　伝説（でんせつ）によれば、千年（せんねん）むかし、あるお姫様（ひめさま）が井戸（いど）に異国（いこく）の指輪（ゆびわ）を落（お）としてしまったそうだ。

　姫（ひめ）は、呑（の）んだ物（もの）を返（かえ）せとはげしく井戸をたたいた。兵士（へいし）たちをつかって、大きな声で脅（おど）させもした。

　井戸は地に潜（もぐ）って姿（すがた）を隠（かく）した。

　井戸が地表（ちひょう）に口（くち）を出せば、追（お）ってきた姫が、化物（ばけもの）め指輪を返せとさけぶ。井戸はまた潜る。

　遠い土地（とち）まで潜りつづけ、ようやく口を地面に開（あ）けると、姫が走ってきて井戸に飛びつき、こわい顔（かお）で言う。ゆびわをかえせ！

　びっくりした井戸は、音をたててふたたび潜る……。

　姫の執念（しゅうねん）は衰（おとろ）えない。何年（なんねん）も井戸を追いかけて、つかまえられなかったので、今度（こんど）は一か所で井戸が通（とお）るのを待つ方法（ほうほう）に変（か）えた。

　西の崖（がけ）でいまも銛（もり）をかまえている、あの婆様（ばあさま）のことさ。

　Fino

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