002.聖女、ガチャを回す

「どうせ決まらぬのなら一度セラフィナにスキルを使ってみさせればよかろう」


 アレクシス殿下は貴族たちに向けてそう言いました。一瞬、静けさに包まれた大聖堂でしたが、すぐにマルケス公爵様がアレクシス殿下を睨みつけます。


「困りますな殿下。もう少しでセラフィナ嬢にはスキルを使わせないようにしようと話がまとまるところでしたのに勝手なことを申されては」


「そうだったか? 余にはそうは映らなかったがな。それにそこまで一スキルの危険性にこだわっているのがわからん。そこまで王国が貧弱だというのか?」


「そうではありませぬが……」


「なら問題なかろう。それともマルケスはたかがスキルに怯えているわけではあるまいな?」


「まさか。そんなことはありませぬとも」


「であればこの話はしまいだ。セラフィナにスキルを使わせるのは決定とする。文句は言わせない」


 あれよこれよという間に私がスキルを使うことは決定してしまったみたいです。先の貴族たちもそうでしたがなぜ私のスキルなのに私に決定権がないのかが疑問です。そう思いませんか?


「セラフィナよ。ガチャとやらを使ってみよ」


 おもちゃを見つけたような目で私を見つめています。ああそうでした。アレクシス殿下はそういう人でした。決して私が困っていそうだから助けた、とか、そういうことではないんですよね。ただ面白そうだからそうした。ただそれだけなんでしょう。


「どうした? はやく使ってみよ」


「……わかりました」


 腑に落ちない気持ちになりながらもなんとか返事をします。ため息をつかなかった私を誰か褒めて欲しいところですね。


 まあ、私もガチャを回したいと思っていたところなので渡に船ではあります。むしろ回せ回せと衝動が押し寄せてきています。心を乗っ取られたみたいで少し怖くなりますね……。ちなみにガチャを回すとはガチャスキルを使うということと同義のようです。なぜかは知らないですがそのような知識がいつの間にか私の中にありました。


「ガチャ、オープン」


 そのつぶやきとともに目の前に空中に浮かぶ光のスクリーンが現れました。そのスクリーンにはさまざまな道具や武器、そして人や亜人のようなモチーフのデザインが施されていて、その中央には〈単発回す〉、〈11連回す〉と書かれたボタンが設置されています。その上にはでかでか初回単発UR以上確定と文字が浮いていました。


 周囲がまたザワザワと騒ぎ始めます。この画面は皆にも見えているみたいです。あ、アレクシス殿下がスクリーンに触ろうとしたところを透過してこけそうになりました。いい気味です。


「……これがガチャの力なのか?」


「いえ、違います。ここからガチャを回します」


「ガチャを回す?」


「はい。ガチャを回すとはガチャスキルを発動するという意味に捉えていただければ良いかと思います」


 右上には〈善行ポイント〉なるものが書かれていて、100ポイントだけ貯まっているようです。そして単発ガチャを回すのにもちょうどこの〈善行ポイント〉を100ポイント消費する必要があるみたいですね。きっとお試し用に神様が用意してくれたんでしょう。本当は1000ポイントで11連を回す方がお得のようですけど、今は100ポイントしかないし、単発UR以上確定?らしいので躊躇わず回します! さっきから腕がうずうずしてくるのでいいですよね?!


「回します!」


 私は〈単発回す〉のボタンを押しました。


 すると夜空のような背景に無数の星々が輝き始めます。観衆が息を呑むのも束の間、星々の間を一筋の流星が現れ、その流星が落ちた場所から金色のカードのようなオブジェクトがくるくると回りながら現れます。


「何が起きているんだ?」


「あの珍妙な画面から星が落ちてきたぞ」


「災いが降ってくる! やはりスキルを使わせるべきではなかったのだ!」


 観衆がうるさいです。マルケス公爵様が声を上げると、その取り巻きがあれよこれよと騒ぎ立てます。アレクシス殿下やロドリゲス様もどこかそわそわした様子で演出を見ています。私もガチャから何が出てくるのか今からワクワクしています!


 そうしている間にもカードのようなオブジェクトは回転を止め、ボンっと小さな音を立てて金色から虹色にその色を変えました。これは……昇格演出というやつですね。いきなり見れるのはラッキーです!


「これがガチャの結果です!」


 手に取った虹色のカードの表面にはメイド服に黒い羽を生やした女の子のイラストと「メイド魔公爵 リリス・ノクティア(LR)」という文字がかかれていました。


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