に指を差して声をかけたが、孝俊に気づかれる。チワワを抱っこして近づいてくる。


「あれ、空翔じゃん」


 孝俊は満面の笑みだった。チワワも興奮して、わんわん鳴いている。夏楓は近づきそうにゆっくりと歩いている。何を話せばいいのか頭が真っ白になる。


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