第10話 サッカー少年の好きなもの 後編

「おにいちゃん、それ違うと思う」


 坂本 樹の自宅にて土御門迅は、黙々とゲームのスイッチを借りて、ゲームをしていた。どうして、ここにいるかというと、樹がやらないといけないことがあり、これをしないと死にきれないという。てっきりサッカーのことかと思ったら、全然違う理由で有名なモンスターを集めてミッションを進んで行くゲームの中での話だった。捕まえたかったモンスターがあり、それを捕まえたくて死んでしまったらできないから代わりにやってほしいということだった。樹の両親はなんでここに刑事の迅がいるのか不思議で仕方なかったが、とりあえずコーヒーを飲んで接待する。


「違うってどういうことだよ」

 ぽちぽちとゲームのスイッチをしながら、独り言をいう迅に樹の母はどうしたらいいものかと台所の方へ逃げた。樹の父は必死でこわがらずに近くて耐えた。


「あ、えっと……刑事さん。樹のことなんですが、いろいろとお世話になりました。助けられなかったとおしゃってましたが、私たちは全然恨んでませんから。気にしないでくださいね」


 樹の父は、きっと助けられなかったことを気にしているんじゃないかと疑っていたが、迅は全然気にせずに樹の指示に従って、モンスター集めに専念した。伝説のモンスターで何度も挑戦しないと捕まえられないらしい。もともとインドア派の迅はゲームをすることに抵抗を感じなかった。むしろ、樹のやっていたゲームを既に全モンスターをゲットして全クリアしていた。ゲームのマスターをしていたため、朝飯前だった。


「あ、いえ。大丈夫ですよ。お気遣いなく……」

「……」

 樹の父はどうしたらいいかわからなくなって、母がいる台所へ行く。


「ねぇ、なんで刑事さんいるの?」

「私にもわからないの」


 迅は、突然両手をあげた喜んだ。集中して3時間。樹が捕まえてほしいというモンスターをやっとの思いでつかまえた。


「な、何してるのかな」

「……」


 両親は震えながら、離れていった。


「おにいちゃん、ありがとう。僕、かなりすっきりしたよ。この伝説のモンスターをゲットできて満足だ。本当にありがとう」


 そういって、迅が最後まで集中してゲームしたため、樹は満足して天国へと旅立っていく。


「……無事、除霊しましたので。ご安心ください。樹くんは天国にのぼっていきました」

「へ、あ、はぁ、そうでしたか。ありがとうございます」

 状況をいまいちわからずに、どうにか納得させる両親だった。迅は、やることはやったと樹の家を後にした。


◇◇◇



 詛呪対策本部にて

 「ちょっと九十九部長、どういうことですか?!」

 

 迅は珍しく九十九部長に食って掛かる。九十九部長は部屋を出ていこうとする。


「だから、証拠がないものだから給料は発生しません。非番でしょう?」

「な、なんで。俺、除霊頑張ったっすよ。どうして仕事として認めてくれないんですか」

「……だって。休みだもの。なんで休みの分まで給料発生するのよ。破産するわよ。こっちだってカツカツなのよ。お店は壊すわ、街の信号機やら、縁石やらなにやらの修理代でかさむのよ?! 知ってた?」

「…………」


 迅は苦虫をつぶしたような顔をして、九十九部長の顔ぎりぎりに寄せた。不機嫌さをアピールした。


「そもそも、あなたが遅刻するから毎回時給制になってるのよ! 本当ならば月給なんだから。日頃の行動を見直しなさいよ!!」


「あーーーーー」


 迅は頭を抱えて膝をつき、発狂した。同じ目線で鬼柳が顔を合わせた。なぜか鬼柳の手には大量のお札が扇子のように持っていた。


「どうかしたか? 迅。何、休みの日までボランティアで除霊したって。徳積んだのか! えらいなぁ……ハハハ」


 鬼柳はえらい王様になったかのように嘲笑った。競馬で一儲けしてかなりのご機嫌だったようだ。


「ちくしょーーー。ここに本物の鬼がいる!!」


 迅は、ズボンのポケットから札を出して、術を繰り出した。バカにされて、腹を立てた。歯止めがきかない。鬼柳は雷の術を使われてもずっと笑っていた。楽しんでいる。傷なんて気にもしてない。そこへ式神の烏兎翔が飛んできた。妖怪でもなんもない人へ違反行為をしたため、迅は手首を後ろにぎゅっと見えないロープで縛られて身動きとれなくなった。


「無能だなぁ、お前は」


 鬼柳は体が黒焦げになっても笑ってつぶやいている。競馬で稼いだお金は燃えないようにとデスクの上にちゃっかり置いている鬼柳だ。


「ちくしょー……」

 唾を床に吐き捨てて、九十九部長にしごかれる迅だった。


 今日は厄日のようだ。空には気持ち悪いくらい不気味な色の満月が光っていた。

 暗闇の中、高い木の上には白狐兎が姿があった。

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