夜は短し戦え少年~勇者になった僕は、世界も幼馴染も救う為に頑張っていこうと思います。~

ミミズ師匠

第一部 大切な人を殺す呪い

第一章 勇者の選定、王都での出会い

Episode001 僕と幼馴染

「ふわぁ……」


僕は今日も剣を持って、5月の初旬の朝っぱら、欠伸をしながら村の門の前に立つ。

この仕事に就いてから6年が経過して、今や慣れた門の衛兵。

これがこれが平和なのが災いして全く暇なのだ。

僕――カズチ・イシャクタ、16歳――は村の男で一番強い剣士だから、たまには相手がいないと腕が鈍る気がする。

だからと言って、他の剣士を見下すつもりも、強さに驕るつもりもないが。

しかし、そんな僕の戦いたいという意思に反して、賊も魔物も来ない。

そりゃ平和が一番かもしれないが、こんな調子ではただのニートと一緒である。

他の衛兵たちは「助かる~」って言ってるけど、それもそれでどうなんだか。

どっかの死んだ人を迎える神様が、死んだ人からの「普段暇じゃないのか」という質問に対して「暇なのは皆さんが健康な証拠」と答えたことは有名だが、それとはまた話が違うんだよなあ……。

そんなことを思いながら、僕はまた遠くの山の方をボケーッと眺める。

僕が剣術で強い理由として、敵に敏感なこともある。

だから、余所見をしていても、そんなに問題ないのだ。

その証拠として、一番最後にあった村の剣士の大会では、第一回戦で、相手の初心者剣士を、目を閉じたまま峰打ちで戦闘不能にしてしまった。

さてどうしたらもっと強くなれるのやら……。

そんな強くなったところで、村から出て行くことは全力拒否されて結局無意味なんだろうとは思っちゃうけど……。

将来的には――それこそ、本当なら今くらいの年齢にはそうなりたかったのだが――冒険者として、世界中の強い魔物に挑みたいところなんだけど。

とか思いながらただただ代わり映えのない山々とにらめっこを続けていると。


「カーズくんっ!」

「うわっ!?…ってチノカか」


急に後ろから肩を押されてビックリすると、後ろにいたのは、僕の幼馴染の同い年の少女、チノカ・イズイだった。

彼女は僕の家の隣に住んでる、昔から一緒に時を過ごしてきた……僕の好きな人だ。

まあその……幼馴染だから好きになったとか、そんなありきたりなことじゃなくて、もし同い年じゃなくても、僕はチノカを好きになった自信があるってくらいには、チノカのことが好きではある。

とは言え、もし彼女が僕のことを好きじゃなかったとき、一緒にはいられなくなるかもしれないから、その想いを打ち明けることはまだできてないのだが……。

そんな彼女は、僕の隣でいつも通りの柔和な笑顔を見せている。

その笑顔が僕の鼓動を加速させているということを、彼女は知ってるだろうか……。


「今日もお仕事? 最近私も暇だから、話しに来ちゃった」

「そ、そっか…。僕も暇だったからいいよ」


僕は少しドキドキしながら、隣のチノカの顔を見る。

昔から変わっていない綺麗な焦げ茶色の髪にピンク色の瞳は、やっぱり見つめていると心から安心できるものがある……って、これじゃ変態みたいじゃないか。

ずっと見ていたいけど、まだそう簡単には見つめられないよな……。

それはそれとして、何か話さないとチノカに暇をさせてしまう。

と僕が内心で焦っていると、チノカの方から話題を出してきた。


「そういえば、今日はこの村に王都騎士団の人たちが来るんだって」

「え? あの王都騎士団が?」


チノカが切り出してきた話は、意外にも程があるってくらいの内容のモノだった。

別に、チノカがその手の話をしないという意味ではない。

その王都騎士団というのは、トンデモナイ危機のときにしか動かないと言われている、最強の騎士たちの集団のことである。

そこに入団するには、もちろん実力も大切なのだが、その時になるまで明かされないとある条件をクリアする必要があるとかで、条件を達成できなかった入団希望者は消されてしまうんだとか。

まあ入団条件が未だに世間に流れないから生まれた噂って範囲だから、それが事実ではないことはお分かりであろう。

そりゃ入団できなかった人たちが何もされてないってワケもないのだが、ここは信じるしかないというところだ。

せめて、その命が絶たれていないことは最低限祈っておこう。

……って、話が逸れてしまうところだった。


「なあ、どういう予定で王都騎士団はここに来るんだ?」

「村長さんが言うには、この村に勇者になれる人がいないかって検査をしに来るって。ほら、最近、魔王が復活するかもしれないって話があるから」

「その牽制とか先導をする役のヤツがほしいってところか。……てか、あの王都騎士団が直々に出向いて来るんだな……」

「たぶん、検査のために世界中を行かなきゃいけないってことと、もしその道具が破壊されたり盗まれたりしないようにするためなんじゃないかな?」


確かに、チノカの言う通りである。

それがただの賊じゃなくて、魔王復活を望んでるヤツだったらマズイもんな。

……そう、忘れていたのだが、魔王が復活する兆しが現れ始めていたのだ。

例を挙げるとすれば、森での魔物の出現が増えただとか、やたらと魔力を蓄えた野菜や家畜が育つようになり始めたとか、ってところだ。

あと、どうであれ、王都の一番の占術師が、魔王の復活はそう遠くないみたいなことも言ってたみたいだし。

そういうときに限って、その人が復活のために暗躍してる黒幕ってケースはやめてほしいところではあるのだが。

別に、王都のその占術師が魔王復活を望んでいる者だ、って疑ってるつもりはない。

ちなみに勇者には、血筋や種族などに関係なく、装置に選ばれたのならば誰でもなることができるらしい。

だから、実質誰しもにチャンスがあるってことではあるのだ。


「それにしても勇者かあ……。もしかしなくても、カズくんならなれるんじゃない? カズくんくらいの実力があれば、勇者くらいできるよ」

「え、嫌だよ。だって僕は……いや、なんでもない」


おっといけない、危うく「だって僕はずっとチノカと一緒にいたいもん」って言うところだった……。

そういう告白の方法もアリだとは思うのだが、ありきたりなんだけど、もっとムードのあるところでしたいというのが本音である。

それに、自惚れてるつもりはないのだが、もし本当に僕が勇者に選ばれちゃったとき、僕だって嫌だし、チノカだって離れてしまうことを悲しむだろう。

何だかんだで、昔から僕とチノカは、ずっと2人で過ごしてきたからな……。

これで両片想いじゃないワケがないって?

そんなに世の中甘いはずがないだろう。

そうだって確信がついたときには、迷うことなく伝えたいんだけどね……。

チノカが怪訝そうな顔をしているが、流石にそんな理由を言っていいはずがない。


「……もしかして、私のことが好きだったりするの?」

「……えっ?」


少し気まずい空気の中、唐突にチノカは覗き込むような姿勢で僕にそう問いかける。

こ、こういうときはどうやって反応するべきなんだ……。

実はチノカにそういう感じの質問をされるのはもう何百回目なんだが、こういう入り方でその質問が来たことは今までなかったワケで……。

「い、いや~どうだろなHAHAHA」とか言って受け流すってのはしたくない――というか、後々で絶対に後悔することにしかならない――し、だからと言って他に名案が浮かぶほど僕は嘘が上手ではない。

なんだか目を潤ませるようにして、しかも、彼女の来ている早めの袖なしワンピースからは、ちょうどいいくらいの胸が覗いていて……!


「……えと、えと、その……えと……はい……その……えと……」


……僕は耳まで真っ赤にして、完全に人見知り陰キャみたいになってしまった。

チノカにこういう質問――主に、好きなのかどうか――をされるとき、僕はいつも決まってこうなってしまうのである。

このクセは死ぬまで治らないんだろうなあと、今では諦めているが。

もうこの状態になるのは数えきれないくらいだが、そろそろチノカには呆れられてしまっていないだろうかと心配になる。

でも、……昔からの僕のクセだし。

こんなこと言ったら世間の男たちから怒られるとは思うが、正直言って、そろそろこの反応から答えに辿り着いてほしいと思っていたりする。

そんな感じにモジモジしていると。


「……ごめんね……。ちょっとイジワルだったよね……」


と、シュンとしながら、急にチノカが謝ってきてしまった……。

……今までこんなことあったっけ?

つい最後に似たような状況になったときでさえ、「も~、カズくんはどうしてそうなっちゃうの~?」って笑って話が流れただけだったし、今回まではずっとそんな感じで済まされてきていたはず……。

もしかして、遂に僕の想いに気付いてくれたとか……?

……ああダメだ! こんなこと言うのはメンドクサイヤツってのは分かっちゃいるけど、たとえそうだったとしても、やっぱり僕から想いは伝えたい!

そんなことを思いながら、チノカが何か言おうとしたのを見つけた瞬間。


……どこかからラッパみたいな音が聞こえやがりましたチクショウ。


この音が示していることは、全くその意味を知らない僕ですら分かった。

……南の方を向くと、馬に乗った軽装だが強者の雰囲気を纏っている、様々な形をした剣を腰に携えた者たちがコチラへ向かってきているのが見える。

……どうやら、運命の時が来たらしい。


次回 Episode002 ……勇者検査、引っ掛かっちゃいました(´;ω;`)

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