第36部 4202年36月36日
目が覚めて窓の外を見ると、一面が海になっていた。この光景は、いつか見たことがある。たしか、前にも同じような状況に遭ったことがあるはずだ。それがいつのことなのかは、覚えていない。現実だったかもしれないし、夢だったかもしれない。
眼下の水面に木造の小さなボートが浮いている。それを見つけて、僕は窓を大きく開けて、そこからボートの上に飛び降りた。
パジャマのままだったが、気にしないことにした。しかし、風が冷たくて、すぐにそのことが気になり出す。上着を羽織ってくれば良かったかもしれない。
オールを漕いで、海の上を僕は滑った。眼下に海底に沈んだ街が見える。なぜ僕達の家だけ無事だったのかと考えたが、分からなかった。もしかすると、彼女の魔法かもしれない。
「sou da yo」と背後から声がした。僕はそちらを振り返る。
白いドレスを身に纏った彼女の姿があった。彼女は、ボートの上に乗っているのではなく、海面の数十センチ上を浮いている。ボートよりも上の位置だった。
「どんな魔法?」朝の挨拶を省略して、僕は彼女に尋ねる。
「watashitachi no ie o umi ni ukaberu mahou」
「随分と細かい魔法だね」
僕がオールを漕いでボートを進めると、彼女もその後ろからついてくる。
「その格好は、どうしたの?」
「sakki tsukutta」彼女は答える。
「それも、魔法で?」
「kore wa, tenui」
「どうして?」
「tokeru to komaru kara」
「自分で解こうと思わなくても、勝手に解けてしまう魔法なの?」
「tokeru you ni shite aru」彼女は説明する。「watashi ga shinde mo mahou ga tokenai to, komaru kara」
「自分が死んだ後のことなんて、心配してもしょうがないよ」僕は言った。「それに、君は死ねる身体なの?」
「shinde minaito wakaranai」
突然、ボートの体勢が崩れ始める。何事かと思ってボートの外に顔を出して下を見ると、みるみる内に海水が減っていくのが分かった。
「sorosoro, mahou ga tokeru koro」彼女は言った。「okkochiru mae ni, hayaku okiru koto da ne」
そこで、僕ははっとして目を開く。
僕は、いつの間にか屋根の上に横になっていた。
すぐ傍にボートがある。
そして、人影。
顔を上げると、にっこりと笑った彼女がいた。
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