第35話死闘の後に秘められた謎


エリオットが俺の前から去り、ミウがそれを見て俺の元に走ってきた。


後ろを向いても何か、エリオットから恐ろしいオーラのようなものを感じた。


ミウに視線を戻し、彼女を労った。


「お疲れ様。」


「疲れましたぁ! レイナに回復してもらいますん。」

 

疲れの色が表情に現れていた。


「バレずに済んだようで良かった。やっぱり死にたくないもんな。」


ホッと胸を撫で下ろして、彼女の肩を叩いた。

目の前でそんな光景は見たくない。


もちろんミウのことだから、そうならないように考えを巡らしてるはず。その安心感はずっと消えないでいる。


「死にたくないって言うより、アキラの側にもっといたいですん。」


彼女が微笑んで言う。


「なっ…何言ってんだよ。」


思わず胸が高鳴り、観客席から揶揄いの声が漏れた。しっかり聞いてるんだな、この人たち。


盗み聞きしてる事に苛立ちを覚えるも、頬の熱が早く冷めないかなと、両手を頬に当てる。


「フフ、単純ですん。照れてますぅ。」


ミウが俺の鼻を、とんと人差し指で軽く叩いた。


「嘘かよ!」


思わずガッカリしてしまった。その複雑な感情を誤魔化す為に、話題を変えようと必死になら考えた。


「さぁ?」


彼女が惚けた感じで首を傾げる。


嘘か真か。聞いても無駄だろう。試合に疲れたろうし、今は労わってあげないとな。


「早く会場から出ようぜ。それとご褒美になんでも買ってやるよ。」


親指で入り口を指して、彼女を急かした。


「フフフ、言いましたね? 高いの買いますん。」


ミウが飛び越えて観客席に入る。


それからエリオットに引き留められないよう、隠れるように会場から脱出した。


そして会場外で合流したレイナに、先に自宅にいるリンを回復してくれと頼み、俺はミウと買い物に行った。


彼女が一目散に行ったのは意外にも宝石商のところだった。


中に入ると、ターバンを巻いた異世界の商人らしき男が受付で、ニヤッと俺たちに笑顔を向けた。


「これですぅ! この指輪欲しいのですん。」


即座に彼女が指を指して言う。バーゲンセールで品物を狙い定めていたように早かった。


「指輪…良いけど本当に高いやつにしたな! まったく。」


だけど、ミウが無事だった事に比べれば指輪の1つ2つ買ってあげるのはむしろ、喜びの感情が上回るのだった。


彼女が俺に手を出してと言って、指輪を軽く置く。


「嵌めてくださいですん。」


透き通るほど綺麗な長い指を俺に突き出した。

この指でエリオットと、戦闘してるのが信じられないと、苦笑した。


「はいよ。」


俺が返事をして彼女の指に指輪を通す。


「ありがとうですぅ!」 


その指輪を見つめるミウの笑顔はまるで、結婚式で見せる花嫁の微笑みの様だ。


こちらまで幸せになる程に清廉に見えた。



「リンに聞いたぞ、俺を守るために戦ったんだってな。そんな無茶するなよ。困ったら俺も手を貸すから。」



「分かってないですね〜。もちろんアキラを守る為もありますよ? でもエリオットと勝負受けた狙いはそれだけじゃないのですん。」


なんだと! 他にもあるのか?

俺は意外な返事に首を何度も傾げた。


「これからエリオットは私にタイマン張るしかないのですぅ。私と1対2では戦いません。そうでなければ、立場がないですん。」


彼女の説明に思わず声が漏れる。ミウが続けて、胸を張って言う。


「つまり安全面でも私が優位に立てたのですぅ。」


「あ〜確かにタイマンしろって言っといて、後になって2対1で戦うのは、恥ずかしいよな。エリオットにしたら。」


「そうですぅ。フフフ、もちろん1対1なら、途中から私の仲間が来たら逃げるしかなくなり、誰も来なければ、私は逃げますぅ。」


「後のことも考えてたのか、やるな!」


俺もそれぐらい考えれれば良いな。でも狡い。




でも出来ればそんな場面に遭わないようにするのが1番ですん。ということで、アキラが常にボディーガードするのですぅ。」


それってずっと側に居ろってことだよな?

胸が少し弾んだような気がした。


「なんだ? 要は一緒にいたいんじゃないか。」


軽く言ったけれど、心は穏やかではない。なんというか、気恥ずかしいというか。

ミウの甘い声にほんのりと、動揺してしまう自分に戸惑いを覚えた。


「違いますぅ…多分…どっちでもこの際良いですん。」


彼女が恥ずかしそうに体をくねらせる仕草に、いじらしい想いを馳せた。


身体に何か心地よい痺れを感じて、俺はまた話を変えるように、彼女を責めるように言う。



「もう理由はないだろうな? 隠さず全部吐け。」


照れ隠しであるとバレないだろうか? 彼女の勘の良さに焦りを感じ手に汗がたまる。


「エリオットの能力の把握及び、戦闘タイプ…理由なんていっぱいありますん。」



「天才かよ! でも誤算もあったろ?」


思わず大きな声で彼女を褒めた。誤算という言葉がついて出たのは、完璧な予想を立てられるのは、ミウとの距離感が離れると感じたからだ。


「誤算なんてあって当たり前ですん。 預言者じゃないので、それも想定して対策取るのですぅ。」


彼女の賢明な返事に、以前の行動の矛盾を覚え、俺は反論した。


「そんな賢い癖にギャンブルで負けて、仲間の金まで盗むのおかしいだろ!」


どう考えてもそんな行動をしたのは、不自然だと頭をよぎる。



「言ったじゃないですか? 敗北の美酒を飲みたいって。それにお金は未成年なので踏み倒しました! 仲間のお金盗んでも許してくれるの想定…おっと口が滑ったぁ。」


彼女の言い草に思わず吹き出した。なんて自由奔放なんだ。無邪気な彼女が口を抑えて俺を見つめていた。


「聞こえてるわ! 口を抑えても、もう遅いし。」

 

彼女が一瞬申し訳なさそうな表情をして、お辞儀をしたけど、すぐに元の笑顔で誤魔化すように言う。


「でも本気出されてたら、今ごろお墓のなかですぅ!」


ミウの真剣な話なのにユーモアを入れる話振りに、俺は触発されて、彼女の真似を思わずした。


「そうなのかですぅ? 本気じゃなかったですぅ?」


彼女に拳で殴られて、おおぅと思わず声が出た。


俺はいつも人を揶揄う癖に、揶揄われるとそういう反応は良くないと文句を言った。


するとミウは案の定上手く俺を手懐けるように、反論する。


アキラ以外にはしないですぅ、と俺だけ特別なんだというふうに、何もそれ以上言えなかった。


「未来予知出来るんですよ、エリオット。封印してあるみたいですけど。」


「強すぎるな。」


「だから、最初は嫌がりました。それって固有スキルの様です。人によっては、職業スキルの他に固有スキルが有るってセレーネから聞きましたん。」


そんなのが? 今まで聞いたことないな。驚いていると彼女が続けて言う。


「アキラのもインフィニティブレード、固有スキルでしょ?」



「そうなの? 知らなかった!」


固有スキル? じゃあ他の…人形を魔族に出来るスキルも遊び人のスキルじゃないのか。


まだ使ってないけど…そろそろ試してみるか。

その固有スキルは安全なのだろうか? 彼女の説明を待った。


「通称魂因子と言いますん。誰でも持ってる訳じゃなくて選ばれた者にしか使えないのですぅ。」


唐突になんだそれと俺が聞くと、唐突ではなく、セレーネに聞いたから知ったと怒られた。


彼女は魔族の一応幹部クラスではあったので、色々詳しいとミウに説明された。


そんなことまで知ってるのか。俺も色々聞き出せば良かった。玉に封じ込めてる手前、遠慮していたんだが、ミウはそんな自重しないからな。


よく考えたらセレーネって魔王の娘だから、知ってて当たり前だな。



「…俺は選ばれたのか。ミウは使えるの?」

俺の質問には答えず彼女は続けて話す。


そこである仮説を立てましたん。

ミウがそう言うと、指輪を鋭く見つめた。


あれ? この指輪見たことある。確か女神様も付けてなかったか? 同じのだよな?


しかし仮説? なんだか大層なことを言うので、俺はみんなで話そうと提案し、ミウも同意した。


俺の心の中に不安と興奮が入り混じる。魂因子、選ばれた者、そして女神様の指輪と、ミウの指輪が被ったこと。全ての謎がこれから解けるのだろうか?

 

                 第一部完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る