第12話 逃げの一手

「ダーウィンズオーダーの異端者どもが……」


そう言いながら後ろから超常保安官が現れた。


「ここに来るときに車をうちのメンバーが調べさせてもらったぞ。どうやらこの車がお前らのだったようだな」


「なぜわかったんだ?」


「簡単な話。うちには【思念読みサイコメトリー】という能力者がいてだな。触れた無生物の残留思念を3時間前のものまで読み取ることができる。それで車を調べさせてもらった。するとこの車に行き着いたというわけさ。ちなみにそれが私だ」


なるほど、そんな能力者もいるのか……。


「どうするんだ、ダーウィンズオーダー?大人しく捕まるんだな。それと」


超常保安官は我宮の死体を指差す。


「私の同僚が死んでいたが、これはどういうことだ?」


他のみんながそれを見て黙っている中、僕は一歩踏みだす。


「その人は自殺したよ。僕たちは無能者デリケイトじゃない君たちのことは殺さない。その人は無能者デリケイトを守れなかった自分を罰しようと灰を飲んで自殺したんだ」


「……そうか。それはすまなかった。だがこの有様はどう説明してくれるんだ?」


「それはただ使命としてやっただけだよ。僕らと君たちでは共存ができないからね」


「ふざけるな。無垢で脆弱な無能者デリケイトに何の罪がある、こいつらはただ何もせずに過ごしていただけだろう」


「そうだよ。その『何もせずに過ごしていた』のが罪なんだよ。無能者デリケイトは社会に貢献できずただ穀粒しとしてだけいる存在。そんな彼らばかり守っておいて真に救うべき99%の有能な人間は守らない。そんな君たちはただの偽善者さ。だから僕らと対立するしかないんだよ」


「我々が偽善者だと?……どうやらお前たちとは話が通じないようだな。ここでお前たちを捕獲する——」


そうして超常保安官が銃をこちらに向けてきた。引き金を引こうとしたその瞬間、洞坂さんが能力を発動してそれを止めた。その隙にアミちゃんがテレポートを駆使して銃を奪った。


「なっ……。銃を奪うだと……まさかお前、私の気を引くために……」


超常保安官は僕の方を向いてそう言った。アミちゃんは両腕両足を狙撃し、彼の動きを止めた。


「とりあえず、これでなんとかなりましたね……でも、車が壊れてます。どうやって帰ればいいんですか?」


アミちゃんがそう言いながら僕たちの方を向く。


「大丈夫だ。俺が無能者デリケイトから奪ったこの鍵がある」


そう言いながら郷戸さんは車の鍵を僕たちの前に提示した。


「完全にやってることが犯罪者ですね……」


「何言ってんだ、俺たちは国から見れば立派な犯罪者だ。それに元から俺たちは自分が善人だなんて思ってないぞ」


「どっちにしろ人のものを勝手に奪うのはダーウィンズオーダーの原理的にいいんですか?」


「無論異能者から奪うのはダメだ。だが無能者デリケイトから奪う分には構わねえ。というか今日使ったあの車も半年前に奴らからこうやって奪ったものだ。奴らに生きてる価値はないが、奴らの使っているものまで使う価値がないとは流石に言い切れないからな。俺たちは宗教団体じゃねえんだよ、あくまでただの殺人組織だ」


確かにそれは結構合理的かもしれない。でも、僕の中で一つ疑問が浮かんできた。


「じゃあ何故郷戸さんと洞坂さんは運転免許を?」


「単純に持ってないと危ねえからだ」


確かにそれはそうだ。法的にまずいということを差し引いても、運転したことがない人に車を運転する係は任せられない。もし運転ミスをしようものなら僕ら全員事故死する可能性だってある。


「ああそれと、今回も俺が運転する。だからついてこい」


郷戸さんがそのまま車の鍵を開けると、僕たちは車の中に乗る。4人乗りの車だったから少し狭かったけど、僕たちは誰も文句を言わなかった。


「法定速度で走る。もしスピード違反が見つかろうものなら俺たちだとばれなくても警察に見つかって色々とまずいからな」


「了解しました」


僕はそう言って頷く。


ダーウィンズオーダーの本拠地に辿り着くまで、あと3.1km。僕はそれまでの間、後ろから超常保安局の車がきていないことを確認した。


「なんで超常保安官たちは追ってこないんですか?」


「ボクたちを追うほど暇じゃないからだよ」


僕がふと疑問に思ったことを呟くと、洞坂さんがそれに反応した。


「と、いうと?」


「放っておけばあちらこちらで無能者デリケイトは被害に遭うから、超常保安官は彼らを一人一人始末しないといけないんだ。ボクたちほどの信念は持っていないけれども、僕たちみたいにあいつらを傷つける犯罪者は多い。まあ、これも無能者デリケイトは文字通りに扱わないとダメだからなんだろうけど」


「なるほど……」


「それに、超常保安局にとっては、ボクたちダーウィンズオーダーは自分たちにはあまり危害を加えたがらない。無能者デリケイトを集中して狙うと言う点では厄介な相手だけど、所詮社会を守る気なんてさらさらないあの偽善者の集まりに自己犠牲の精神なんてないからね」


そうして会話をしているうちに、気づけば僕たちはダーウィンズオーダーの本拠地に辿り着いていた。

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