第4話 この事は秘密にしてほしいんだけど

 喫茶店内。啓介けいすけは莉子と同じテーブルに座っている。


「そう言えば、今さらなんだけど」

「な、なに?」


 莉子りこから話しかけられると、声を震わせ、反応を見せた。


「君の事は、なんて呼んだ方がいいのかなって」

「普通な感じでいいよ」

「普通って、苗字とか?」

「そうだね」


 啓介は少々考え込みながら頷いた。


「うん、そうだね。その方がいいかもね。じゃあ、難波君でいいのかな?」

「そういう感じで」

「私の事は、月見里でいいから」

「でも、流石に呼び捨ては。だったら月見里さんで」


 啓介は咄嗟に提案する。


「難波君が呼びやすかったら、それでもいいよ」

「うん」


 啓介は互いに名前を呼び合った事で、普通の彼氏彼女みたいな関係になれた気がして、内心嬉しかった。


 そうこうしていると、店内の奥から足音が聞こえる。


 テーブルのところまでやって来たのは、先ほどと違うスタッフの子だった。


 彼女は手にトレーを持ち、その上にはココアが入ったコップが置かれてある。


「な、なんで二人がここにいるの?」


 喫茶店のスタッフとして働いている桜田亜佑奈さくらだ/あゆなから驚かれていた。

 彼女は茶髪なショートヘアが特徴的なクラスメイトの女の子である。

 普段から明るく友人も多い彼女だが、放課後は皆と遊ぶことなくバイトをしているらしい。


「あなたこそ、どうしてここで働いてるの? バイトは禁止事項だよね?」


 莉子が言うと、亜佑奈は小声になっていた。


「だ、だから、それは大きな声では……えっと、二人には約束してほしいんだけど。これは秘密にしてほしいの」


 彼女は焦った口調で懇願してきたのだ。


「わかったわ。そういう事にしておくから」

「ありがと。啓介も言わないでね!」


 と、亜佑奈から少々厳しめな口調で言われた。


「約束してくれる変わりに、今日は私がサービスしておくから。次いでにケーキを持ってくるね」


 彼女はトレーからココアが入ったコップをテーブルに置くと、さっさと二人の元から立ち去って行ったのだ。

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