第19話 治癒魔法の取得

「むう、まさか暗殺を企てられたとはのう」

 

 俺はトン爺に先ほど起こった事について報告をしていた。


 トン爺は顎に手を当て考えながら、俺の話を聞いている。

 

 まあ実際自分でも信じられないけど、事実だ。

 

「一体誰が俺を殺そうとしているのか、分からないと怖くて眠れないぞ」

 

 俺の考えはどんどん悪い方向へと向かってしまう。


 そんな俺にトン爺は話しかけてくる。

 

「王族は暗殺がつきもの、覚悟はしていたはずじゃ」

 

 まあ確かにそうだが、いざ自分が狙われると恐怖で体が震えるのだ。

 

 俺はそんな自分が情けなかった。

 

 するとトン爺は俺の肩に手を置き、優しい口調で話し始める。

 

「お主はもう魔法を使えるようになった、だから自分の身はもう守れるんじゃよ」

 

 俺はトン爺の言葉を聞いて少しやる気を出す。

 

「よし、もう切り替えないとな。もし次に襲撃されたとしても返り討ちにすればいいんだしな」

 

 俺は自分を鼓舞させながらそう言う。

 

「うむ、その意気じゃ」

 

「それじゃあトン爺、少し教えて欲しい魔法があるんだが」

 

「ほうほう、どんな魔法じゃ?」

 

「治癒魔法だ」

 

 俺はそうトン爺に言う。


 俺は数週間後に始まる学園生活に備えて、治癒魔法を覚えたいと思っていた。


 もし誰かが大怪我をした時に、俺が治せれば救える命が増えるからだ。

 

「治癒魔法か……それはちと難しいかもしれんのう」

 

「どうしてだ?」

 

「何せ魔力の消費が激しい上に、制御が難しいのじゃ。今まで習ってきた魔法とはまた違った技術が必要じゃ」

 

 トン爺の話に俺は頷く。

 

 俺の中で、治癒魔法=上級魔法と考えていたせいもあり、簡単そうに思っていたのだがそうでは無いみたいだ。

 

「それじゃあ習得は難しそうだな」

 

 俺がそう言うと、トン爺は首を横に振る。

 

「習得は出来るんじゃろう、ただ魔法の適正もあるしのう、お主の場合1日1回が限界じゃ」

 

「1日1回でも使えるだけ十分だ、是非俺に治癒魔法を教えてくれ」

 

 俺はそう言って頭を下げる。

 

「うむ、では治癒魔法について少し説明しよう」

 

 俺がそう頼むと、トン爺は椅子に座りながら話し出す。

 

「まずはここにある花、この花はヒーリングローズと呼んどるんじゃが、よく治癒魔法の練習に使われるんじゃ」

 

 ヒーリングローズ。


 魔法の実験でもよくつかわれるらしいが、ちゃんと見るのは初めてだ。


 見た目は鮮やかな赤色のバラの花と似ている。

 

 そしてトン爺は花を手にとって、俺に見せながら話しを続ける。

 

「今からヒーリングローズに治癒魔法をかけるからよく見ておれ」

 

 そう言ってトン爺は治癒魔法を唱える。

 

《ヒール》


 その瞬間、ヒーリングローズがみるみると花びらを伸ばし始めた。

 

 それと同時に花びらから光る粒子が上がり、俺の体に纏わりついてくる。

 

 すると驚くことに、体にあった痛みが消えていくのを感じた。


 どうやら俺はトン爺に治癒魔法をかけられたみたいだ。

 

「今は少し『ヒール』を掛けすぎたから、余った粒子がお主の体に定着しておる。だから少しだけ体の痛みが治ったじゃろ」

 

「す、凄いなこれは」

 

 俺はトン爺の言葉を聞いて感動を覚える。

 

 治癒魔法をかけられるというのはこんなにも気持ちがいいものなのか、そう思ってしまう。


 それにしても、こんな凄い魔法をトン爺は顔色一つ変えず唱えている。

 

 流石は元賢者だ、俺はトン爺に尊敬の眼差しを向ける。

 

「どれ、ロランも《ヒール》を言い、ヒーリングローズに魔法をかけるんじゃ」


「分かりました」

 

 俺はトン爺の言葉に頷き、ヒーリングローズを手に持つ。

 

《ヒール》

 

 そう唱えるが、何も起きない。

 

 だが俺は諦めずに、ヒーリングローズを優しく握りながら再び唱えた。

 

 だがやはり、ヒールの魔法をいくら唱えても変化がない。

 

「少し気持ちを変えてみるといい。この花に魔法をかけるのではなく、この花を助けるという気持ちで」

 

 俺はトン爺の言葉にハッとする。

 

 確かにトン爺の言う通りかもしれない。


 俺はヒーリングローズに魔法をかけるという気持ちが先行してしまい、花を助けるという思考が欠落していた。

 

 トン爺に教わったように、ヒーリングローズの命を救うというイメージを持って、もう一度ヒールを唱える。

 

 すると目の前のヒーリングローズはみるみると咲き乱れていき、美しい大輪の花へと変貌を遂げた。


 光の粒子が少しずつ、大輪の花にまとわりついていく。

 

「はぁ、はぁ、出来た」

 

 俺はそう呟きながらも、目の前のヒーリングローズを見て感動する。

 

 だがその喜びを噛み締めると同時に、疲労感が襲ってくるのを感じた。

 

 どうやら《ヒール》で魔法を使いすぎて魔力が枯渇したようだ。

 

 しかし初めてでここまでの魔力消費とは、やはり治癒魔法は相当魔力を食うようだ。

 

「流石はロランじゃ、まさかたった数分で《ヒール》を成功させるとはのう」

 

 トン爺はそう言いながら俺を褒めてくれる。


 だが俺からすれば、的確なアドバイスで教えてくれたトン爺こそ流石だと言いたい。

 

 俺は息を整えてから立ち上がる。


 疲労感はあるものの、治癒魔法をしっかりと覚えられた。


 明日からは少しでも《ヒール》が使えるように自主練だな。


―――



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