エコとエゴと

当時は地球温暖化がどうこうで何かとやり玉に挙がっていたのがクーラー、要するにエアコンだった。


 そんな時代のフジムラさんの話だ。


「当時夏休みにクーラーをガンガンに付けながらアイスを食べるのが至福の時間でした」


 そんなことを言うフジムラさんだがやはり嫌な記憶も残っているらしい。


 当時部屋にこもって冷房を限界まで下げて運転させていたんです。当時はオゾン層がどうこう言っていなかったのでフロンを使っていてばかみたいに冷えましたよ。


 でもね、そのときマンガを寝て読んでいたら眠気がやって来たんです。


 眠気に耐えられず意識が落ちたところで今でも記憶に残っている夢を見たんです。


 彼はその夢を語ってくれた、内容は大体以下になる。


 身体が痛い、目の前は真っ白な世界が広がっている。建物らしいものは見えない。そこで気が付いたのが自分がいつも着ているシャツで雪原に立っていることだ。


 なんとなく、理屈で説明はつかないのだが、そこが極地であることが理解できた。南極か北極かは分からない、ただそこが世界の最果てであることはなんとなく理解した。


 寒気は感じず、痛みが肌を覆っている。ただ、何故か視界が真っ白なのに身体には少しも雪が付いていない、ひたすらに寒いだけだった。


 痛みに耐えかねて走り回ったのだが、冷気が体温を奪う方が早い。そのはずなのに気絶もせずただ寒さに耐えるしかなかった。


 その苦痛に耐えてどこかへ歩いていると、あるところにぽっかり空いた穴があった。見下ろすと底なしに見えるほどにくらく見えない空洞だった。


 ふと、そこに飛び降りなければという考えが頭をよぎったが、夢の中とはいえ命をかける気になれず、穴とは反対方向へ走っていった。


 しかし、しばらく進むとまたあの空虚な穴に戻ってきてしまう。逆の方向に走り去ったはずなのにだ。


 方向が分からなくなっているのか、それともこんな穴が極地に大量にあるのか、それは分からなかったが、どこへ行っても同じようなところへ行き着くため、疲れ果ててしまった。


 仕方なく自棄になってその穴に飛び込んだ。落ちていくのだが、どこまで落ちてもそこに打ちつけられることが無い。いくら落ち続けたのか分からなくなったところで目が覚めた。


 いつの間にかクーラーは切れている。しかし肌には驚くほどわかりやすい鳥肌が立っていた。触って見たがしっかりとしたぬくもりが有り、自分が生きていることを実感できる。


「とまあこれが一連の夢なんですが、アレは一体なんだったんでしょうね。ただ、後になってオゾンホールというものが存在していることを知りましたが、あの夢を見たときは存在を知らなかったので、あの穴がオゾンホールの暗喩だと言うことも無いはずなんですが……」


「夢なんてものはいろいろ見てしまうものですからね」


 そう曖昧に答えて彼の話を流した。


 彼の今の悩みは夏になるとエアコンをつけろと啓蒙されていることらしい。普段は自宅でできるだけ我慢していたが、徐々に暑くなっていく夏に折れてエアコンを使っているが、彼によるといつあの夢をまた見るかと思うと気が気ではないとのこと。

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