セリフ

「さっきから、ずっと何を書いてるの?」と、僕は立ち上がり彼女のノートに目を向けながら尋ねた。


台詞せりふだよ」と、彼女は僕の方を見ずに答えた。


「あぁ、もうプロットは飽きて、もう小説を書き始めてるのか」


「いやいや、セリフだけだよ!」と彼女は言い、口元に笑みを浮かべながらも、少し眉をひそめた。

「おい、てか『飽きて』って何だよ!」と続ける声に、僕の頭は真っ白になった。


「ああぁあ、ごめんごめんごめん」と、僕は言っていた。

思わず俯き目を閉じた。

ホント余計な一言だった。


「おぅおぅ、どうした?」

彼女は真顔でこちらを見ている。


その視線に気が引けて、取り繕うように意識的にキリっとした振りをして「じゃあ、地の文を僕が少し考えようか?」と提案してみた。


「地の文?」と言いながら、彼女は笑ってくれた。


「うん、台詞以外の部分で、情景とか心情を描写するところ。読者にイメージしてもらうために書くんだって」


「あぁ、ふーん、そうなんだぁ」

彼女はペンをくるくると回しながら視線を落とした。


「……あれ?わかってないでしょ」と、僕は言いながら笑っていた。


「ん?2人で書こうってことだよね」

彼女が顔を上げ、どこか真剣そうな目をして言う。


「あっ、嫌ならいいけど……」


「いいよ、やろうよ。むしろ、やってみたい」と彼女は笑った。


その笑顔に、ほっとした。


僕は彼女の隣に座り、ノートパソコンに空白のページを開いた。

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