女神のリトライ
九戸政景
序章
第1話
「ほんっとうにすみませんでしたー!」
どこかわからない和室で上質そうな着物姿の女の子が目の前で土下座する。頭を下げた事でツヤツヤとした長い黒髪がふわりと浮かび、花のようなお菓子のようなそんな甘い香りが漂った。
見た目は少し華奢な高校生の女の子くらいであり、上げたその申し訳なさそうな顔はとても可愛らしく、綺麗さも兼ね備えたその美貌に俺は見惚れそうだった。
「え、えーと……目が覚めたらここにいたから正直何がなんだかわからないんだけど……」
「そ、そうですよね! えっと、まずここは天国にある神様達の領域の一角で、この和室は私の上司に当たる女神様が用意してくれた場所です」
「神様……って事は君も女神って事か?」
「はい。まだまだ新人の女神で先輩の女神様達にご指導いただきながら頑張っている最中です」
「そうか。それで、ここは天国だって言ってたけど俺は死んだのか?」
女神様は深く頷く。
「はい。ただ、それは私のせいなんです」
「君のせい?」
「その通りです。私、少々そそっかしいというかドジを踏む時があって、その時も頼まれたコーヒーを淹れてきたまでは良かったんですが、あなたの生者としての記録を上司が見ていたところにそれを溢してしまって……」
「そんな簡単に人って死ぬのか……」
「はい、その書類というのは生き物が生きている証明なのでそれが何らかの理由で破れたり汚れたりするだけで生き物は死んでしまいます。生き物というのは実に脆いんですよ。生命としても精神的にも」
女神様は悲しそうに俯く。それにつられて俺も俯きかけたが、ハッとしてから女神様の頬を軽くつねった。
「い、いひゃい!?」
「なんだか良い話風にしてるけど、結局は君がコーヒーを溢したからじゃないか!」
「ひょ、ひょうでふけど……!」
「正直、あのまま生きててもなんも面白くなかったけど、そんな死に方はなんかバカっぽいじゃないか! 生き返るのは出来ないのか!?」
女神様の頬から手を離すと、女神様は頬を痛そうに擦りながら答える。
「む、無理です……」
「なんで?」
「あなたの遺体は交通事故に遭われた事で損傷も激しかったですし、目覚めるまでに既に火葬も済んでいるので魂を戻して生き返らせるというのは無理なんです。そもそも
「その神様達なら出来るのか……」
「はい。生と死を司る課があって、そこの上役達なら可能ですが、先程の理由から生き返らせるというのは無理です。本当に申し訳ありません……」
「そうか……」
俺は俯く。けれど、すぐにある事を思いつくと、俺はガバッと顔を上げ、女神様はひっと小さな声を上げた。
「な、なんですか……?」
「生き返らせるのは無理、そう言ったよな?」
「そ、そうですけど……」
「つまり、他の事なら大丈夫と取っても問題はないはずだ」
「ま、まあ……それ以外の事ならたぶん大丈夫ですけど……」
女神様の言葉を聞いて俺はニヤリと笑った。
「言ったな? それじゃあ叶えてもらうぞ?」
「私に決定権はないので上司に聞いてからにはなりますが……なんですか?」
女神様が心配そうに聞く中、俺は女神様に手を差し出した。
「俺の幼馴染みとして一緒に転生してくれ」
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