きさらぎ?たぶん、ちょっと違うʕ ˘ω˘ʔ☆

 ぷぃ〜っと鳴くタヌタヌ。

 リード付き大猫。

 そしてゴツい野郎二人に、フルアーマーお姉さん。


 ちょっとした色物グループが、静かな駅地下を歩く。


 シャカシャカ、カツカツ、ぽてぽて、ガッガ、うぃ〜ん◎ノ


 マー君が自己主張しながら一番殿で旋回している。

 何故だろう、タヌタヌといい本来、キャラ付けが無いはずなのに。

 ちらりと振り返ると、ウィンウィンしながら点滅している。


「光学迷彩なんでオフするにゃ?パパラッチカメラが隠密していないにゃ」

「こちらではハックしておりませんが..」

「ましゃか、にゃぁのメルヘンフィールドの影響、だとぅ」

「..否定できないかと。

 ダンジョン内の猫人類リソース管理の影響力でしょうか。

 記録は私の方でも随時送っております。」


 お姉さんとの間抜けな会話に、重盛氏が唸る。


「リソースとの意思疎通が、猫人類だと可能だと聞いていたが、ぐぬぬ」

「狸っす、子狸が案内してくれるダンジョン?

 絵本の世界っすね。

 つーか、猫様いなかったら、恐怖の人食い化け物ループダンジョンだったんすかね。

 やだなぁ、ゾンビダンジョンの先が、ループ型迷宮っすか。

 深度変更もあるんすよね」

「その辺どうなのにゃ、タヌタヌ?」


『さすがにアタイ平社員の権限じゃ〜情報開示はムリぷぃʕ ˘ω˘ʔ』

ダンジョンコア社長さん的なリソースってあるにゃか?」

「確認されております。

 ただ、猫様方によれば、リソーススポットの傍、最深部にあるとの事です。

 比較的浅層のダンジョンは露出していないため、日本の神隠しダンジョンでは十階層以降の中型ダンジョン以外での、人類による確認はできていません。」

「にゃるほろ、という事は、ダンジョンの拡張というより未発見部分が露出したって感じかにゃ。関東もそうにゃけど、関西の子も暫くダンジョン行脚しないとなのにゃ」


 シャカシャカ、カツカツ、ぽてぽて、ガッガ、うぃ〜ん◎ノ

 ...

 ...

 ...

 ʕ ˘ω˘ʔ?(ΦωΦ)?◎ノ〜

 ...

 シャカシャカ、カツカツ、ぽてぽて、ガッガ、うぃ〜ん◎ノ

 ...

 ...

 ...

「..にゃんで、沈黙が重いのにゃ」


 タヌタヌと自分、そしてマー君で人間三人組を見る。

 拡張兵七号お姉さんは、キリッとしている..かは、わからないけど、お散歩紐をもったまま首を傾けている。

 まぁいつもどおり汚物は焼却スタイルで、バイオドロイド系武装がニュルリと辺りを警戒してくれている。

 沈黙は沈黙だけど、七号お姉さんはいつも通り。

 そして今日知り合ったばかりの野郎二人から微妙な雰囲気を感じた。


「にゃぁタヌタヌ、この人間二人のフィジカル反応どう思う?」


 ʕ˘ω˘ʔ

『ぷぃ、ストレス反応ありぷぃ』


「ストレス反応って、何かにゃぁの話題が気になったのかにょ?」

「..何で、ダンジョンリソースとコミュニケーションとれるんす?」

「それを言ったら、ダンジョン産の生物や植物がどうやって産まれているのかって話になるだろ。猫人類様ってのは、そういうもんなんだろう。」

「モンスターと意思疎通はできないっすよ」

「定説ではな」


 ʕ ˘ω˘ʔ☆

『こいつら、話をそらそうとしてるぷぃ。ばればれの、あほぷぃ』


「..何か馬鹿にされた気がするっす」

「で、何かあるのかにゃ?」


 ごもごも口ごもる野郎二人。

 仕方ないので、お姉さんを見上げる。


「関西担当の猫人類様は、外にお出になる事が滅多にないのです」


 (ΦωΦ)自宅警備員だった件。

 まぁ猫なら正しいのか?


「リソース管理はしてくださっているんですよ。原因も、日本政府の一次対応の問題があったからですし。

 日本エリア初の覚醒者の猫人類様だったのも、不手際の原因でした。」

「あぁ〜知ってるにゃ。

 マスコミやら何やらプライベートが荒らされたって」

「ご家族の方も猫人類様も、非常にお辛い時期を長く過ごされ、現在はダンジョンリソースの危険度低減のみを行っていただいております」


 つまり、住んでるだけか。


「にゃぁ、もしかして不満分子が未だに何か言ってるのかにゃ?」


 返事は無いが、そんな事だろう。


「いいにゃ、その子も子供にゃって聞いてるのにゃ。

 にゃ〜が一度巡回すれば、関東は暫く低減効果でるんにゃろ?

 関西地域も出張してもいいのにゃ。

 その子と顔合わせするのもありだしにゃ。

 まぁ、その辺は、ネコネコ王国のニンジャに相談しておくにゃ。」


 話題として出てこなかったのは、初日だからなのか?

 多分、ニンジャ的には、仕事放棄してもいいのだろう。

 楽しければ問題なし。

 楽しめないなら、関西の子を王国に連れて行ってもいい。なんて考えてそうだ。

 基本、本国の猫たちはエイリアン思考なんじゃないかな。

 地球の過去記憶よりエイリアンとしての人生がメイン?

 シェイプシフターの、ってあれ?

 すっかり意識が抜けてたけど人間フォーム、王国の猫人類、人間型になれんのか聞いてないや。

 やべぇ、ちょっと奴ら的にテラ系人類ってのをどう思っているのか確認しとかんと。

 それに地球産の猫人類どうしで、少しコミュニケーションとっとかんと。

 いやいやいや、考えてみれば大人だった自分が覚醒したってのも、意味があるのかもしれん。

 敵性エイリアンだけじゃなくて、猫人類そのものの意識とか考えをば、ちょっと確認せんとな。

 渡された情報も、帰ったらよくよくチェックや。


 そう考えてみると、多分、関西の子は覚醒前も覚醒後も、子供だったのかもしれん。

 さぞ、面食らった上に、びっくりしただろうなぁ。

 自分の正気を疑うどころか、周り中から個人情報さらされるわ、家族関係あらされるわ。


 同じ猫同士、ちょっくらこっそり、様子を伺うしかあるまい。


 少ない想像力で想像してみても、お家から出ない理由は想像できる。

 だからって地球に嫌気さしました、違う惑星に行きますってはならんだろうし。

 猫人類としての役割もわかってるのもあるだろうけど、出身地から別の惑星へと移住するとかハードル高すぎるよねって話。


 純日本人の子供でネコネコ王国移住って言っても、自分ひとりとか怖くてムリだろう。

 ちなみに、ネコネコ王国は猫人類百%のみが移住可能。

 親族は一時滞在で永住許可は余程じゃないと出ないらしい。

 もしかすると、猫人類用の大気だったり環境だったりするのかもしれない。

 猫人類ならテラフォーミングも、頭オカシイ感じで進めていそうだ。

 そうなると親も一緒にといっても、それはそれでテラ系人類が猫の国で生きていけるのか謎だろう。

 強化人類の彼に合わせて、何か作ってる可能性もあるしな。いやぁ、嫌な予感しかしない。

 もうはっちゃけて惑星改造して、大アミューズメントパーク拵えてそうだ。


 等と考え事をしながらお散歩していると、三階奥へと到達。

 相変わらずゾンビは一匹も出てこない。


「タヌタヌを壁の染みにすると、どこか入口ができるのかにゃ?」

『なんつーワイルドライフぷぃ、ちがうぷぃ』


「どう違うのにゃ?」


『ここのルールはカンタンぷい』


 で、説明によると。


 まずは、霊視ができる人間が三階層いずれかで、間違いを発見する。

 ここでいう間違いというのは、この三階部分の異変である。

 ゾンビなどの排出リソースではなく、その時に三階の同じ地下鉄の景色で違う場所を発見する事だ。

 それも霊的に。


 例えば、一階と二階に変化はなくて、三階部分でタヌタヌを発見する。

 発見した場合の行動で、再びの変化。


 まずは異変を攻撃、破壊すると上層の出口がループした閉鎖空間になる。

 この時、その攻撃したグループ、チームが隔離されるようだ。

 この隔離は、もとより霊視できない者だと感知できない。

 唯一、パパラッチカメラが霊視感度を上げていた場合は、破壊されるか遮断した空間で通信途絶となる。


 次に、攻撃しなかった場合。

 そのまま上層に手出しせずに出口まで出てしまえば、帰れる。

 異変を見ても、それが異変と気が付かなかった場合もだ。


 そして攻撃しなくとも帰れないというのが問題。

 例えば、この間違いの中でも、凶悪なリソースが出現した場合だ。


 彼らはグループを隔離、霊的な能力、精神感応能力がある人間を食おうとするらしい。


 因みにダンジョンにモンスターを放し飼いにして、リソース収穫の実としているのは、そうしたルールを設けダンジョンとしての運営エネルギーに当てているらしいよ。

 余剰リソースでモンスターを産んで、それを討伐させる。

 余剰リソースで資源を採掘させて、それを運び出させる。

 人間という生命を出入りさせる事で安定した空間を保持させた上で、活動で得られるのは、不安定なリソースを形として放出し本来の領域のエネルギーとして戻す事ができる。

 これダンジョン学、リソース分析学とかいう奴の学説ね。

 リソースが枯渇すれば、それに頼りきった文明は衰退するかも知れないけれど、余剰リソースがある限り不安定な次元のままである。

 これは世界の安定には不可欠な活動なのだっ!

 ってのは、私としてはどうでもいい話である。

 平和で楽しくのんびり生きていきたいのである。

 その為にも、ダンジョンの安定は必要なわけで。


「ということで、タヌタヌは壁の」

『冗談でもいうなやぷぃ、マジギレするぷぃ』


 ぽてっ


「子狸が仰向けに、何のパフォーマンスっす?」

「..殺せと?」

「いやいや、そういうトラウマトラップは逆に俺、イヤっす!」

「わかったにゃ、ほら、ループ空間にするにゃ。ボス直行友達チケットでもだせにゃ」


 ʕ ˘ω˘ʔノ□

『いちおう、これからはアタイ達を発見して、お話できたらチケット渡すようにするぷぃ。

 今までは攻撃してきたらボス空間へ招待してたぷぃよ』


 渡される古式ゆかしい電車のチケット。


 しんじゅく駅⇒きさらぎ駅?


「突っ込んでいいかにゃ?」

『クリア条件は普通のダンジョンと同じぷぃ』

「普通って、普通は歩いて外に出るだけにゃ」

『ボス部屋と同じシステムぷぃ』

「使わなかったら帰れるかにゃ?」

『アタイ達のチケットをもってても、先に進まなきゃ帰れるぷぃ。

 帰れない時は、奴らが出た時ぷぃ』

「イレギュラーの排出リソースにゃね」

『それも彼奴等をお宝にできれば、普通に帰れるはずぷぃ』

「つまり帰れないのは」

『元凶がたおされてないぷぃ。そして奴らが人を食べてるぷぅ』


 と、会話していると電車がやってきた。


「いちおう説明しておきますと、ダンジョン空間に現実の鉄道網は混ざっておりません。」

「幽霊列車にゃ」


 これまた昔風の電車である。

 今風の科学な乗り物ではなく、ジャパニーズサラリーマンがすし詰めになっていた頃の、The・通勤快速風の煤けた奴だ。なつかしいぃ(ΦωΦ)


「ちなみに、みんにゃは、きさらぎ駅とか猿夢とかの都市伝説知ってるかにゃ?」

「なんすか、それ?」

「存じ上げません」

「データで検索しますと、覚醒者コミュニティでの創作物にあるようですね」


 さすが拡張兵七号お姉さんである。

 データベースは防衛軍だもんね。


 で、到着した電車、通勤快速なら小さな無人駅には留まらんやろうと高をくくっていると、電車の表示が眼の前で変わる。


 きさらぎ駅?


「ツッコミ待ちかにゃ」

『リソース構造が、アンタ達が来るとお笑い体質になるぷぃ』

「元からな気がするにゃ、タヌタヌ。お前、ノリが良すぎるにゃ」

『知性型運営リソース生命はアカシックレコードと結びついてるぷぃ。

 アタイたちは、円滑にリソースを排出したいという意識の集合体ぷぃ。

 はーどでぐろえすえふは、アタイたち普通のリソース生命には荷が重すぎるぷぃ』

「ぶっちゃけすぎにゃ」


 というタヌタヌの言葉は、実は私以外だとよく聞き取れていない。

 記録できてはいるだろうが、内容ばタヌタヌのぷぃぷぃ言語である。


「一応聞くけど、こりは掲示板の方かにゃ?それともホラー映画のほうかにゃ」

『オカイタの方だぷぃ』

「また、ニッチな方だにゃぁ、オカルト掲示板とか今も通じるのかにゃ」

『通じないぷぃ、そもそも猫人類がそれをいうのかぷぅ』


 ダンジョンリソース生命体に、己をオカルト生物にされてもな。


「オチは、創作だったはずにゃ。

 そもそも鉄道路線が違うにゃ、そこのところは、どうするにゃ。

 まじでオカルトで猿夢とかと混じってたら、にゃぁは我慢出来ないにゃ」

『恐れるがよいのだ、ぷぃぴぃ』

「我慢できずに、戻ってきて、タヌタヌを壁の染みにするにゃ」

『言うておくぷぃぴぃが、排出用お宝リソースとアタイ達運営リソース生命体は違うぷぃよ。

 デッドポイントリソース、つまりアタイ達はトラップのひとつなのぷぃ。』


「全部、蹂躙すれば問題ないにゃ」


『なんでそんなにデストロイなのぷぅ』


「そもそもダンジョンハンター風にしてリソース排出しようって、そっちがおかしいと思うにゃ」


『クレームはリソースコアに言ってほしぷぃよ』


「まぁ理由は想像つくけどにゃ」


 本来はもっともっと攻撃的なリソースエネルギーを、わざわざ攻略可能な存在に落としているのだ。

 このグレードダウンにも限界があって、それがダンジョン生命体を凶暴なモンスターという形にしている。

 そして運営職員であるタヌタヌは、トリーガーポイント、つまり物語ロールの進行を促す存在なのだろう。

 そして更に救済パッチが、我々猫人類という訳だ。

 そうすると彼ら運営としても人類滅亡はよろしく無いルートでもある。

 グレードダウンを受け付けないバグ=エイリアンの可能性は高い。


「まぁそれもこれも、にゃぁがシリアル番号一番だと仮定してのはなしにゃね。にゃぁは多分、リソース管理が最強だと思うにゃ。そこんとこタヌタヌ的にどうよ?」


『キモチワルイレベルぷぃね』


「もうちょっと弄ってやろうかにゃ。タヌタヌのお友達は、ウサウサとかピヨピヨとか、ちぃっちゃい奴らにするにゃ」


『やめろぷぅ管理リソースが、ファンシーオンリーとか恐怖ぷぃ』


「冗談はさておき、強制メルヘンワールドの効果をみつつ、あぶり出して王国にバグ処理してもらうのもありなのにゃ。

 奴らだとこっちも消し飛ぶ可能性もあるにゃからね。

 それとも、デバッグ効果も今ならあるにょかな。それとも招き猫神罰効果?

 どう思う、タヌタヌ?

 にゃぁは、イレギュラーでもイケるかにゃ?」


 ぽて...ʕ ˘ω˘ʔぷぅ


 また、死んだふりをされたので、猫神神罰もありそうなのである。

 ちょっくらお試しで潜っていくのもありかもだ。


「新階層は、先に防衛軍から派遣します。」


「観るだけにゃ」


「しかし」


「にゃぁの限界を一応探っておくのもありにゃ。

 このチケットがあれば、引き返すこともできるにゃしね。

 まぁ騙したら、ダンジョン隔壁をぶち抜いてやるにゃ。

 全力投球で、ここをタヌタヌ動物園にしてやるにゃ」


『一応言っておくぷぃ。

 アタイ達リソース生命は、アンタ達と同じ意思と目的なのぷぃ。

 だから、適切な排出速度を保っているぷぃ。

 人間という生き物の優先順位が一番じゃないだけぷぃ。

 アンタ達のおかげで、お笑いに特化されると排出サイクルもおかしくなるぷぃよ。

 それはお互いに困るってわかるぷぃ?

 過剰になるだけじゃなくて、今みたいに停止して他に排出口が出現するかもなのぷぅよ』


 なるほどぉ。

 次元の不安定化が長引くというリスクも抱えるわけか。

 だから、ネコネコ王国も定住して強制力を大いに発揮はしていない。

 何らかの選出?によって、猫の数を調整しているのかも。

 これも後で調べなきゃだね。


『猿夢は無いぷぃ、ここのコンセプトは屍人ぷぃ。

 つまり、本来は階層拡張だけなのぷぅ。

 ボス配置ができるようになっただけぷぃ。』


 相変わらずの間抜けな顔ʕ ˘ω˘ʔで、真面目に解説をするタヌタヌである。


『ここのコンセプトから外れるようなら、それはアタイ達とは違うぷぅよ。』


 乗り込んですぐに扉が閉じる。

 ホラーになるのだろうか?


『むりぷぃ、お笑い体質の元凶がいるぷぃよ』


 足元を見ると、何故かタヌタヌが一緒だった。


「何でついてくるにゃ?」

『案内に指名しておいて、それは無いぷぃ。それに異常個体の確認ぷぃ』


「人間食う奴って、だいたいどんなのにゃ?」

『異常個体はアンタぷぅ』

 シャー!!(ΦωΦ)

『..アタイ達もあまり良くわかってないぷぃ。

 同じリソース生命とは思えないタイプぷぅ。

 どちらかというと、排出リソースに似ているぷぃ、彼奴等、何を考えてるかわからないぷいぴぃ』


 んで、電車はガタンゴトンと走り出したのであった。

 困惑する男二人に、ハードボイルド七号お姉さんは通信は保たれていますとの事で、バックアップ要員も電車に乗ったとのこと。

 隠密行動で他の拡張兵さんもいたらしい。まぁそうだよねぇ〜。

 で、マー君も無事に車内で旋回。

 電車は猫と狸を乗せて順調に、ブラックアウトした。


「にゃぁ、真っ暗にゃけど、攻撃してこないにゃぁ」

「地場異常が認められます。一度、空間跳躍が試みられたようですね。

 やはり拡張していますね、空間検知範囲用のソナーでは、深度不明。

 周囲に敵性反応はみられません」

「感覚としては、下降してるっす。

 トンネルの体ですが、垂直移動な感じっす」


 で、目が慣れてきたら、大迫兄ちゃんが言う通り、電車の車窓から見えるのはトンネルの壁だったりする。


「わぁお約束にゃぁ」


 それから体感的には数分。

 トンネルを抜けると夜だった。

 黒々とした空に星はなく、暗い田舎の風景が広がる。

 街灯は遠く、小暗い景色に浮かぶのは、真っ暗な田んぼと枯れた雑草。

 遠くに見える黒い影は山並みであろうか?


 で、ホラー(?)演出が始まる。


 チカチカと点滅して車内に灯りがともる。

 薄黄色い灯りに照らされる一同。


 車窓にうつるは..なんとも間抜けな姿である。


『やっぱり、むりぷぃ』


 諦めたら、そこで試合終了だ。

 猿夢じゃなくてよかったよかった。

 きっとおサルの電車になっていただろう。


 窓にうつる猫は間抜けな口元で、一見、ぽや〜っと揺れている。

 警戒している重盛氏と七号お姉さんはハードボイルドだが、そこを旋回するパパラッチカメラがノリノリで点滅をしていた。

 たぶん、たのしいぃ〜ひゃっはぁ〜あたらすぃ〜ダンジョン階層撮影だぜぇ〜いいぇぃいい!

 って何か陽キャのノリを披露している。

 チカチカしながら、表示している文字がこんなだった、うぇい!

 ..ノリが一昔前のチャラ男である。

 キャラ付けが、頭悪い感じになっている。

 私の所為なのか?


『..いろいろな意味で、試合終了ぴぃ』


 そんな中で大迫の兄ちゃんだけが、ちょっと首を傾げていた。


「どしたのにゃ?」


「いえ、ダンジョンのイベントでは、人間側の精神に影響を与えるって言われてるんすよね。

 で、猫様には、よく知られているお話ってのがベースにあるんでしょうけど、そもそも俺達には疎い訳で、何をもって、こういうのを構築したんだろうって。

 情報端末弄ってたんすけど、よくわからないなぁって」


「つまり?おねえしゃん、説明よろにゃ」


「大迫氏がいいたいのは、ダンジョン構造のモチーフとしてマイナーなデザインを、なぜ採用したのか?と、いう話ですね。

 他のダンジョンは環境依存だったり、多くの人間が知るところのストーリーテリングが置かれています。未知の空間ですが、テーマとして人類のパラダイムを利用している様子があるのです。

 ある程度のダンジョンの敵性生物の予想をたてるのに、探索者はそうした文化背景を情報として蓄積しているのですよ。」


「って言われてるけど、そこんところ、どうにゃよ?」


『ニッチな第三次元オカルトマニアを取り込んだに決まってるぷぃ。』


「そんな濃度の濃いマニアがいたのかにゃ?」


『生息する人類に合わせているぷぃよ。

 このエリアは特殊な人類が多いぷぃ。

 マイナーじゃないと、ダンジョンボスがつまらないとか言い出しかねないぷぃ。

 集客率の問題ぷぃよ。

 他はモデリングがお安くても、妙に固くてバリツヨなら、問題なしの脳筋スタイルがおおいぷぅ。

 ここは難易度以前の問題ぷぃ。

 変人に合わせて、マイナーでアホな発想を採用したぷぃ。

 ちなみに、自宅警備歴ウン十年のオカルトマニアのつわものを採用したぷぅ。

 詳細なプロフィールが知りたい場合は、ボス攻略特典のお宝ボックスの傍にオチてる謎言語が書かれた紙を解読するぷぅ。これ、攻略マメぴっ!』


「嫌な、人材発掘してるにゃねぇ。つーか、そんな個人情報をお宝特典と一緒に埋葬するなし」


『ダンジョンネタを採用された兵には、夢枕にたって、人生についての尊いお話をしてるぷぃ。

 今では、立派に自宅から逃げ出しているぷぅ。

 まぁそれはさておき、18禁のゴアグロは採用不可にしたぷぃよ。

 そうしたらニッチなオカルトマニアが採用されたぷぅ。

 これが海を渡ると途端に、こずみっくほらーになるぷぅ。あれはマジだめぷぃぴぃよ』


「まじもんのホラーはやめれ」


 なるほど、日本の環境にあわせてカスタマイズされているのか。

 一応、優しさが含まれていたわけである。


 そんな会話をしていると、電車は無人駅へと到着するのだった。

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