第6話:離婚した?

 羽那はなが両親との温泉旅行から戻り、初仕事。『レジ係の皆さんで召し上がってください』というメッセージカードを添え、温泉饅頭を差し入れした。この日は入れ違いなのか朱巴あけはは休みだ。彼女がいない方が気が楽なのだが、明生あきおと休みを合わせていることに気がつく。


 羽那はオープンから働いているものの、固定休が存在していない。朱巴は現状、火曜と金曜が固定休?


(ん? 何かおかしいぞ?)


休憩中、ふと疑問に思う羽那。週4で最初は旦那さんの扶養内で働いていたはず……だった。まずは勤務時間の延長。夕方4時でも、子供の迎えは可能といえば可能である。それでも、子供より仕事を取っているようにしか思えなかったのである。


 羽那が休憩から戻ると、偶然にも朱巴が買い物に来ていた。今まで休みの日に買い物に来る姿は何度か見たことはあったが、上の子は朱巴の隣を歩き、下の子は子供用買い物カートの椅子に座って、3人で来ている光景しか見たことがなかった。この日は、朱巴1人だった。


(旦那さんに預けているのかしら)


そういうこともある、と思っていた羽那だった。何となく時が過ぎ、再び朱巴が休みで買い物しにボキューズにやってきた。この時も、朱巴1人だった。この頃から、朱巴に関しての噂が職場内で飛び交うようになる。


紀本きもとさんって離婚した? 子供の話しなくなっちゃったから変だなと思ったのよ〉


〈旦那さんに追い出されたんじゃないかって、風の噂で聞いたよ〉


〈そりゃあ……全然子育てしないで働いてばかりでさぁ。旦那さんが耐えられなくて離婚に踏み切ったんじゃないかねぇ〉


――朱巴が、離婚した?


朱巴にプライベートで何があったのか、羽那は全く読み取れない。いつの間にか週5で、朝8時から夕方5時の完全フルタイムで働くようになっていた。フルタイムになったことが、の引き金になったのだろうか。


 噂が出始めてから、朱巴は当然のように1人で買い物。子供用のお菓子やジュースも買わなくなってきたことから、本当の話の可能性は高い。そんな中、12月のシフトから1人で作ることになった朱巴はレジ係全員に何やら聞き取りをしていた。


「おーい、コトハー」


「はーい、何だい?」


羽那の番が回ってきた。


「来月のシフトから私が作ることになったんだけど、出れない時間ってあったりする?」


「ううん、何時でも大丈夫だよー」


「そっか。


彼女の反応にどう受け止めればいいか分からない羽那。色々噂が出ているのに、よく平然としていられるなと思う。


 やがてシフトができ、羽那は初めて固定休というものができたのだ。月曜と金曜である。


☆☆☆


 年が明け、2019年。朱巴との再会から1年がたった。羽那は短大時代からの友人・草間くさま舞華まいかと会うことになった。羽那が舞華の休みに合わせたことで実現したのである。雪は降らず、絶好のお出かけ日和だ。


「舞華、仕事は順調?」


「それなんだけどね……」


昼食中、お互いの近況の話になり、羽那はギリギリで就職できた舞華を羨む気持ちはあるも、当の舞華本人は、浮かない顔をしていた。


「私のところの部署、5人しかいないの。その中で去年から私、副課長になった。だけど、2個下の後輩まで副課長になっちゃって……」


「少人数なのに、そこまで要らなくね?」


「普通はそうだよねぇ……」


どうやら、上手くいってないようだ。


「先週さ」


「うん?」


「……私が間違った計算をして、そのまま書類出したっけその子に見つかって。『計算間違ってますよ。提出する前に間違いがないか確認するのは当然ではないですか?』って注意されたのよ。きつい顔して。そりゃあね、自分のミスだからね……『すみません』って謝って直したよ」


「……んー、偉そうな態度だなぁ。そこまで詰め寄ることないと思う。舞華のこと、先輩だなんて思ってないでしょ」


「……コトハもそう思うか。あの――を見てるからか」


「……そうね。おまけに育児放棄して離婚だって噂が出てるくらいだよ」


チーフ……上司だなんて思いたくないよね――分かるよ」


 離婚説が出ている理由として朱巴の不倫があることに関しては羽那は知らない。だが。


「お互い、後から入った人間との関係に悩んでるだなんて思ってなかったよね」


「そうだね……。でも、コトハに話聞いてもらえて少しは気が楽になったよ、ありがとう」


「こちらこそ、ありがとう」


羽那だけでなく舞華も、人間関係のことで戦い続ける同士だと、認識できた1日だった。

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