猛暑日より
「死んだからって五感がないわけでもないんですねぇ……」
そう語るのはヨーコさん。大学生だが、高校時代に不思議な体験をしたらしい。
アレが起きたのは高校三年の夏休みでしたね。最後の追い込みをかけているときでした。受験ってやつは厄介ですよね? まあほんの少しくらいはいい加減に勉強をあまりしてこなかった私のせいでもあるんですけど……
それはさておき、夏だったのでエアコンをガンガンに使って勉強していました。都会に出るまで予備校で勉強するなんて習慣はなかったので自宅学習ですよ。それなりに電気代はかかったんでしょうが大学の学費に比べたら誤差みたいな物でしょうし、勉強している私に親は何も言いませんでした。
知恵熱……っていうんですかね? なんかただでさえ暑い日に、勉強に頭を使っていたら暑苦しい感じがしたのでリモコンを手に取って冷房を強くしたんです。エコだなんだといわれている現在ですけど、環境保護活動家が見たらキレそうな温度設定にしていました。寒くはないんですよ、私は別に冷え性でもないですし、とにかく頭を使うのにいい温度まで下げたんです。
おかげで公式やら文法が結構するする頭に入ってきたんですが、何故か英語の参考書をやっているときに書いてある英語と全く違う単語が頭に浮かんだんです。
『暑いねえ……ちょっとこっちも冷やしてくれないかい?』
どんな分が書かれていたかは覚えていないんですが、絶対にそのような訳にはならない英文が載っていたのは確かです。なのに何故かその英文を読んだときに頭に浮かんだ言葉がそれだったんです。
本当に理由の説明は出来ないんですけど、その声が去年死んじゃったおばあちゃんの声だと何故か思い浮かびました。だから仏壇の置いてある隣の部屋の襖を開けました。
西日で熱された空気がむわっとこっちの部屋へ流れ込んできたんです。一気に温度は上がりました、仏壇を見てみるとロウソクが少し曲がっていました。どれだけ暑かったんだろうと思いながら仏壇を見るとおばあちゃんの遺影が飾ってありました。
「そうだね、暑いよね」
私はおばあちゃんの写真にそう言って、エアコンの冷房の向きをその部屋にも届くように変えて、冷房を一番強い設定にしました。もともと一部屋用の民生品なので二部屋を冷やすにはそのくらいしないといけませんでした。
そうして少し勉強を休んで冷えた麦茶を一杯飲んで帰ってくると、なんとか勉強が出来なくもないかなってくらいには温度が下がっていました。仏壇に手を合わせてから勉強を再開しようとしたところで仏間の箪笥の下に紙片が見えたんです。興味を持って引き出すと千円札でした。
「ありがとねぇ」
そんな声が聞こえたんです。
そういえばおばあちゃんは何かにつけてお小遣いをくれていたななんて懐かしさも蘇ってソレをそっと財布に入れてから勉強をしました。親は襖を閉めろと言っていましたが、私は譲らなかったですし、合格が決まったときには両親もおばあちゃんの仏壇に報告してましたよ、現金な物ですよね。
そうして無事大学受験も上手くいったんです。たぶんおばあちゃんの御利益じゃないでしょうか。私はそう信じています。
私は貴重なお話をありがとうございますと伝え謝礼をしてこうして書いている。もしかするとこの部屋にも暑がっている同居人がいるのかもしれないと思うと薄ら寒くなった。
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