終焉と開闢のモードレッド(先行放送)

@yuusho

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──平和という退屈。

 そんな幸福を浪費する阿呆の先には、量産された映像機。

 機械が見せるは物語の先行放送。

 かのモチーフは人の欲望が解放された時代の歴史であり、その時代を生きた偉人。

 乱世を終わらせ、治世を開いた男の名はモードレッド。

 これから少しだけ見られるのは、彼が宿敵と行った儀式を脚色したおとぎ話。──




 旧文明が飛行機と呼び、結局未来でもそう呼ばれる物体が突き刺さるのは時計塔。

 夜空の下では最終決戦を前にした両国の要人。

 酒を飲む者、武勇伝を語る者と、本来殴り合い殺し合いを起こさなければならない連中が作り出すは異常な光景。

 非日常の中で治世とは全く意味異なる執事が二人。

「こんなバカデカくて硬い物体が虫や鳥みたいに空を飛んだね。……テオ殿は嘘つきで傲慢なグレテン人らしい事を言うな。」

 ただ乱世いまを生きる人間がそんな事を知る由もなく。

 事実眼鏡をかけた男は同業者に対して、徹底した煽りと侮辱を行う。

 それに対して、名前を呼ばれた男は嘆く。

「イビルディア帝国が誇る執事様じゃ理解できないか?ウチの国家反逆者とフェニックスが持っている得体の知れない力、それで間違いなくコイツは飛んでいたよ。」

 あぁ、もしもこれを自在に動かせれば世界全土に翻る旗は一つになるのにと……そんな当たり前を理解している故。


(コイツ、凄い訛ってるな?一瞬造語症か共通言語の敗北を疑ったよ。まぁ、執事を務める者にそんな事はありえないか……)

 コンタクトにすればいいのに。と付け足すテオの発言に対し、興味の無い振りをしながら一生分の報酬である眼鏡をふく強面の手が止まる。

 それは思考しているからでは無く、ただモニターが映し出す決戦の場から漏れ出たナニかによって。

「聖帝を猿の領域まで引きずり落とすは、我らが征服王モードレッドという訳か……全く普通にやったらあのお方に勝てる訳無いもんな。」

 忠義あふれる自分達に対する手酷い裏切りのせいか、テオの口から漏れでるのは事実確認。

「本当にアイツの生涯は、あの日まで何の苦労も挫折も無いつまらないモノだったと思うよ。」

 執事達が持つタブレットに、魔力と術式を持って映し出されるのは異形。

 その姿は人の営みが行われる全ての場所に届けられ、同じ反応を示させる。

 それ即ち世界の中心たる彼が持つ天倫によって、意思弱き者達の視線は近くにある映像端末に釘付け。

 

 この場にいる大半の人間が、ラムカンの丘で行われる決戦に備える中、巨大な影が酒樽を片手に息子の敵を探す。

 そんな中、この場にいてはなら無い程の小さな影が二つ。

 見つけた。と広角を上げるのも無理は無く、近づく足は当然加速。

「久しいな暴魔よ。互いの主が起こす決戦を盛り上げるためにも、儂とタイマンをヤル気はないか?当然無論断らんよな。」

 グレテン王国が誇る元帥にして、超人の二つ名を冠するハイド・ネルソンが放つ偽りの殺気。

 本来なら反応、もしくは呼応しなければならない両陣営の大半は、聖帝が放つナニかに魅了されて動く事ができない。

 そんな異常事態にも関わらず、己の右腕以上に信頼を置く食客にたいして、二つ名で呼ばれた小男は、戦いにはならんからこの場を外せ。と一言。


「文字通りの片手落ち状態で、貴殿に勝てる思う程小生は思い上がっておらぬよ。ただ恨まれる理由は分かる故に、この戦いが終わってからで良いか?弟子の晴れ舞台だ。この目に焼き付けたい。」

 事実蓋世不抜の武人は、先の闘争で右腕を失っている。

「フン!全く儂以外に不覚を取りおって、まぁ前の戦いはキャリアも経歴も糞も無い未踏の相手だったな。……ヤルぞ。」

 はなからの目的を望むハイドに、ありがたくと。成長障害を患う小男の残った左手が持つグラスが傾けられる。

 お返しと言わんばかりに注がれるはアルコール。

 男らしさを勘違いした時代の人間は、当然と言わんばかりに一気飲みを繰り返し空樽を作り出す。

 

 で、この喧嘩どっちが勝つと思う。という分かりきった疑問と泡を飛ばすは超人の口。

 喧嘩になった時点でモードレッド。と即答するは暴魔。

「ガハハすまない、そうだなこっちも言いたい事は一つ。こうなった時点で徹底な遺伝子調整を施されたモードレッドが勝つ以外の選択肢は無いからな。」

 嬉しそうに手を叩く巨影に対して、遺伝子という話ならアレも負けてないんだよな。と笑い返す小男。

 その時映像端末が映し出す景色に、大きな動きがあった。

 それ即ち世界が動くという事実。

「おーい!テオ。じいちゃんのコレ光らないんだけど何で?テオ!テオ!!何が起こっているんだ?……このモノは人なのか?」

 出力を上げた聖帝によって起こる超常現象は、もはや意思の強い者すら飲み込み始めた。

「化生が……行きなさい。お主が選んだ以上その道は絶対に正しいのだから。」

 予想以上の成長を遂げた異形の才は、付き合いの長い者達すら侵食し、世界全土を熱狂へと誘っていく。



 モードレッドの妻が魔術と機器を用いて、映し出すは決戦の場たるラムカンの丘。

「ハワワ、私は何をすればいいんでしょうか?手伝えることはありますか?何もしないのは落ち着かないです。ハワワ時が遅くなる〜」

「うん。それならボクの邪魔をしないために何もしないでいてね。自分がたてた計画をアドリブでメチャクチャにする男が旦那だからどんどん器が小さくなっちゃたよ。だから余計な事をする人間は吐き気するレベルで嫌いだから」

 かの丘はグレテンが誇る聖王モードレッドが暴君である父を討った場所。

 そこで宿敵とその先祖と思われる存在に対して、不思議な縁を感じながら空を見上げるのは重瞳の持ち主。

「ここはとてもいい場所だね。気に入ったよ。世界統一の暁に僕の別荘をここに建ててもいいかな。」

 裂けた口から出る美声は、不気味な程に人の耳に溶けていく音を奏でる。

 醜いバケモノを聖王の墓標に近づけた時点で、僕は負けているのかもな。と嘆くは乱世いまを生きる端正な顔をしたモードレッド。

「よし、そうしよう。征服王だのペンドラゴンだのといったとても似つかわしくない二つ名や称号を冠するハリボテ。それをボコボコにして格付けを済ませた後に盛大な物を建てよう。」

 両の手で合計十二本ある指を嬉しそうに動かすは隙だらけな聖帝。

 異形の宿敵を前に、遺伝子調整をしてまでも王になるために作られたモードレッドは呆れた顔で笑う。

 何のために、今まで耐え忍生きたんだ。と言わんばかりに、歯を食いしばり克己。

「この世は舞台だ。主役である僕が活躍するのを皆が望んでい……何面白い事でもしてくれるの?」

 イライラするな。と呟き影を帯びた表情のモードレッドは、コンプレックスの元凶に対して機先を制するために立ち上がる。

 それはもう我慢の限界であった。

 月は巨大な恒星の光を帯びて輝きを増す。

「全ての人間が僕の下僕だ。世界の頂点たる僕だけが顎で使う権利を持っている。」

 初めて会った時と変わらない、傲慢不遜なハリボテの発言に対してあの日とは異なる、違うね。という不気味な程に綺麗な音色と、異形が持つ突き抜けた才能の発露、即ち太陽の笑みが返された。

 それはもう世界の中心が、どす黒い事を隠そうともしない清々しいまでのモノだった。

 だがその熱意が世界を溶かし、侵食していく圧倒的な天賦であり目の前に立つ宿敵との差。

(あの日言えなかった事を言った。屈辱を完全にみそぎたければ勝つしかない。そうすれば全てが終わる。あぁ本当にムカつくな。)

 名前を忘れる事も呼びたくも無い存在に対して、即位式典での借りを返した。という事実にモードレッドは笑い、まだ自分の本懐を為してないという事実に口元を引き締めた。

──この日二人は世界全土をかけて喧嘩をする。    すなわち終焉の儀に至るまでの時系列が先行放送部分──

 子供の時間が始まる。

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