一章
1話 異世界召喚(ミス)
気づいたら大きな魔法陣の中央で、ぽつんと一人立たされていた。そんで、壁に背を預けている無能そうな兵士は、寝ぼけ眼を擦りながら俺の方を見ていた。
暫し無言の時間、重たい空気が流れる。しばらくしてから、我に返ったのか兵士は後頭部をカキカキしながら言った。
「え……誰? 夢?」
兵士の金髪の髪の毛は荒れてボサボサ。本来つけるはずの鎧の一部は、苦しいのか脱ぎ捨てられていてリラックスしていた様子だ。
「それはこっちの台詞だ……貴様こそ誰だ?」
周りを見渡すと、古代ギリシアの建築物を思わせるような壮大な柱が乱立していた。大理石のように白く滑らかで、精巧な彫刻が刻まれている。何やら神聖な場所のようだ。
天井は大聖堂の如き高さで、広さ的には高校の体育館ぐらいか。薄暗い空間に禍々しく光る魔法陣だけが、明らかに非現実の世界だと示している。
もしや……俺は一つの可能性が浮かんだ。
「ちょっと待ってくれ、これは……異世界召喚……というものか?」
我ながら間抜けに思うくらい、どこかで聞いたことのあるような台詞だ。
「多分……えぇ……でも本来なら半年後まとめて呼ぶ予定だったハズ……あれぇ」
兵士は、よろけながら立ち上がるとポケットからぐしゃぐしゃになった資料と思われるものを取り出し、広げる。
「まとめて……?」
まさかあの使い古されたヤツなのか。クラスだったり、学校単位で異世界に飛ばされる的な。
じゃあ、なんで俺一人なんだ。それに兵士は資料とにらめっこしながら、一人で慌てたようにウロウロと歩き回っている。俺よりも困惑しているようだった。
「ぅわぁどうしよ……」
兵士は一人でブツブツと呟いている。
「あ〜えっとお兄さん。お名前、クリヤマケージ……であってます?」
「ああそうだが」
なんで知っているんだ。
どうやら、資料に魔術的な仕掛けがあるみたいだった。
「おい、これはどういうことだ。説明しろ」
言ってみるものの、兵士はテンパった様子で、肩にかけたポーチをガサゴソ漁るばかりで、聞いていないようだった。
「……ああ、でもなぁ……」
また、ブツブツと一人喋りだす。
「おいお前! 召喚しておいて放置はないだろう。それに異世界に興味なんぞ無い。早く元の世界に戻してもらうぞ!」
「多分、何かの不具合で半年早く召喚が実行されたっぽくて」
「……?」
「それで、まぁこういう場合さっと処理するのが通例というか、まぁ決まりなんです」
処理……というのは殺処分のことか?
俺は瞬時に警戒体制をとる。こう見えて俺は、空手、柔道、ボクシング、どれも幼い頃一通り習っている。
「あ、でも、お兄さんの場合ちょっとそれが厳しそうで、んで僕もバレたくないんで……あのぉ……」
「なんだ?」
「あの、しばらく門開けとくんで、逃げてください!」
ゴンッと部屋に轟音が響きわたった。
「ああヤバイ。時間ないんで急いでください!」
「は? おい、ちゃんと説明しろ! 俺は何故呼び出されたんだ? それで、能力とやらは何なのだ!?」
「今それどころじゃないんですよ! 見つかったらアナタも殺されるんすよ!?」
「おいっ押すな! 何なのだ、この状況はっ!」
抵抗むなしく、意外に屈強だった兵士に背中を押されるまま俺は部屋を追い出された。
「ああ、何なんだアイツ!」
仕方なく俺は、兵士に言われたまま城のような大きな建物の中を、右、左、右、と走っていく。
なんとも金のかかっていそうな城だった。造りはゴシック建築に近そうだ。大きな柱を支えにアーチ状に木目が連なっている。
ただ、細部を確認する暇は無かった。なんてったって、後ろからとてつもない轟音が迫っていたのだ。正体は不明だが、兵士の焦り的に相当なヤツなのだろう。推察するに召喚装置の稼働が、この城のトップにでもバレたか。
しかし、今の俺には関係ない。状況は全くわからないが、今は生き延びることを最優先だ。
俺は一心不乱に走り続け、2階から降りる裏口の階段を見つけた。幸運なことに鍵はかかっていなかった。俺は、扉を開けるとそのまま階段を転がるように降りた。
本当に異世界に召喚された……それを自覚したのは次の瞬間だった。
「……なんだ、ここは?」
階段を降りた先に広がっていた光景に俺は息をのんだ。城は、街を見下ろすように小高い丘の上にあるようだった。
そして、そこから見下ろして見えた景色は、死ぬほど見覚えのある「異世界」だった。
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