おじいちゃんとお買い物
ユイさんは小学生の夏休み、親に酷く叱られたことがある。ただ、その理由があまりに理不尽だったそうだ。
「おじいちゃんがデパートに連れて行ってくれたんですよ」
話はデパートが隆盛を極め、ネット通販など存在しない時代のことだ。
おじいちゃんなんですけど、私には随分甘かったんです。だから『デパートに行くか?』と聞かれたときにはとても嬉しかったんです。二つ返事で『行く!』と言い、おじちゃんはタクシーを呼んで二人でデパートに行きました。
おじいちゃんは確かにタクシー代を払ってデパートの前で私たちは降り、意気揚々と店内に入っていきました。
店内には宝物がたくさんある大きな宝箱のように見えます、当時はネットがほぼ無かったのでデパートは大層贅沢だったんですよね。
あれこれ見ていると、財布が一つ目に入ったんです。それに目を奪われたのですが、値札を見ると小学生にはとてもじゃないですが手の出ない値段です、おじいちゃんに欲しいと言うことさえ憚られたんです。
じっと見ているとショーケースのガラスにおじいちゃんの立ち姿が反射したのが目に入ります。さすがに『これを買って』とは言えませんでした。
でもおじいちゃんは私の考えなどお見通しのように『欲しいんか、買ってやる』と言うので『いいの?』と聞くと、可愛い孫のためだからな。なんて言ってました。
私は財布を買って喜んだ後、おじいちゃんと一緒にデパートの食堂に行きました。私が何を食べたのかは覚えていないんですが、おじいちゃんが何も食べなかったのははっきり覚えています。
それで、帰りもタクシーで帰りました。家に入ると母がいきなり『アンタ何やってたの!』と怒号を飛ばします。
財布を見せて『おじいちゃんとデパートに行ってたの』と言ったら、いきなり頬を張られました。
『アンタって子は……! いつからそんな嘘をつくようになったの! ほら、その財布を返して謝りに行くよ! お母さんも一緒に謝ってあげるから』
何を言っているのか分からず、『おじいちゃんが買ってくれたの!』って言い張ると『何言ってんの! おじいちゃんは先週入院してるでしょうが!』と言われて気が付いたんです。おじいちゃん、病院に行ってそのまま入院してたんです。
『でも……おじいちゃん?』
後ろを振り返ると誰も居ませんでした。玄関前で私の横に立っていたと思っていたおじいちゃんは影も形もありませんでした。
ただ……財布を開くとレシートが一枚落ちました。拾い上げるとその財布のレシートでした。母に見せると、不満そうでしたが盗品ではないということでそれ以上は言われませんでした。
それからしばらくしておじいちゃんは鬼籍に入りました。あの時連れて行ってくれたのはおじいちゃんだと思っているんですが、不思議なんですよ、幽霊や生霊にしたってお金が払えるわけ無いじゃないですか、何故かタクシー代とデパートでのお金はしっかり全部払ってもらっているんですよ。
それだけはどうやっても説明がつかないんですよ。
そう語ったユイさんは、懐かしむような目をしていた。結局どうやったのかは分からないが、彼女は今でも家にそのとき買ってもらった財布をしまっているらしい。
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