第13話 先回り

 「待ちなさいっ!」

 言ってから、声をかけるのが早すぎたと思った。

 相手の三人の女子中学生は駆け出した。

 距離はまだかなりある。

 しかもあいは走るのが苦手だ。足の速さはクラスでも下から数えたほうが早い。

 三人の女子中学生にどんどん離されていく。

 三人でその白地に水玉模様の大きい傘一つしかないらしい。その下に寄り添うように入って、押し合いながら走って行く。

 そんな三人の女子中学生に愛は追いつけない。ぱたぱたぴちゃぴちゃという自分の足音がむなしく響く。

 ほんとうの全力で走っているわけでもない自分たちに愛が追いつけないと見て、女子中学生たちはおもしろくなったらしい。

 後ろを向いて、スマートフォンを愛のほうに向けている。

 写真を撮っているらしい。

 生温かい雨のなかで、頬の後ろのほうまで熱くなる。

 そんなことをしているあいだに、女子中学生たちの向こうの歩行者用信号が点滅し、赤になった。

 これでまっすぐは逃げられないと愛は思った。

 でも、傘を盗むような中学生が歩行者用信号を守ると思ったのが間違いだった。三人の女子は赤信号の下を走って、横断歩道を渡ってしまう。

 曲がってきたタクシーが急停止し、うるさくクラクションを鳴らした。

 愛は走るのをやめた。

 前の三人はあの大きい傘を後ろに傾けてさしている。だからこちらは見えないはずだ。

 先回りすることにする。

 足が遅いから先には回れないかも知れない。でもうまく行けばふいをくことはできる。

 この箕部みのべ駅前を千幸子ちさこほど詳しく知っているわけではないが、信号に引っかからずに通る道ぐらいはわかっている。

 愛は道の横のスーパーマーケットに入り、入ってすぐの階段を急ぎ足で二階に上がった。

 二階の出口から出ると、そこはさっき愛がいたペデストリアンデッキだ。

 舗装のタイルが滑りやすいので、滑らないように気をつけて早歩きで行く。

 さっきいた場所を通り過ぎ、駅のほうに行くと、下の歩道から上がって来る階段がある。

 もう少し行くとエレベーターがあるのだが、あの子たちはエレベーターを待って、しかも動きの遅いエレベーターで上がって来たりはしないだろう。

 かといって、下の道を通って駅まで行くこともない。下はタクシー乗り場があったりバス乗り場があったりするから大回りしないといけないうえに、暗い。あの中学生たちは、とくにこんな日は下は歩きたいと思わないだろう。

 愛は、階段の後ろ側に、下から見えないようにして立った。

 思った通りだった。

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