族の音源

 夏の夜、当時でもバイクで走って寒くはない時期の話だそうだ。


 おかしな事が起きたとタキタさんからメールが来たのでオンラインで取材をした。


「どうも、お話を聞いていただきありがとうございます」


「いえ、こちらの都合に合わせてくださりありがとうございます」


 私がそう言うと、一瞬の間をおいて彼は言った。


「いや、本当にありがたいんですよ。説明がつかないことですからね。まともな人に話すと絶対真面目に聞いてくれないですか」


 そう言ってから彼は小学校の夏休みに体験したことを教えてくれた。


「当時は暴走族、まあそういう連中が珍しくなかった時代です。こうしてオンラインで話していると分からないでしょうが、この辺はかなりの田舎ですからね。どこから集まったんだろうという人数が不思議と集まってきて夜に暴走をしていたんですよ」


 それはまた大変だ。正直に言えばそんな連中とは争いたくないし、関わりたくもないだろう。その上彼は当時小学生だ。


「夏休みに起きたことだっていうのは言いましたっけ? ああ、メールに書いてましたね。夏休みって事は宿題があるじゃないですか。俺は横着をして夏休みのはじめに適当に終わらせてしまおうと思ったんですよ。だから初日から深夜まで課題をやっていました。自由研究みたいなのはどうにもなりませんが、計算ドリル程度なら初日で終わらせられるんですよ。親も夜更かしの理由が勉強じゃあきつく言えないようでしたね」


「なるほど、それで一体何が起きたんですか?」


「問題は深夜になってからです。暴走族がふかしながら走っている音が窓の向こうから聞こえてきたんです。迷惑だなとは思いましたけど小学生でもあんなのに関わらない方がいいとは分かっていましたから、無視を決め込んで課題を続けました。そうして計算ドリルが終わったんですよ。そこでおかしな事に気がついたんです」


「おかしな事……?」


「家の前は直線で走りやすい道なんですよ。だから暴走族もここに集まったのだろうと思ったんですけど、どうしても不思議なんですよ。なにしろそれなりの暑さの計算ドリルを丸々一冊終わらせたのに、相変わらず同じ場所から排気音が聞こえてくるんですよ。一本道なんだから暴走族だって走っていけば音は消えるはずなんですよ。そのはずなのに家の近くから延々と鳴っていたんです」


 私は少し考えた。彼に『所謂ところの円を描いて走る集団だったのでは?』と訊ねたが、彼は絶対に違うと言った。


「それで思い切って窓を開けたんです。その先にあったのは街灯だけで、誰一人車もバイクも乗っていませんでした。ではあの音花に? そう考えると腕に振動が伝わってきたんです。その正体は窓が震えていたんです。窓の震えて出る音を暴走族と勘違いしていたんです。そりゃ外を見てもいないはずです」


「不気味に思いながら窓を閉めて布団を被って寝ました。結局朝方まで鳴り続け、眠気に負けで寝て起きたら音はしなくなっていました。あの音の原因が何かは分かりません。その……くだらないことを考えているのは承知なんですが、ガラスがオウムのように日々騒音に晒されてきたので、その音を覚えたんじゃないかって思うんですよ。多分妄想なんでしょうけどね」


 彼の話ははじめは良くある話かと思ったら意外な方向に転がったのでこうして記録した次第だ。

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