第10話 ケーキ作りに挑戦ですわ

「おいしい! 賄い炒飯美味しいですわ!」

「もっもっもっもっもっ……」


 あれだけ食べて炒飯普通に食べてるラビの隣で、裏メニュー堪能。ソフィアの実家とかアビス様のお城で食べてる豪華なご飯もおいしいけど、やっぱこの庶民的メニューの味が愛しい……! 前世の記憶をうっすら思い出し始めるとどうしてもね。あんま時代考証うるさくない、ゆるファンタジー世界万歳!


「皿は弟子達が片づけるから流しに置いといてくれブヒ」

「はーい」

「「「「「「「「「「「おまかせくださーい!」」」」」」」」」」


 私よりも素早くご飯を搔きこんだ子豚ちゃん達が、チャカチャカ食器を洗っていく。そのそばで、料理長さんが泡だて器とボウルを用意。


「まだ料理するんですの?」

「いや、夕食のデザートを先に作っておきたいんだブヒ。魔界イチゴのケーキはすぐには作れないブヒからね」


 ケーキ……。アビス様の好物だって、ちっちゃな女の子三人組が言ってたっけ。


「それ、手伝わせてもらったらダメかしら? 普段食べられない賄い料理作ってもらったお礼もしたいですし……」 

「あんた、お菓子作りの経験は?」

「うっ……授業でクッキー作ったくらいかも、ですわ」


 サン王国の学校でもその程度、前世の記憶はアビス様絡みの事以外ぼんやり気味だけど、多分大差なし。そもそもこういうプロの場に出しゃばったらダメよね。アビス様の大好物、って聞いたから作れるようになれたらって思ったけど……ケーキって明らかに初心者には難易度高いし……!


「うーん、それだとちょっと厳しいブヒね。でもまあ……俺が見てれば大失敗とは行かないだろうし、たまのデザートくらいはアンタが作った方がアビス様も喜ぶブヒ」

「えっ?」

「アンタが来てから「ソフィアが昨日の夕食であのメニューを喜んでいたから積極的に取り入れてくれ」とかアビス様からの細かい注文が増えたブヒ。それが仕事だから構わないブヒが、今まではこっちに全部お任せで満足してくださっていたから、大した変化ブヒ」


 えっ、そんなに細かく気を配ってくださってたの!? お客さんだからだろうけど、嬉しいなぁ。


「それならアビス様へのお返しも兼ねて頑張らなくちゃ!」


 〇


「う、腕! 腕がぁ~~」

「初めてにしてはよくやったブヒ」


 数時間後。令嬢な事も忘れてうめく私がそこにいた。お菓子作り、きっつい! ひたすら混ぜる、混ぜる混ぜるだし、文量間違ったら失敗するし! お堅いゲームではなかったとはいえ、流石に電動泡だて器まではない世界観だから全部手動っていう……。


「そうそう、お菓子作り一番大変!」「煮物とかと違って大ざっぱにいかない」「パティシエと料理人で別の職業なのもわかるよねー」「両方できる料理長はすごい!」「シェフにおまかせー!」


 台所の端っこで、おイモの皮を剥きながら見守ってくれていた子豚ちゃん達もブウブウ共感。でも彼らも、簡単なお菓子くらいならみんな作れちゃうらしい。料理長の教えが上手いのね……私も大失敗は免れたし。スポンジがイマイチ膨らまなかったけど。クリームを塗るのも飾りつけも案外難しくてなんか不格好……。プロのパティシエさんってすごいなぁ。


「試食してみるブヒ」

「う~~ん、なんかちょっとダマっぽいですわ……」

「ハムハムハムハム……そんな悪くないウサよ」


 なんでもおいしいラビは褒めてくれるけど……。


「これはちょっとアビス様には出せないかしら」

「何が俺様に出せないんだ?」

「うっひゃあぁあああ!」


 振り向けばアビス様。まだおやつの時間ってくらいでお帰りには早いと思うのだけど。


「今日は早く戻れたので、何か軽食を貰いにきたのだが……何かあったのか?」

「別に、アビス様の客人の女が、アビス様の為にケーキ作ってただけブヒよ」


 言っちゃうの!? そこは「料理人としてこんなものは出せない!」って却下する側では!? うう……こうなったら腹をくくるしかないか。


「はい、アビス様に食べてほしくて作ってたんですけど……ちょっと失敗しちゃって」

「これがそうか」

「はい……って、」


 アビス様は自分でケーキを切り分けて、パクッと豪快に手づかみで行ってしまった。意外とお行儀悪い摘まみ方もするんだ……。カワイイ……結構子どもの頃からつまみ食いの常習犯? とか推しを観察してる場合じゃない、変なもの食べさせちゃった!


「いやいやそんなの食べなくても! 料理長がいくらでもおいしいもの作ってくれるし──!!」

「ん? このケーキはとても美味いぞ? それに、懐かしい味がする。母上が初めて作ってくれたケーキの味だ」


 アビス様のお母さん?


「初めての試みだからあまり上手くいかなかったと、母上も言っていたが……子どもの頃の俺様は、母上の作ってくれたケーキが、とても嬉しかった。これも同じ味がする」


 そう言って、アビス様はニッコリと私に微笑みかけてくれた……。ああ……好き! やっぱりこの小さな男の子みたいな笑顔、好きぃ! 差分なかったゲームと全然違うぅ!!!


「俺様はまだ部屋でやる事があるから、これはおやつに貰って行く」

「あ、アビス様!」


 私の制止も聞かず、アビス様は大皿ごとケーキを持って行ってしまった。


「あんなでっかいケーキの塊持って行っちゃうアビス様、欲張りウサ」

「違うわよ。アビス様の優しさだわ」


 一緒にケーキを味見したのに、名残惜し気にアビス様の背中を見送るラビのほっぺをポヨポヨしながら、私はアビス様の背中が見えなくなるまで見送るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る