第48部 4202年48月48日
彼女は珈琲屋での仕事を辞めてしまったらしい。
どうして辞めたのかと尋ねると、必要がなくなったからだと彼女は答えた。
「必要がなくなったから?」僕は訊き返す。
「sou」
「どんな必要?」
「iroiro aru kedo, ichiban wa okane」
「お金?」
「kimi mo, sorosoro koko ni wa akite kita koro na n ja nai ?」
「え?」
僕は背後に歩いていった彼女の方を振り向く。彼女は冷蔵庫の扉を開けると、何やらごそごそやっている。
たしかに、ちょっと別の所に行きたい気持ちはあった。しかし、そのことを彼女に話したことはない。それどころか、自分でもそのことについて具体的に考えたことはなかった。
「引っ越すために働いていたの?」
「sore ga subete de wa nai kedo」そう言って、彼女はこちらに戻ってくる。僕の対面の席に着いた。いつもとは僕と彼女の位置が反対だ。「demo, okane o eyou to shita ookina mokuteki wa, sore」
彼女はテーブルの上に白い箱を置く。彼女がそれを開くと、中からショートケーキが二つ出てきた。最後の仕事ということで、退職祝いに貰ってきたらしい。
「引っ越すって、どこに引っ越すつもり?」
「mada kimete inai yo」彼女は僕の前にケーキを差し出した。自分も透明のフィルムを剥がして食べ始める。「kimi wa ? doko ni ikitai ?」
改めて問われると、すぐには思いつかなかった。ぼんやりとこことは違う所に行きたいと考えていただけで、目的地は定まっていない。
「君はそれでいいの?」僕は彼女に尋ねる。
「kikanakutemo wakaru yo ne ?」彼女は首を傾げた。「watashi mo, kimi to onazi na n da kara」
僕は彼女を見つめたあと、頷いた。
「この家は、しかし、移動することができるはずだよ」僕もケーキを食べることにする。スポンジにフォークを刺すと、想像以上に柔らかい感触が伝わってきた。「家ごと移動するつもりじゃないの?」
「dochira demo. ie no gaisou o kaete mo ii shi」
「行きたい所といえば、火星かな」
「sore wa hitori de katte ni douzo」
「でも、海がないのは嫌かもしれない」僕は提案した。「あまり遠くではないけど……。海の傍でいい所がないか探してみよう」
僕がそう言うと、彼女はフォークを掲げたままにっこりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます