第75話 3人のダンジョン攻略

《三人称視点》


 ――ここで、時間は少しばかり遡る。

 本来来ないはずの南あさりが、なぜ食事会に急遽参加することになったのか。

 そこには、いろいろと事情があった。


――。


 センター・ダンジョンの最寄り駅から、5駅離れた場所にある、小型のダンジョンにて。

 

「ちっ! “ファイア・ランス”」


 “魔術師マジシャン”の必須アイテムである魔杖を構えたまま、梅雨が叫んだ。

 今の彼女は、自身の役職に相応しく、魔女の帽子にやや地味めのデザインである藍色のローブを羽織っている。

 見た目中二病、と言いたいところだが、こちらはどちらかというとハロウィンのコスプレというイメージが強く、どこかの眼帯少女ほどのインパクトはない。


 そんな彼女の視線の先には、カマキリ型のランクB-のモンスター、ケーブ・マンティスが四匹いる。


 そんなケーブ・マンティスめがけて放たれたのは、炎の槍。

 眩い紅炎が槍の形をとり、迫り来るケーブ・マンティスの一匹を穿った。


「“ロック・バレット”!」


 続けざまに、今度は土属性魔法スキルの“ロック・バレット”を起動する。

 魔杖の先端に小さな石のつぶてが生まれ、梅雨の指示に合わせて鋭く飛んで行く。

 

 狙われたケーブ・マンティスは、身を捻って回避しようとするが、それよりも早く石の弾が身体を掠めて片方の羽をもぎ取った。

 飛行能力を失ったケーブ・マンティスは地面に墜落して絶命する。

 

「よっしゃ、あと二匹!」


 が、残る二匹は急に軌道を変え、別方向へ飛んで行った。


「なっ! ――南さん、そっち行ったっす!」


 泡を食った梅雨は、ケーブ・マンティスが飛んで行った先にいる少女へ声をかけた。


「う、うん!」


 梅雨の視線の先にいる南あさりが、レイピアを構えたまま頷く。

 彼女の衣装は、“剣士フェンサー”として使っているレイピアに合わせた、どこか騎士を想起させる西洋風の白い衣装だ。

 ただ、鎧を纏っているわけではなく、装飾が施されたマントなどを羽織った、軽い造りのものだった。


 しかしながら、彼女の明るい性格とのギャップで凜々しく見えてしまうのが、不思議である。


「たぁああああ!」


 あさりは、白く輝くレイピアを振り抜き、迫り来るケーブ・マンティスの一匹を切り裂く。

 月光をその刀身に宿したかのような、鋭くも美しい一閃。

 

 しかし、ケーブ・マンティスもさるもの。

 最後の一匹になっても怯まず、あさりへ鋭いカマを振り下ろす。


「くっ!」


 咄嗟に身を捻ってその一撃を躱すあさり。

 大ダメージは避けられたものの、腕に赤い筋が走った。


「あらあら大変。乙女の柔肌に傷が付くなんて、そんな悲劇はあってはならないわ~」


 不意にあさりの背後からそんな声が聞こえる。

 とたん、あさりの肌に一筋走る切り傷の周りに薄緑色の光の玉が浮かび、逆再生でもするかのように傷が治っていく。

 あさりの後方に、両手の掌を合わせた女性が立っていた。


 目を閉じ、祈りを捧げるかのようにしているのは“回復師ヒーラー”の熊猫パンダだ。

 大学生ゆえに女性らしく発達した身体を覆うのは、シスターの修道服を模した衣装だ。

 

 黒と白の二色で、やや見栄え重視のデザインを取り込まれた修道服の腰紐には、十字架ロザリオが吊り下げられている。が、別に彼女自身は敬虔けいけんなカトリック教徒とかそういうわけではない。

 あくまでファッションの一貫だ。


 そうでなければ、ウィンプル(※頭を覆う、裾長の頭巾のこと)から髪の毛がはみ出さないようにしなければいけないルールを無視して、愛らしいツートンカラーの御髪を見せたりしないのである。

 

 だからこれは、回復=祈り=シスターさん、的なラノベやRPGゲームにおけるイメージを踏襲とうしゅうしたに過ぎない。

 そんな、ゆるふわおっとりパンダ聖女お姉さん(属性がまた一つ追加)の支援を受け、あさりは再びケーブ・マンティスに向きあう。


「ありがとう、熊猫さん!」

「いえいえ~」


 Uターンして肉薄してくるケーブ・マンティスを見据え、南あさりは迷い無くレイピアによる斬撃を繰り出す。


「はぁあああああ!」


 鋭利な刀身を利用した突きは、狙い過たずケーブ・マンティスの腹部を貫く。

 ケーブ・マンティスは断末魔を上げ、黒い霧となって消えていく。

 後には、モンスターの落とした青緑色の魔石だけが残った。

 

 熊猫パンダ、栗落花梅雨、そして――南あさり。

 3人の共同戦線という名の配信コラボが、翔達が撮影を頑張る裏で繰り広げられていた。

 

 

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