チートスキル(秋田弁)で異世界攻略

朽木桜斎

第1話 異世界美女が秋田弁を話したら萌える? 萎える?

「ふう……」


 ああ、ため息しか出ない。


 おれはこんな曇天どんてんの下、畑でネギを掘っているのだ。


 いさんで家業かぎょうの農家をいだはいいが、たったひとりでひたすらこの作業は、ただただむなしい。


 畑自体はたかだか5反歩たんぶ(※1反歩はおよそ300つぼだから、5反部はおよそ1500坪です)だが、そこに縦横無尽じゅうおうむじんに生えているネギを、すべてひとりでとなると、つらい。


 仕方なかったんだ。


 アラフォーになるまでプラプラ生きてきて、いまさら就職しようにも、受け入れ先なんて見つからなかった。


 やむなく親父にしごかれながら、就農しゅうのう補助金ほじょきんで農家を継いだものの、肝心かんじんの親父は体を壊して、いまじゃ俺ひとりでこんなことをやっているってわけ。


「はあ……」


 空がどんどんくもってくるな。


 かみなりも鳴ってきた。


 いっそ、俺の頭に落ちてくれ。


 畑で死ねるなら、農家として本望ほんもうじゃないのか?


 俺はネギのやしにでもなるのがお似合いだよ……


 あれ……?


 ドーン!


「マジ、か……」


 俺は落雷らくらいによって、果てた。


 あはは、いいんじゃね?


 こんなもんさ、俺の人生……


   *


「またか」


「は……?」


こんつくたらこんなヘナチョコどごまだまた呼び出して! クレア! んが貴様の魔法はどんつくたらもんだがどうなってるんだ!?」


「えー、フレイン。なへなんでそう思わったー思うの? ちゃんと成功してるんでがーしてるじゃない


見でみれ見てみろ! こんたこんないっぺじゃまこ小柄のオッサンだんでがじゃないか! こんたらもんさこんなヤツに魔王が倒せるとでも思わったが思うのか!?」


「んー、そう言われればー……」


 何を言ってるんだ、この子らは?


 俺は畑で雷に打たれ、死んだんじゃないのか?


 ここはどこなんだ?


 この2人の少女は、何者だ?


 そもそもなんで、秋田弁……?


 2人の少女はよくわからない内容をひたすらしゃべり続けている、秋田弁で……


「あの」


「あん!?」


「ひっ、すみません!」


「ほら、見たことか。どんだげどんだけやちがねえずやダメなんだ、この男。とても魔王どご倒せる勇者さはには見えね見えない


そいだばそんなこと言ったら天下の大剣士フレインから見れば、どんたどんなヤツもヘナチョコだでゃあだよ


 金髪ロングで銀色に光る甲冑かっちゅうまとった少女、フレインというのか――は、バカでかいけんを俺にひらひらとかざしながら、罵声ばせいびせてくる。


 もうひとりはクレアと呼ばれていたか。


 白地しろじに緑色のラインがところどころ入った、ローブ? を着ている。


 先端せんたんがぐにゃっと曲がった、太い木のつえを持っているな。


 ふむ、アニメとかでよく見る衣装いしょうだ。


 さしずめフレインが剣士で、クレアが賢者といったところか。


 俺は夢でも見ているのか?


 まさかマンガの世界に迷い込んだわけでもあるまい。


 さしあたって情報を得なければ……


「あのー、俺は畑で雷に打たれて、死んだはずなんですけど……ここはどこで、あなた方はいったい、どちらさまなのでしょうか? それにさっきから、魔王とか連呼してますけど……」


 フレインはあきれたような顔をして、地面に立てた剣に体重を乗せた。


「ふう、へばじゃあ順番に説明するがらから、ちゃんと聴いでれや聴いてろよ?」


「は、はい……」


 彼女はいかにも重そうなその口を、開いたのだった。


「ここはアキタニア。んがんど貴様らの言葉で言えば、『異世界』になるわけだ。で、このアキタニアはいま、邪悪な魔王ガモチョス支配されつつある。そいどご倒すってそいつを倒すためにおらがだわれわれは勇者どご探しておったったいたんだ


「はあ……」


「んで、こいまでこれまで何人も呼ばったったども呼んだんだけれど、みんなガモチョスやらいでやられてしまったわげだわけだんがも貴様もそのひとりなるわげだどもなるわけだがまんつダメだべなあまずダメだろうなんがみでんた貴様のようなヘナチョコだばなあじゃあなあ


「フレイン、まだ決まったわげでねえよわけじゃないよもしかへばもしかしたらこん人さこの人に抜げるがも抜けるかもへねべしれないでしょ? 聖剣せいけんキャラタンポ」


 話を整理しよう。


 まず、死んだと思った俺は、実は異世界アキタニアへ転移していた。


 そして、このアキタニアは、魔王ガモチョスに支配されている。


 で、聖剣キャラタンポだと?


 パターン的に、それを抜いた者がしんの勇者と見なされるのだろう。


 それで魔王を倒せ、という流れに違いない。


 まるでマンガな話だが、けっこう面白そうだ。


 たいていなら魔王を倒したあとは、仲間の美女とウハウハになると相場そうばは決まっている。


 この2人はなかなかの美人だし、嫁探よめさがしの手間てまはぶける。


 親父もおふくろも、きっと喜ぶ。


 ふふふ、運がめぐってきたぞ。


 農家を継いだのは正解だったのかも!?


「なに、鼻の下のばしてらったるんだ?」


「ああっ、いえ! なんでもありません!」


「ふん、んが貴様もどうせ、いままでの連中と同じごど同じこと考えでらったべ考えてるんだろう? 魔王倒して、ハーレムとかな」


「ぎくうっ!」


聞こえでらど聞こえてるぞ、このほんずなしろくでなし!」


「わあっ! やめてください! そんな危ないもの、りまわさないで!」


「いっそおいわたしが、息の根止めでやら止めてやる!」


「ひゃーっ!」


待ってけれ待ってちょうだい、フレイン!」


「ああん? なしたどうしたクレア?」


まんつとりあえず、聖剣を抜げるが抜けるか、試してからにするべしようよ


「……まあ、んだなそうだな


「話のわかる方がいてよかった。で、その聖剣とやらはどこに?」


そさあるそこにある


「はあっ!?」


 ふかした米をこねて作られる、ねべによく合う、秋田名物の食材に酷似こくじしたデザインの、美しく大きな剣が、すぐそこに突き刺さっていた。


「なんと、見事な……」


抜でみれ抜いてみろでぎるわげねどもなできるわけないけどな


「はあ……」


けっぱってがんばって、勇者候補さん!」


 俺はその剣のつかに両手をかけ、勢いよく引っ張ってみた。


 すると……


「抜けた……」


わいまあ!」


あえーしかなんたることだ!」


 クレアとフレインは愕然がくぜんとしている。


 かくして俺は、選ばれてしまったのだ。


 そしてここから、俺のさほど長くない旅が始まった――


 ……それにしても、この強烈きょうれつな秋田弁はどうにかならんのか?


 俺でもここまでひどくはないぞ。


 せっかく美人なのに、これじゃ半減以下だ……

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