失せ物防止

 ヤマダさんはあまり素行の良くない友人がいた。


「はっきり言ってしまえば俺はアイツの子分みたいなものだったよ」


 そういうヤマダさんの声はどこか恐れを感じている。何があったのかを訊いた。


 あれは……財布を拾ったんだ。落ちていたところが歩道のど真ん中でアスファルトで焼かれるように落とされてたよ、焦げるんじゃ無いかと思ったね。これを落としたヤツはどれだけマヌケなんだと思いつつ当然のように懐に入れたよ。なかなか重くってさ、しかも具体的には伏せておくが結構な高級ブランドの財布だったんだ。買おうと思うとしばらく貯金してそこそこの覚悟が必要なくらいには高いヤツだった。


 それで……名前は伏せておくがアイツに自慢したんだよ。そのときの俺は随分とマヌケ……結果的にはよかったんだがな。とにかく自慢したんだがすぐにアイツは目の色変えて分け前をよこせ、警察にたれ込まれたいのかと言ってきたよ。アイツだって自慢できるような素行じゃ無いくせに人のネコババをギャアギャア言うなよとは思ったが、腕っ節も強いヤツだったから逆らえなかったんだ。


 結局、俺の取り分はその財布の中に入っていた現金のみで、なんとクソ高い財布のくせに千円札が数枚と小銭しか入ってなかったんだ。イラついたけど逆らうことも出来ずソレを受け取って自慢したことを酷く後悔したよ。しかもアイツが持っている財布は手でがっしりと持ってるんだ、そのときはまだまだ中に入ってるんじゃ無いかって疑ったよ、疑ったところで追及は出来ないんだがな。


 アイツと関わるのに嫌気がさして金だけもらってさっさとコンビニでプリペイドカードに変えて持ち帰ったな。暑い中出かけていたから汗でびっしょりでな、さっさと体を流してプリカをスマホでチャージして何か安くて良さげなものでも無いかと通販サイトをめぐっていたんだ。


 暑い中歩いて来て冷房の効いた涼しい部屋に戻ったせいか、スマホを寝転がってみているとつい寝てしまったんだよ。それから部屋のドアが親に叩かれて目が覚めたよ。『うるせえな、何の用だ?』と聞くとあの悪友の親からの電話だって言うんだよ。正直関わりたくは無かったが、アイツに何か復讐されても敵わないから仕方なく電話に出たよ。そしたら『ウチの息子が来てないか?』と言われたんだ。


 ふと窓の外を見るともうすっかり暗くなってたが、アイツは外泊くらい普通にするだろと思ったので『来ていません』とだけ答えたんだ。アイツとはその日以来会ってないんだが……な……


 いちいちトラブルばかり起こしやがってと直接言えない文句を口にしながらスマホで何を買おうか漁ってったんだ。そうしたら……たまたまだと思いたいんだがな、カード型のトラッキングタグが表示されてな、あの財布、中身の割に重くなかったか? なんてことに思い至ったんだ。そしてアレだけ目立つように落とされていたのに誰も拾っていなかった財布……なんだか嫌な想像が浮かんで全部気のせいだと思って寝たんだ。


 それ以来アイツには会ってないよ。ムカつくヤツだったし、俺が言えたもんじゃないと思うがクズだったと思うよ。ただ、どこかでどんな形にせよ生きていて欲しいと思うくらいには多少気にしてるんだよな。アンタ、怖い話ばかり集めてるんだろ? アイツに関係ありそうな話があったら教えてくれよ。


 そう言って彼は謝礼を受け取り去って行った。ひとまず今のところその悪友に該当しそうな話はまだ聞いたことが無い。

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