第3話

冷たい朝の光がイリスの大地に差し込むと、遥とリーチカは静かに目を覚ました。前日の激闘の疲れがまだ体に残っていたが、二人はその疲労を押し隠し、今日の目的地へと歩を進める決意を新たにした。リーチカの魔力を取り戻すための旅は、まだ始まったばかりだった。

「リーチカ、大丈夫? 無理しないでね。」遥はリーチカの顔を見つめ、心配そうに問いかけた。

「大丈夫。遥がそばにいてくれるから、どんなことでも乗り越えられる気がするよ。」リーチカは微笑み返し、その言葉に力強い決意を込めた。

二人はイリスの大地を進み、神秘的な力の源を目指して歩き続けた。その道のりは決して平坦ではなかった。時には荒れ狂う風が二人を襲い、時には巨大な魔物が行く手を阻んだ。しかし、遥の新たな力とリーチカの知識があれば、どんな困難も乗り越えることができた。

昼過ぎには、二人は深い森に差し掛かっていた。その森は、どこか不気味な雰囲気を醸し出しており、遥は背筋に寒気を感じた。しかし、リーチカはしっかりと前を見据え、迷いなく進んでいた。

「ここが、大地の核心部へと続く道だと思う。」リーチカは静かに言った。「この先にある試練を乗り越えれば、私の魔力を取り戻せるはず。」

遥は頷き、リーチカの後に続いた。二人は木々の間を縫うように進み、やがて神々しい光が漏れ出る場所にたどり着いた。そこには古代の遺跡が広がり、中央には輝く泉があった。

「ここが…。」遥は息を飲んだ。「リーチカの魔力を取り戻すための場所なんだね。」

リーチカは静かに頷き、泉の前に立った。その水面に映る自分の姿を見つめながら、彼女は深呼吸をし、決意を固めた。「遥、ここで待っていて。私が戻るまで、絶対に動かないで。」

「分かった。」遥はリーチカの手を握りしめ、その手の温かさを感じながら力強く答えた。「リーチカ、頑張って。」

リーチカは頷き、静かに泉の中へと足を踏み入れた。その瞬間、周囲の光景が一変し、リーチカは過去の出来事や心の闇と対峙することとなった。彼女の心の中には、多くの恐怖や不安が渦巻いていた。しかし、遥の存在がリーチカに力を与え、その闇を乗り越える勇気を与えた。

しかし、時間が経つにつれ、リーチカの表情には苦悶の色が浮かび始めた。泉の力が彼女を試し続け、その試練は予想以上に過酷だった。リーチカは何度も自分の心の奥底と向き合い、過去のトラウマや未解決の恐怖と対峙するたびに、魔力の回復が遠のいていくように感じた。

泉の試練が終わり、リーチカが泉から出てきたとき、彼女は疲れ果てた表情をしていた。「遥、ごめん…まだ魔力を取り戻せなかった。」リーチカの声はかすれ、絶望がにじんでいた。

「そんな…。」遥はリーチカを抱きしめ、涙をこぼした。「リーチカ、諦めないで。きっと他にも方法があるはずだから、一緒に探そう。」

「ありがとう、遥。でも、どうしたら…。」リーチカの声は震えていた。

「私たちがここまで来たのは無駄じゃないよ。」遥はリーチカの顔を見つめ、決意を新たにした。「イリスのどこかに、きっとリーチカの魔力を取り戻す手がかりがあるはずだから、一緒に探し続けよう。」

二人は再び旅立つ決意を固めた。試練を乗り越えるたびに深まる絆と、新たな発見の希望を胸に、遥とリーチカは前へ進み続けた。どんな困難が待ち受けていようとも、お互いを信じ合い、支え合うことで、二人はさらなる高みへと到達できると確信していた。冒険は続き、いつか全ての謎が解き明かされる日が来るまで、遥とリーチカは共に歩み続けるのだった。


二人は再び旅立つ決意を固めたが、次に進むべき方向が分からず、途方に暮れていた。その時、遥はふと森の奥に淡い光を見つけた。

「リーチカ、あそこに誰かいるかもしれない。行ってみよう。」遥はリーチカの手を引き、光の方へと向かった。

森の奥へ進むと、そこには古びた小屋があった。小屋の前には白髪の老人が立っており、その目には深い知恵と優しさが宿っていた。

「困っているようだね、旅人たちよ。」老人は微笑みながら声をかけた。

「はい、リーチカの魔力を取り戻すために泉の試練を受けたのですが、うまくいかなくて…」遥が事情を説明すると、老人は頷いた。

「なるほど。私はこの森の賢者、エルドと言う。君たちの話を聞いて、何か手助けができるかもしれない。」エルドは小屋の中へ二人を招き入れた。

「エルドさん、どうすればリーチカの魔力を取り戻すことができるのでしょうか?」リーチカは切実な思いで問いかけた。

「泉の試練は非常に厳しいものだ。過去と向き合うことで心の強さを試されるが、君の心にはまだ解決されていない痛みがあるようだ。」エルドは静かに言った。

「では、その痛みをどうすれば…」リーチカの声は震えていた。

「まず、自分自身を許すことだ。過去の過ちや失敗を乗り越えるためには、それを受け入れ、許すことが必要だ。そして、その過程で君自身の真の力を見つけることができる。」エルドは優しく微笑んだ。

「自分を許す…」リーチカはその言葉を噛みしめた。

「それともう一つ、泉の試練には象徴的な意味が含まれている。自分だけでは解決できない問題も、信頼する仲間と共に乗り越えることが大切だ。」エルドは遥の方を見て続けた。「君たちの絆が試練を乗り越える鍵となるだろう。」

「わかりました。エルドさん、ありがとうございます。」リーチカは決意を新たにし、遥と共に再び泉へと戻ることを決めた。

二人は再び泉の前に立った。リーチカは深呼吸をし、遥の手を握りしめた。「一緒に乗り越えよう、遥。」

「うん、一緒に。」遥は力強く答えた。

リーチカは再び泉の中へと足を踏み入れた。今回は遥も共に入り、その手を離さずに進んだ。泉の中で現れたビジョンは、リーチカの過去の出来事を再び映し出した。

突然、ビジョンの中で暗雲が立ち込め、嵐が家族を襲った。リーチカの両親が何者かに捕らえられ、彼女は必死に抵抗しようとするが、力及ばず、両親は姿を消してしまった。幼いリーチカはその場に泣き崩れ、絶望に打ちひしがれていた。

「リーチカ、これは…?」遥は困惑しながら問いかけた。「私の両親は、私が小さい頃に突然消えてしまったの。それ以来、ずっと一人で生きてきた。」リーチカの声には深い悲しみが滲んでいた。

次に映し出されたのは、リーチカが一人で生き延びるために奮闘する姿だった。彼女は厳しい環境の中で、魔力を学び、強くなろうと努力を重ねていた。しかし、その過程で孤独や恐怖、そして自分自身への疑念と戦わなければならなかった。

「私はずっと、自分の力が足りなかったから両親を守れなかったんだと自責していた。だからこそ、強くならなければと必死だった。でも、その過程で自分自身を許すことができなかったんだ。」リーチカは涙を浮かべながら言った。

「リーチカ、君は本当に強いよ。君が今ここにいるのは、その努力の証だよ。」遥はリーチカの手を強く握りしめ、励ましの言葉をかけた。

しかし、今回は遥の存在がリーチカに安心感を与え、彼女は過去の痛みを受け入れ、自分自身を許すことができた。

「大丈夫、リーチカ。君は強い。過去は過去、今を生きる力が君にはある。」遥の声がリーチカに力を与えた。

その瞬間、泉の水が輝きを増し、リーチカの体に魔力が戻ってくる感覚が広がった。リーチカは目を閉じ、自分の内なる力が再び蘇るのを感じた。

試練を終えた二人は泉から出てきた。リーチカの目には新たな力と決意が宿っていた。「遥、ありがとう。君がいてくれたから、乗り越えられた。」

「僕たち、これからも一緒だよ。」遥は微笑み返し、リーチカの手を強く握りしめた。

二人は再び旅立ちの道へと戻った。試練を乗り越えたことで深まった絆と新たな力を胸に、遥とリーチカは前へ進み続けた。どんな困難が待ち受けていようとも、お互いを信じ合い、支え合うことで、二人はさらなる高みへと到達できると確信していた。冒険は続き、いつか全ての謎が解き明かされる日が来るまで、遥とリーチカは共に歩み続けるのだった。


翌日の昼過ぎ、二人はある小さな町に立ち寄った。町の名は「アルカナ」。かつては穏やかで平和な場所だったが、最近は怪物が頻繁に現れて人々を脅かしているという噂が広まっていた。

町に足を踏み入れた途端、二人は異様な静けさに包まれた。通りにはほとんど人影がなく、窓という窓が閉ざされていた。突然、遠くから叫び声が聞こえた。

「助けて! 誰か!」

「行こう、リーチカ!」遥は声の方へと駆け出し、リーチカもすぐにその後に続いた。

二人が駆けつけた広場には、巨大な怪物が暴れていた。怪物は鋭い爪と牙を持ち、町の建物を破壊しながら人々を襲っていた。恐怖に怯えた住民たちは四方八方に逃げ惑っていた。

「なんて大きいんだ…!」遥は驚愕の声を漏らしたが、すぐに戦う覚悟を決めた。「リーチカ、行こう!」

「ええ、やるしかないわね。」リーチカは冷静な表情で、魔力を解き放つ準備をした。

怪物が遥たちに気づき、怒りの咆哮を上げて襲いかかってきた。遥は素早く身を翻し、リーチカと共に攻撃のタイミングを見計らった。

「ファイアボルト!」リーチカは魔力を集中させ、炎の矢を怪物に向かって放った。炎は怪物の皮膚を焼き焦がし、怒りの咆哮が響き渡った。

「私も援護する!」遥は新たに得た力を解き放ち、強力な風の刃を繰り出した。風の刃は怪物の体に深い傷を刻み込んだ。

怪物は怯むことなく、鋭い爪で攻撃を仕掛けてきた。遥はその爪をギリギリで避け、反撃の機会を狙った。「リーチカ、今だ!」

「アイススピア!」リーチカは素早く呪文を唱え、氷の槍を怪物に向けて放った。氷の槍は怪物の脚に突き刺さり、その動きを一瞬止めた。

「これで終わりにする!」遥は全力で魔力を解き放ち、風と炎の融合魔法を使って巨大な竜巻を作り出した。竜巻は火の渦を巻き込み、怪物を包み込んだ。激しい炎と風の力で怪物は苦しみの叫び声を上げ、その巨体が地面に崩れ落ちた。

「やった…!」遥は深い息をつき、安堵の表情を浮かべた。

「無事に倒せたわね。」リーチカも疲労を感じつつも、達成感に満ちていた。

町の住民たちが次々と姿を現し、二人に感謝の言葉を述べ始めた。「本当にありがとうございます! あなたたちがいなければ、私たちはどうなっていたか…」

「大丈夫ですか? ケガをしていないですか?」遥は住民たちに声をかけ、負傷者の手当てを手伝い始めた。

その時、一人の老人が二人に近づいてきた。彼は町の長老のようで、深い知識を持っているような風貌だった。「若者たちよ、本当にありがとう。この町を救ってくれて。」

「私たちができることをしただけです。」リーチカは微笑んで答えた。

「実は、怪物が現れる原因を探っていたのですが、あなたたちの助けが必要です。」長老は深い溜息をつきながら言った。「この町を襲う怪物の背後には、もっと大きな力があるかもしれません。」

「もっと大きな力…?」遥は眉をひそめた。

「はい。」長老は頷いた。「私たちには、あなたたちのような勇敢な戦士が必要です。どうか、この町を助けてください。」

遥とリーチカは顔を見合わせ、頷いた。「もちろん、手伝います。私たちもイリスの平和を守りたいから。」

「ありがとう、若者たちよ。」長老は深く頭を下げた。「まずは、この町の古い神殿へと向かいましょう。そこに怪物の背後にいる力の手がかりがあるかもしれません。」

こうして、遥とリーチカは再び新たな冒険の道を進むことになった。怪物の脅威の背後にある謎を解き明かし、イリスの平和を取り戻すために、二人は力を合わせて困難に立ち向かっていくのであった。

長老に古い神殿へと案内されて、遥とリーチカは神殿の入り口に足を踏み入れた。

神殿の中は薄暗く、年月の経った石造りの壁には朽ちた草木が這い回っていた。遙は不安げな表情を浮かべながらも、リーチカの後に続いて中に進んでいった。

「この神殿は昔、この町の守り神を祀る場所でした。」長老は静かな声で説明を始めた。「しかし、近年になって神殿が荒れ果て、守り神の力も衰えてしまったのです。」

二人は長老の案内で奥へと進んでいく。石造りの床に足音が重く響き渡る。やがて、神殿の中心部へと至った。そこには巨大な祭壇が置かれており、その上には守り神の像が立っていた。

祭壇の前には、地面に奇妙な紋章が描かれていた。遥は目を細め、その紋章を見つめた。「この紋章は一体…」

「ふむ、これは古来から伝わる魔術の紋章だ。」リーチカがすかさず答えた。「おそらく、この神殿に守り神の力を宿す儀式があったのでしょう。」

長老は頷いた。「かつてこの紋章の力によって、守り神は町を守り続けてきました。しかし、いつからか紋章の力が衰え、守り神の力も薄れてしまったのです。」

「では、もしかしたらこの紋章を活性化させれば、守り神の力を復活させられるのかもしれません。」リーチカが提案する。

「でも、それにはどうすればいいの?」遥が不安げに尋ねた。

その時、突然地鳴りが起こり、祭壇の守り神像が揺れ動いた。次の瞬間、像の目から強い光が放たれた。

「何!?」リーチカが魔力の構えを取る。

光の中から、巨大な影が現れた。それは翼手龍を思わせる姿を持つ怪獣だった。

「ムッ!? おまえたちは誰だ!? 私の眠りを妨げるものどもが!」怪獣は低い獣の声で言った。

「あれは…守り神なのか?」遥はたじろいだ。

「警戒しろ、遥!」リーチカはすでに魔力を解き放し、怪獣に対して構えていた。

長老は動転した様子で二人に詰め寄った。「こ、この怪獣こそが、神殿に眠る守り神の化身なのです。しかし、いつからか異常な姿になってしまい…」

「分かりました。私たちがこの守り神を倒します!」リーチカは強い決意を込めて宣言した。

「待って、リーチカ! もしかしたら、この守り神を元の姿に戻せるかもしれない!」遥は言い返した。

「どちらにしろ、この怪獣をなんとかしないと!」リーチカはそう言うと、すでに念動を放っていた。「ファイアボルト!」

怪獣に向かって火の玉が放たれるが、あっさりとかわされてしまう。怪獣は翼を広げ、鋭い爪を振るって二人に襲いかかった。

「くっ!」リーチカは傷つきながらも、立ち直って次の攻撃に備えた。

一方、遥は地面の紋章に目を向けていた。そして、ふと気づいた。「リーチカ! この紋章に守り神を元の姿に戻す力があるかもしれない!」

「本当か!? では、私がこの怪獣を食い止めている間に、早く紋章を起動させてくれ!」

リーチカの言葉を受け、遥は紋章の前に立った。心の中で紋章の力を呼び覚ますよう願いながら、深く瞑想に入った。

すると、紋章が徐々に光り始めた。遥の魔力が反応し、紋章が次第に明るく輝いていく。そして、遥の新たに得た力によって、紋章が満たされた。

「いけっ!」遥は強い決意を胸に宿し、紋章に全てを注いだ。

その瞬間、祭壇の守り神像に強い光が注がれた。次第に怪獣の姿が揺らめき始め、徐々にその姿が変わっていく。

怪獣はうめき声をあげながら、光の中で姿を変えていった。するとそこにあったのは、強大な力を持つ龍神の姿だった。守り神はようやく復活したのである。


祭壇の光が徐々に収まり、遥とリーチカの前に龍神の姿が現れた。龍神は大きな翼を広げ、強大な威厳を放っていた。

「我が名はファリオン。おまえたちよ、我が眠りを覚まし、力を取り戻させてくれた恩に報いん。」龍神の低い声が神殿に響き渡った。

「守り神様、どうかこの町を守ってください。」長老が頭を垂れながら懇願した。「私たちは長い間、あなたの加護を失っていました。」

龍神は静かに頷いた。「分かれり。我はこの町の守護者として生まれついた役目を、永久に全うせん。」

そう言うと、龍神は祭壇の上空に静かに舞い上がった。その巨体から放たれる神聖な光が、神殿全体を優しく包み込んだ。

「守り神の加護を取り戻せたわ。」リーチカは安堵の表情を浮かべた。「おかげで、この町は守られるはずよ。」

「でも、怪物がなぜこの町を襲ったのか、まだ分からないわ。」遥は疑問を口にした。「きっと、もっと大きな力がその背後にいるのでは?」

長老は頷いた。「たしかに心配なことだ。私たちだけでは、その謎を解き明かすことはできまい。」

その時、祭壇の上空を舞う龍神が声を発した。

「おまえたち二人よ。我に従え。その大きな力の正体を、共に探るがよい。」

「守り神様、そうですか?」遥は喜びに満ちた表情で尋ねた。

「昔から語り継がれる預言があった。この町を脅かす大きな暗黒の力に対抗するため、勇敢な冒険者が現れるということだ。おまえたち二人こそが、その預言の冒険者なのだろう。」

龍神の言葉に、遥とリーチカは胸を熱くした。二人は固く決意を新たにし、互いを見つめ合った。

「リーチカ、一緒に行こう。この町を守るため、そして平和を取り戻すために。」遥が力強く言った。

「ああ、もちろん。」リーチカは頷いた。「私たちの冒険はこれからが本当の始まりなのね。」

長老は二人に感謝の言葉をかけた。「ありがとう、若者たちよ。どうかこの町、いや、イリスの平和を取り戻してくれ。」

龍神は大きく羽ばたきを広げると、神殿の上空を旋回し始めた。その姿は、まさに守り神そのものだった。

「さあ、参ろうか。」リーチカが誘うように言った。龍神の背中に頷いている二人は、互いの手を取り合った。

遥とリーチカが勇気を振り絞り、龍神の背中に乗り移ると、龍神は大きな翼を激しく羽ばたかせた。巨大な風圧が神殿に押し寄せ、二人の髪が靡いた。

「しっかりと掴まれ!」龍神が叫ぶと、その巨体が次第に上空に舞い上がっていった。

遥は強く目を閉じ、リーチカの手を更に強く握り締めた。やがて、二人を乗せた龍神の姿が神殿の天井から外の空へとすっと出ていく。

外の空は、澄み切った青空が広がっていた。龍神は大きな羽ばたきで空中を進み、イリスの地平線の向こうへと飛び立っていった。

「行こう、リーチカ。この世界の平和を守るために。」遥は強い覚悟を胸に宿した。

「ええ、私たちにしかできないことだもの。」リーチカも力強く答えた。

二人を乗せた龍神は、果てしない大空を翔けていった。この旅路の終わりが見えないが、新たな発見と成長が待っている。危険な敵や困難な試練が待ち構えていることだろう。だがお互いを信じ、支え合えば、どんな困難も乗り越えられると二人は心から確信していた。遥とリーチカの絆は永遠に続き、いつかこの神秘の世界の全ての謎が解き明かされるまで、二人は共に歩み続けていくのだった。


龍神ファリオンの背中に乗り、イリスの大空を翔けていく遥とリーチカ。二人は待ち受ける冒険に胸を躍らせていた。

「ファリオンさま、私たちはどこへ向かうんですか?」遥が疑問を投げかける。

「おまえたちの勇気に、我も感服しておる。」ファリオンの低い声が響く。「だが、目的地については今の我にもはっきりとは分からぬ。ただ、力の気配に導かれるままに進むのみ。」

「気配? どういうことですか?」リーチカが問う。

「昔から、この世界イリスに暗黒の力が潜んでいると言われている。おそらく、それがこの町を脅かした怪物の源泉にちがいなかろう。」

ファリオンは大きく羽ばたきを広げると、方向を少し変えた。

「その暗黒の力の気配を探りながら飛ぶとしよう。道中で何か分かることがあれば、お教えする。」

「分かりました。」遥とリーチカは頷いた。

しばらくの間、三人は黙して飛行を続けた。遥は下を眺めると、見渡す限りの緑の大地が広がっていた。時折、川が蛇行する様や、小さな町の家並みが視界に入った。

「リーチカ、見て。」遥は感嘆の声を上げた。「こんなに広いんだね、イリスって。」

「そうね。私たちはまだ知らないことばかりなのよ。」リーチカも同意した。

「私の故郷がある限界の森も、あの彼方に見えるかもしれぬな。」ファリオンが付け加えた。

「ファリオンさまの故郷?」

「そうだ。我は昔、あの森の奥地で龍族の一員として生きていた。だが、龍族の過剰な力が危険視され、長い年月を力を封じられてきた。」

ファリオンはしばし沈黙を守ったが、やがて続けた。

「おまえたちに守り神を取り戻させてもらえたのは、龍族の力でもう一度、適切な使い手となれる可能性を与えられたからに他ならぬ。」

「ファリオンさま…」遥は思わず声を詰まらせた。

「だからこそ、私はおまえたちの力になりたい。おまえたちと共に、この世界の真の平和を成そうではないか。」

二人は力強く頷いた。

そうこうするうちに、ファリオンの進路は次第に北に曲がっていった。はるか遠くに、雪に覆われた山々の影が見え始める。

「あれは…」リーチカが眺め遠くを見つめた。

「おお、あの山々は昔から聖なる霊山と呼ばれている。」ファリオンが説明する。「我々はひとまずあの山に向かうそうだ。」

「霊山ですか…」遥は期待に胸を膨らませた。「きっとそこに、何か大切なヒントがあるんでしょう。」

三人の新たな旅路はまだ始まったばかりだった。更なる出会いと試練、そして自らの可能性への挑戦が待ち受けているのだ。遥とリーチカは固く手を取り合い、ファリオンに導かれながら、神秘の霊山へと翼を広げていった。


霊山へと進路を取った一行。ファリオンの背中に乗って数時間が経過した頃、遥が何か気付いたようだった。

「リーチカ、あれは!?」遥が叫び、前方の空を指さした。

そこに巨大な影が迫っていた。ねじれた触手とドラゴンの頭を持つ、奇怪な姿の魔物だった。

「これは危険な気配だ!」ファリオンが身構え、敵の気配に気付いたことがわかる。

魔物は一行に気付くと、獰猛な吠え声を上げて襲ってきた。ファリオンは素早く回避したが、魔物の強力な毒の息が風を切って迫ってきた。

「リーチカ、気を付けろ!」ファリオンが叫ぶ。

「はっ!」リーチカは早速魔法の構えを取った。「ファイヤーボール!」

魔物の巨体に火の玉が命中し、爆発を引き起こした。しかし、その怪物はなかなか傷つかない。

「この程度の攻撃じゃ効かないようだ。」ファリオンが言う。「おまえたちも、気を引き締めるのじゃ!」

「はい!」遥も魔力を解き放った。「ウィンドブレード!」

魔物に向かって鋭い風刃が放たれる。しかしながら、魔物はうねるように身体を翻し、風刃をかわした。

「くっ!」遥は悔しがった。

次の瞬間、触手が一気に伸びて遥を捕らえようとしてきた。ファリオンは素早く回避する体勢を取ったが、リーチカが反撃に出る。

「ブリザーガ!」

氷の魔力が魔物の触手を捕らえ、完全に凍らせた。リーチカはその隙に魔力を高め続ける。

「遥、ファリオンさま!私が魔力を溜めている間に攻撃を集中してください!」

「分かった!」遥は片手でファリオンの背中を掴んだ。「それじゃ私から!ストームインパクト!」

旋風とレーザーが魔物に直撃した。ファリオンもついにその大口を開いた。

「吾が龍の炎よ!」

燃え盛る龍の炎が魔物を包み込んだ。リーチカの魔力も最大まで溜まり、果てしなく強烈な氷の魔法陣が展開される。

「これで終わりっ!アブソリュートゼロ!!!」

魔物の体が氷結し、やがて内部から凍りの衝撃が走った。遥とファリオンの攻撃を受けた上、リーチカの最終奥義で完全に体内から粉々に破壊され、遂に魔物は弾け散って消滅した。

「よくやった、二人とも!」ファリオンが労いの言葉を述べる。「あの魔物は強大な力を持っていたが、おまえたちの連携の素晴らしさに感服した。」

「ですがファリオンさま、私たちだけではあのように強力な魔物に打ち勝つことはできません。」リーチカが言う。「あなたの龍の力があったからこそ倒せたのです。」

「確かに、我の協力もあってこその勝利じゃった。しかし、おまえたちのチームワークなくしてはならぬ。互いに補い合い、高め合うことが大切なのじゃ。」ファリオンは二人に言い聞かせるように続けた。

「おまえたちの力の可能性は無限にあるはずだ。だからこそ、暗黒の力に立ち向かえるのだと我は確信しておる。」

遥とリーチカは頷いた。互いに手を取り合い、ファリオンの背中に凭れかかった。

「頑張りましょう、リーチカ。私たちにしかできないことだから。」

「ええ、遥。私たちの絆を信じて。」

そうして一行は、再び神秘の霊山への旅路を続けていった。途中で遭遇した強敵を倒したことで、お互いの絆がより深まった。今後も数々の試練が待ち受けていることだろう。しかし三人が手を携えれば、どんな困難も乗り越えられると確信していた。

霊山に隠された秘密、そしてイリスの平和を守るための真実が、いつかは明らかになるはずだ。遥、リーチカ、そしてファリオンの冒険は、まだまだ始まったばかりなのだった。


一行は長い飛行の末、ついに神秘の霊山の手前に差し掛かった。ファリオンはゆっくりと高度を下げ、峰々に覆われた雄大な山々の間の平地に降りた。

「ここから先は、我々も地上を歩まねばならぬ。」ファリオンが言った。

遥たちは背中から降り立ち、目の前に広がる雪景色に見とれた。一面の白銀に包まれた大地が、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。

「すごい…。」遥が感嘆の言葉を漏らした。

リーチカも無言で頷いた。ファリオンの足跡が雪に残る中、三人はゆっくりと霊山への入口に向かい始めた。

道中、リーチカが切り出した。「ファリオンさま、この霊山には一体何があるんですか?」

「詳しいことは分からぬ。ただ、この山には昔から、異界への通路があると言われている。それが暗黒の力の正体に関わるのではないかと思えるのだ。」

「異界への通路…」遥はそう呟いた。「でも、私たちは大丈夫なんでしょうか?」

「心配するなよ。」ファリオンが優しく答えた。「おまえたちを守り抜く覚悟はある。どんな危険が待っていようとも。」

その言葉に、遥は力強く頷いた。リーチカも同意した。

しばらく進むと、岩山の間に暗い入口が見えてきた。そこから吹き出す風に、妖しい気配が含まれているのが分かった。

「ここから先が霊山の入口じゃ。そして、おそらく異界への通路もこの奥にあるのだろう。」ファリオンが言った。

「分かりました。どんな困難が待っていようとも、乗り越えていきましょう。」リーチカが力強く宣言した。

遥もファリオンの手を取り、決意に満ちた表情で頷いた。

三人はそうして、イリスの平和を守るため、霊山の入口を潜った。異界への通路が何を隠しているのか、未知なる世界が待ち受けているのか。しかし遥とリーチカには、ファリオンという強力な味方がいた。新たな冒険が始まろうとしていた。

三人の旅路はこれからが本当の幕開けなのだった。険しい道のりが待っているかもしれないが、お互いを信じ、高め合えば、きっと乗り越えられると遥たちは確信していた。イリスの平和を守り、全ての謎を解き明かすため、三人の冒険は果てしなく続いていく。

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