軽音楽部とは関わらないことにしたんで
牧アルミニウム
第0話 祇園祭で出会ったあの子は
俺の初恋は始まると同時に、絶望的な状況になった。
–––––––あれはそう。
高校二年の頃、京都にある母の実家に行くついでに祇園祭に行った時のこと。
京都の中心地は人でごった返していて、俺はそれを避けようと人の少ない方へと移動していた。
観光地だからどこに行っても混んでいるかもしれないとの予想は外れ、喧騒を離れると、意外なほど
道にはしょぼい
そんな道の片隅にあの子が居た。
たった一人楽器演奏をしていたのだ。
抱えるのは日本の伝統楽器である三味線。
路上で演奏する楽器としては、三味線は珍しく思えたし、清楚な雰囲気の少女がたった一人でいるのも違和感があった。
しかし、俺は耳慣れない三味線の音色に心惹かれた。
普段ピアノばかり弾いているからだろうか、和楽器が奏でる日本的なその響きが心地よく感じられたのだ。
立ち止まって聴き入っていると、彼女は俺に微笑みかけてくれた。
すっきりとした顔立ちをしているのに、笑った顔がとても可愛い。
生まれてからこの方、女という生き物に一度もときめいたことなどなかったのに、この時ばかりは心臓が掴まれるような感覚になった。
普段の俺だったら、たぶんそれだけで終わっていた。
だけど彼女と出会ったのは地元ではなく、滅多に訪れることのない都市。
知人に見られることはないという安心感から、俺はいつになく積極的だった。
勇気を出して、三味線の少女に声をかけてみたのだ。
「よく路上で演奏しているんですか」と。
すると彼女は三味線を止め、「今日はただの気まぐれで弾いているだけ」とのことだった。
それから少しばかり会話し、彼女の名前が若菜さんであること、年は俺よりも一歳年上であることが分かった。
そして、とても意外な職業についていた。
「うちなぁ、普段は舞妓してるんやで」
聞いた瞬間は驚いたが、着物姿じゃない舞妓さんと会えたのがすごい体験のように思え、余計に印象的だった。
もっと色々と聞きたいことがあったが、彼女は用事があるからと立ち去ってしまった。
一人になってからも彼女の笑顔が頭の中にちらつき、家に帰ってから舞妓という職業を色々調べた。もし客として彼女が働く店に行ったなら、会えるのではないかと一縷の望みを抱いて……。
しかし、淡い期待は脆くも崩れ去った。
舞妓さんが居るような店は高校生が一人で入れるような所ではなく、金を持った大人が行くような店だったのだ。
それでも諦められず、高校二年まで考えていた音大進学をやめ、猛勉強の末に京都の大学に進学した。
しかし、入学早々こんな洗礼を受けるとは思いもしなかった––––––––––––––––。
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