第55話 番外編2(優愛編)

*一縷を保護する前の話です。


 時刻は深夜の二時を回ろうとしていた。


 一縷は家族から集団リンチにあっている。一刻も早く救助しなければ、あの世に旅立つこととなる。


 いてもたってもいられなくなって、おでかけ用の服に着替える。精神が乱れているのか、シャツは地面に乱雑に投げ捨てられていた。


 階段を降りようとしたとき、おかあさんに呼び止められた。 


「優愛、どうしたの?」


「一縷が殺されちゃう。私が早く助けに行かないと・・・・・・」

 

 ご飯を食べられないだけでなく、水分を飲む権利まで奪われている。強烈な悲鳴を上げているのは確実といえる。


「あと、6時間で学校で会えるでしょう」


「私は1秒、1分すら待っていられないよ。一縷をすぐに救出しに行きたいの」


「優愛の気持ちはわかるけど、一縷さんの自宅は遠いでしょう。あなただけの力では、どうしようもないよ」


「い、いちるが・・・・・・、い、いちるが・・・・・・こ、ころさ」

 

 呪文にかかったかのように、似たような言葉を繰り返していた。5年前にいじめにあっていた時ですら、こんなに取り乱したことはなかった。


 励ましのメッセージを書いていたときにうすうす感じていたけど、一縷に特別な思いを持っている。結婚したいをはるかに超越した、言葉では言い表せない感情を・・・・・・。彼が殺されるようなことになれば、光、希望をすべて奪われる。


「あなたがどうしてもというなら、車を出してもいいわよ。一縷さんの様子を見に行きましょう」


「お、おかあさん・・・・・・」


「5年前にいじめられていたとき、何もしてあげることはできなかった。おかあさんはそのことを強烈に悔いているの」


「そ、それなら・・・・・」


 おかあさん、優愛のところにおとうさんがやってきた。


「睡眠をとらない状態で、車を運転するのは危険すぎる。おまえたちの身に何かあったら、どうするつもりだ・・・・・・」


「い、いちるが・・・・・・」


 おとうさんはあくまで、冷静にとりあった。社会経験豊富だけあって、深みと重みが伴っていた。


「優愛が事故に遭えば、彼はどうやって生きていく。支えていくためにも、無茶は絶対にやめなさい」


 おばあちゃんは交通事故で他界。それ以降、車の取り扱いには細心の注意を払っている。


「わ、わかった・・・・・・」


「優愛の思いはこちらにしっかりと伝わった。本当に大切にしている人のために、力を貸してあげなさい」


 おとうさんの胸に思いっきり飛び込むと、夜とは異なる負のオーラを感じた。


「あ・・・・・な・・・・た・・・・」


「今は嫉妬している場合ではないだろ。新しい家族が増えたときのために、やることをきっちりとしておきなさい」


 ほっぺたにたまった空気を吐き出したあと、おかあさんはふてくされたように寝室に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る