第29部 4202年29月29日

 真理とは何か、と僕は問うた。問う相手はもちろん一人しかいない。自分だ。声に出して問うたから、その問いが空気の振動となって、僕の耳に入ってくる。しかし、これは意味がない。声に出す前から問いは問いとして成立している。声に出すことで、むしろタイムラグが生じるといえる。


 声に出すことで、相手に聞かれる、といったデメリットがある。この場合も、例に漏れず、僕の問いは対面に座っている彼女に聞かれてしまった。しかし、最近明らかになったことだが、彼女と僕は同一人物らしい。外形的には二つに分かれて見えるが、実際には一つのようだ。これは、僕が物事を考えるときに陥りやすいパターンだった。また、僕が物事を認識するときに陥りやすいパターンでもある。


「nani, to wa, douiu imi ?」


 彼女が応答した。これは、彼女がやりがちなパターンだ。頭が回っていないのだろう。


「そのままの意味」


 僕も、やはりやりがちな返答をする。しかし、頭が回っていないと思われるのは癪だから、百八十度ほど物理的に回しておいた。おかげで、彼女は僕の背後に移動してしまった。これは、地動説に基づいた考え方になる。


「真理を知りたいと常日頃から願っているけど、そもそも真理とは何だろう?」


「naze, sinri o shiritai no ?」


「つまり、それさえ知れば、あとは何も考えなくてよくなるから、じゃないかな。どんなことが起こっても、唯一不変のルールに基づいて考えればいいわけだ」


「sore tte, tanoshii ?」


「楽しい、楽しくないかに関係なく、安全だ」


「anzen tte, tanoshii ?」


「楽しい、楽しくないかに関係なく、安全」


「shikashi, kekkyoku no tokoro, ningen ni totte, mottomo daiji na no wa, tanoshii ka, tanoshiku nai ka, ja nai ka na ?」


「真理を求める心も、それに基づいている、ということ?」


「kimi, ima, “motozuite iru” tte, nankai itta to omou ?」


「三回」僕は答える。


「zannen」彼女は言った。「ikkai deshita」


「真理は、しかし、絶対に分からないから真理なのかもしれない」僕は言った。「真理とは何かと考えて、答えが出ないというのも、また真理かもしれない。こういうふうになら、真理とは何かということの答えを得ることができる」


「aho kusa」


 と彼女は口にしたが、僕はそんな名前の雑草は知らなかった。新種だろうか。

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