第48話:そうじゃないんだけど……

 翌日、羽那はなはLINEで舞華まいかに独り立ちしたことを報告した。


『やっほー。やっと、1人で立たせてもらえるようになった! 初日の木曜は緊張でガチガチだったけど、何とかなった』


続けて送る。


『何か月か、毎週日曜に他所のボキューズから私のサポートで応援の人来るから、ひとまずどうにかなってるところかな。昨日初めて来たんだ』


約30分後、舞華から返信が来る。休みだろうか。


『やっほー! おーよかったじゃん! おめでとう! レジとの掛け持ちはどうなった?』


『ありがとー! レジは週3でシフト入ってる。薬局のパートさんが休みの木曜と日曜は除外で』


『まあ、ようやく前進したんだから、まずはこれでよしだと思うよー。で……』


(……で?)


間違って打っている途中で送ったのかもしれないが、舞華は何を聞こうとしたのだろうか?


『応援の人、どんな人来たの?』


(……そんなこと聞いてどうすんだ?)


と、羽那は思ったが……。


『1個上の、優しそうな若いお兄さんだったよ。昨日初対面だったのに最初から話しやすくて、全然緊張しないで仕事できた』


『……いいなー。羨ましいわ。私なんかおっさんおばさんに囲まれて仕事してんだもん。最初から意気投合して、そのついでに歳変わらないんだから、何回か仕事で会ううちに?』


(……いや、何言ってんの舞華? 仕事とプライベートごちゃ混ぜにさせる気か?)


その気は1ミリもない羽那にとって、舞華のこの台詞は理解不可能だった。


『まあ、確かに出会いはなかなかないけど……そういう目で見る趣味なんてないよ私は。前付き合ってた男と別れて数年たつけど……何かなぁ、1人の方が楽しくて仕方ないよ』


社内恋愛肯定派の舞華だからこそ関係進展を期待しているが、。そういうことじゃないんだよなって思う、否定派の羽那。年齢的にも、いつ結婚してもおかしくないのだが。


(言い方悪いけど、社内恋愛って汚いイメージでしかない)


この先色んな話をするようになっても、恋愛感情は生まれないだろう。


 独り立ちし、休みが月曜と金曜に戻ったことで、舞華の都合次第でどこかで会う約束をしようかと思っていた羽那。5月より、新型コロナウイルス感染症が5類へ変更されることを機に。


『まあ、コトハがそう言うなら、仕方ないかな。……そういや、GW終わったら遊ぼっか? 色々話聞きたいし』


『うん。月曜と金曜固定休だから、舞華の都合に合わせるよ』


こうしてGW明け、羽那は舞華と遊ぶことが決まった。だが次の日曜日、どんな顔してはるかと会ったらいいのか、分からなくなってしまった。


☆☆☆


 30日、遼の2回目の応援来店日。舞華から言われたことは一旦忘れ、あくまで仕事だと自分に言い聞かせた羽那。今回より嘉穂かほから出されるお題に沿って、プチ勉強会が行われることになった。勉強会初回のテーマは『夏場用の皮膚薬』だった。


 開店作業は前回と同じく羽那が率先してやり、前出しと補充が済んだ後勉強会が始まる。今までの接客で違いだったり、紹介だったりやってきたが、知識を確実なものにし、よりスムーズにお客さんに説明できるようにしてほしいという、嘉穂の狙いもある。


「まずは虫刺されの薬についてですね。これとこれの違いについて、把握できてますか?」


遼が選んで持ってきた2つの虫刺されの薬の違いについて、間を開けず答えた羽那。


「正解です。もし『蜂に刺されたら使えるものはある?』と言うお客様がいらっしゃった場合、どう説明しますか?」


「もし蜂に刺されたら、まず針を抜いて、早めに皮膚科で診てもらうよう伝えます。市販の薬で対処できるものはないからです」


「正解です」


その後子供用の虫刺されの薬や汗疹あせもの薬について、内容や違いについて学習した羽那。一通り終わると。


「……いやー、深琴みことさんよく勉強されてますね。僕から教えることそんなにないんじゃないか……」


と遼は言いながらも、嘉穂宛に勉強会を行ったことを連絡ノートに記入し報告。明日から5月に突入するが、この先も暫くこういう形を取るのかと思うと、舞華から言われたことが邪魔してきて、頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。その次の日曜もプチ勉強会が行われたが……この時も地味に距離近いし。途中脱線して関係ない話をして和気あいあいと盛り上がってしまった。


 GWが終わり、舞華と遊んだ時も突っ込まれて困惑した羽那。


(だから、……)


声に出さずとも、心の声で完全否定していた。


 その後の週末の土曜日、南奈ななと会ったのだが、就活もあり忙しそうな彼女。自分のようになってほしくないのだが、就活以前にバイト先で潰れやしないかと心配でもあった。そしてまた、日曜日がやってくる。羽那ははずなのに、社内恋愛なんて否定派だったはずなのに――日曜が来る度に淡い期待をしてしまうばかり。


 ……だが、5月最後の日曜日。友麻ゆまと遼との会話をちらっと聞いて、遼は既婚者だったと知る。結婚指輪はつけない派だったのか……。

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