第134話 保護者同伴?
肩で息をする乃花は、いつもと少し違っていた。
薄い青色のワンピース、というのも彼女の可憐さを引き立てていて目を奪われるが、何分俺には女心というものがわからないから、「オシャレしているな」くらいにしか思わない。
女の子に間違われるくせに? とかそういうツッコミが入りそうだが、それはそれだ。
で、問題はなぜ女心のわからない俺が、乃花の姿を見て驚いているかだが――
「髪型、いつもと違うね」
そう。
いつもは長い髪をそのままストレートに流していたり、後ろで括っていたりする彼女だが――今日は、白いシュシュでまとめたサイドツインテールだ。
簡単に言えば、(ちょっと地雷系に見えなくもないギャルの)真美さんとおそろいの髪型である。
「えへへ、そうなんだ」
乃花は恥ずかしそうにしつつ、横にぶら下がった髪の束を撫でる。
風に乗って流れる髪は、まるで秋に見る稲穂のよう。
「ふっふっふ。流石に筋金入りの鈍ちんである翔くんも気付いたね? そうとも! 今日の乃花は私とお揃い! 気合い入れたヘアセットを駅のトイレでしてました! (……まあ、そのせいでバス一本乗り遅れたんだけど)」
「おい」
小声だろうと聞き逃さないぞ?
「ごめんごめん。でもさ、可愛い乃花が見れるんだからいいでしょ? 別に遅刻ってわけでもないんだし」
それはまあ、そうだが。
時計を見ると十時ジャスト。目くじらを立てることでもないから、別にいいのだが――
「で? 翔くん的にはどうなの? 今日の乃花ちゃん、可愛い?」
「ちょ、ちょっと真美ちゃん!?」
顔を真っ赤にして慌てる乃花を華麗にいなし、真美さんは悪い顔で俺に問いかけてくる。
「いや、それは――」
「そういうとこでちゃんと言えるか言えないかで、男としての価値が決まるんだぞ~」
「うぐっ」
そういうズルい言い方はやめてほしい。
別にラブコメがしたくて来たわけではないのだが、そう言われると、何もしないのもそれはそれで決まりが悪いのだ。
「そう、だね……うん、似合ってる。可愛いと思う」
「っ! え、あ……うん。ありがとう」
「…………」
「…………」
お互いなんだか視線を合わせづらくて、俺達は頬を赤くしたままそっぽを向く。
と、視線を逃がした先でパンダに竹でも与えるかのように、串団子を熊猫さんに差し出していた梅雨さんと俺の目が合う。
梅雨さんは、空いた片手でサムズアップして白い歯を見せてきた。
――見世物じゃないんだけどな。
「ていうかさ、今日プールに入るのに。その……いいの? そんなオシャレしてきて」
気恥ずかしさを紛らわすために、俺はしどろもどろに問いかける。
「うん、むしろプールに入るからかな。お化粧とか、プールに入るときには落とさなきゃいけないから、今日はほとんど化粧してないの。だから、その代わりに髪型だけでもというか、カムフラージュというか」
「そっか」
女子って大変だ。
朝起きたら寝癖を直して整髪料を付けるだけで済む男子で良かったと思う。
――。
「さて、そろそろ行くか?」
それから一〇分ほど、お互いが初対面の人もいるために、話をする時間を設けた。
それも一段落つき、英次が俺の肩に手を置いて聞いてくる。
「いや、もう少し待ってくれ」
「? 親睦会はもう十分だろ。このあとプールで遊ぶんだし……って、ああそうか。お前と亜利沙ちゃんは、元々仕事で来てるから用事があるのか」
確かに、それも理由の一つだ。
十時半頃に、一度代表取締役の富田潤沢さんと会い、その後宣伝という形で遊んでいる様子を撮影してもらう。
それが終わり次第、俺と亜利沙は皆と合流して遊ぶ予定だ。
しかし、俺が今「待ってくれ」と言ったのは、別の事情である。
「それもあるけど、まだ1人到着していない」
「はあ、そうなのか。……もう10時とっくに過ぎてるけどな」
「それについてはあまり突っ込めないかな。あの人には、今回の件では頭が上がらないし」
「?」
不思議そうに首を傾げる英次。
と、そのとき。にわかに、辺りが騒がしくなった。
いや、もともと『ダンジョン・ウォーターパーク』に遊びに来ている人でごった返しているから騒がしいのだが、方向性の違う喧噪が辺りに広がったのだ。
「お、おい見ろよあれ!」
「え? うわ、スゲー美人!」
「背高ぇ……モデルか?」
「ちょっとアンタ! なにあたしを差し置いて鼻の下伸ばしてんのよ!」
「え、いや。そんなつもりじゃ!」
……中には修羅場ってる話し声も聞こえてくるのだが、大抵はその人物に骨抜きにされた感想ばかり。
「うお、なんだあのちょーグラマラスな美女は!? もはや彫刻!? って、痛っ! 急に足蹴るなよ潮江!」
隣の英次すら見とれてしまうその人物に、俺も骨抜きにされ――るわけがなく、ちょっと引いていた。
こぼれんばかりの胸を強調する薄手のシャツに、太ももを惜しげもなく曝け出すショートパンツ。そして、ど派手な赤いカーディガン。
サングラスをかけ、どこかエリート女社長めいた雰囲気をだしている美女は――真っ直ぐにこちらにやってくる。
「やぁ、待たせたな少年」
「……何やってんですか、寺島さん」
俺は、呆れてため息をつく。
――「それについてはあまり突っ込めないかな。あの人には、今回の件では頭が上がらないし」――
数秒前、英次に言った言葉は忘れた。
人目を集めて堂々と遅刻をしてきた、ダンジョン運営委員会の支部長こと寺島瑞紀は、サングラスをはずしつつニヤリと笑った。
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