ぐれい、すけいる。

羽上帆樽

第1部 4202年01月01日

 温かな兆しを覚えて、僕は薄暗闇の中目を覚ました。布団の中、すぐ隣に寝息を立てる彼女の姿。ゆっくり起き上がると、毛布が一緒になって持ち上がり、彼女の四肢を冷たい空気に晒してしまう。それを察知したのか、眠っている彼女が少し顔を顰めた。僕は自分だけベッドの外に出て、再び彼女の上に毛布をかけ直す。


 振り返ると、窓があった。その前にカーテンが引かれているのに、向こう側に窓があると分かるのは、カーテンの向こう側には窓があるものだという一般的な知識と、過去に彼女の部屋に入ったことがあるという僕の経験と、カーテンの向こう側には窓があってほしいという僕の願望による。部屋の中を歩き、カーテンの端を掴んでそっと捲ると、その向こうには窓があった。その先には太陽の昇りかけた街並みが見える。


 軽く伸びをする。


 どのくらい眠っていただろう。


 一度部屋を出て、トイレに行ってから、もう一度部屋に戻ると、彼女が起きていた。


「ohayou」と彼女は言った。


「起こしてしまった?」僕はわざとらしく応じる。


「ima nanji?」


「さあね」僕は彼女の隣に腰を下ろす。「目が悪いから、ここからでは見えないよ」


 沈黙。


 僕の隣で一度大きく欠伸をしたあと、彼女はじっとこちらを見る。見つめられていると分かっていたが、僕はすぐには彼女の方を向かなかった。十秒ほど経過して、ようやく僕はそちらに目を向ける。


 彼女の綺麗な目に、僕は吸い込まれそうになった。


 横になっていたせいで乱れ気味の髪が、頬に、首に、へばり付いている。


「何?」僕は彼女を見たまま尋ねる。


「okiru? nemuru?」


「どうしたい?」


「nemuru」


「あそう」


 僕は毛布を掴み、それを大きく靡かせて、自分と、それから、彼女の身体にかけ直した。その動きに合わせて彼女もまた横になる。


 横になってからも、彼女に見つめられた。


 明らかに見られている。


 僕は何も言わない。


 やがて、彼女は目を開けたまま眠ってしまった。


「目が開きっぱなしだよ」耐えきれなくなって、僕は言った。「大丈夫?」


「mada nemutte inai kara」そう言って、彼女は僕の方に腕を伸ばす。「dakishimete」


「なぜ?」


「寒い」


 僕は言われたとおりにする。


 彼女の言ったとおり、そうするとたしかに温かかった。


 彼女とそんなふうに眠ることは、僕にとっては日常で、だから、時々そのことのありがたみを忘れてしまう。彼女はどうなのだろう。そのことについて、彼女にきいたことがあったかもしれないが、もう忘れてしまっていた。


 今日一日をどう過ごそうか、と僕は考える。


 考えている内に、今日が終わりませんように。

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