第74話 理不尽と妹だけど、どうしてくれよう
犯人は現場に戻るとは良く言ったものだ。
一説には、確認することで自分が気付いていない証拠が無いと安心感を得ようとしているだとかがある。
後は自分のしたことの状況を観て、満足感を得るためだ。
「捕まえた」
私は廊下の角で待ち構えて、クラスに様子を伺いに来た彼女の手を捕まえた。
ニコリと笑った私を観て逃げようとしたが、私だって元陸上部だ。
造作もない。
「……すごい剣幕だったね?
思わず教室から逃げちゃったわよ。
で、どうしたの?
怖い顔しちゃってさ」
ニヤニヤと意地悪い顔を浮かべている彼女。
「貴方が姉ぇの写真を張り出した犯人。
あとそれとなく皆を誘導したのもそうだよね?
貴方ならクラスのカーストを行き来しているし、それとなく焚き付けることも可能だ」
そう突き付けてやるが、彼女の顔は変わらないままだ。
逆にそれが私を確信にさせる。
普通ならそう言われ、驚く、あるいは何を言っているのか判らないという反応になるはずだ。
「姉ぇの写真を載せて新聞に仕立て上げたのは、最初っから貴方は自身が犯人だと言っていたのは、嘘じゃなかったんだ」
「……ちなみに証拠は?」
「あの時、姉ぇの友達と会った時に居たのは私、含め六人。
この学校では、姉が私に似ていることは知らないし、元々、ああいう人たちに付き合っていたことも知らない。
他の四名で無いことは判ってるから消去法だよ。
それに」
ここからは鎌をかける。
「風紀委員や生徒会の一部しか知らないけど、各クラスに隠しカメラがあるから。
それを確認させて貰う。
そうすればあなた自身が言ってたことが解る」
「……なるほどなー」
彼女はそう言い、
「で、映っていたとして、動機は?」
「判らない。
だから、貴方に確認したかったの。
それだけを聞きたかったから待っていた」
これだけはパーツが埋まらない私が居る。
「……そうよね。
判らないわよね。
あんたが気に喰わなかっただけだし」
「気に喰わない……?」
っと、それは意外だったために反芻してしまう。
いや、妙に納得している自分が居ることに気付く。
「あんたをおどおどとしててさ、私が保護しているていで、自己満足を満たしていた訳よ。
クラスでの地位もこれで安定させてた。
厄介者の風紀委員を宥める役目ってね!」
何故、私がこの目の前の人を友達だと認識していないのか、はっきりと自覚できたからだ。
彼女が私を友達扱いしていないと何となく理解出来ていたからだ。
だから、クラスメイト扱いをしていたのだと。
「なのに、最近は私がアンタのオマケ扱いで……!
日野君の件もそうだ!
小学校の頃から同じ学校だったけど、オマケ扱い!
というか、名前すら知られて無かった!」」
歯を向けて話してくる。
「嫉妬よ嫉妬!
美人だし、堂々とし始めるし!
あぁ、もう……ぐちゃぐちゃなのよ!
だから、金曜日に閃いたのよ。
中学校時代の伝手を使ったら、出てきたのよ、あの写真が。
あんたの地位を下げてやれる、そう悪魔がそう囁いたのよ!」
泣いて叫ぶ彼女に対して、
「そんなことだったの」
心底どうでもよくなった。
キーンとしてまるで南極の氷のように冷えた心が言葉を紡いでいた。
「そんなこと……?」
「正直、誠一さんが言ってた通りでがっかりした。
そしてどうでもいいって思ってるのが正直な所。
あなたと話したかったのは確認だけ」
気づけば、私は女としての部分が出てきている。
完全に目の前の女を、格下に見下している。
「何だかんだ、気を使ってくれた事実は消えない。
とはいえ、今回の件で思う所が無いわけでもない。
なのに、正直、不思議なほど、何も感情が沸いていないの」
だから、
「貴方は罪を数えろ。
私は別にどうもしない。
どうでもいい。
あとは、全部ぶちまけて学校の処分に任せるから」
彼女の手元が動いた。
光が見えたと思った瞬間、私の胸元まである髪の毛が一部が切り飛ばされた。
「あんたっていつもそうよね、他人に興味がない。
ムカつく」
「……!」
カッターだ。
鈍いわけではない自分の動体視力に感謝である。
顔を狙われた。
「そうよ、私が下せばよかったら簡単だったんだ」
ねっとりとした笑みが私を向く。
ブルリとした、寒気を覚える。
「あはっ。
怖い?
流石にどうでもいいって言ってられなくなったんだ」
狙いは顔を中心にしてくる。
避けることに専念していれば、そんなに難しい事では無いが、どうしたものか。
後ろへと下がりながら手に持っていた携帯のボタンを押して、準備をお願いする。
「待ってよ、待って」
追いかけてくる彼女。
まだ人が居る時間だ、周りも彼女の手元を観て叫び、逃げ出し始める。
教師たちにも一報が入り、対応も来るだろうが、時間はかかるだろう。
だから、私は指示通り、自分の教室に逃げる。
「あはは、逃げられないよ!」
「逃げてるつもりも無いんだけどね……」
っと、瞬間、入口から顔を覗かせた彼女の胴に飛んできた椅子がぶち当たる。
流石に呻き、怯む。
「モノを投げるのが一番なのは聞いた通り、確かだな。
暴漢の抑え方をクラスメイトに聞いといて良かった」
誠一さんだ。
そしてお替りとばかりにもう一個、容赦なく投げる。
手に当たったらしく、カッターが床に転がる乾いた音が床に響いた。
「暴力女もたまには役に立つわね。
近付こうと考えたら危ないモノ」
っと、姉ぇが動き、カバンから取り出したスプレーを顔に吹きかけた。
「?!?!?!」
「唐辛子スプレーよ。
護身用で薄めてあるから失明はしないと思うわ」
悲鳴にならない声が上がった。
「……私は彼女のこと知らないけど、仲良かったの?」
教師に連れられて行く彼女を観て、姉ぇがそう聞いてくる。
最後に見た彼女の顔は、顔を下げており、観えなかった。
「どうだろう……。
何というか、私も友達扱いしてなかったの判ったし」
「というか、友達居るの?」
言われ考えるが、あえて言うなら、
「……日野君?」
彼は騒動を見届けると、部活に行ってしまった。
誠一さんの事を睨むように観ていたが、ついぞ言葉は交わしていない。
誠一さんは気にも留めていないようだった。
「……妹のことが心配になったわ……。
ねぇ、しどー君?」
呆れ顔で、誠一さんに同意を取る姉ぇ。
「心配になる要素は排除するつもりだけどな。
流石に限度を超えすぎだ、彼女は。
ちゃんと色々手を回す」
っと、誠一さんは真面目な顔をして、物騒なことを言っている。
姉ぇは呆れをジト目で現しながら、
「燦ちゃん自身のことよ」
「あぁ、それは大丈夫だろう」
さも当然のように誠一さんは私に信頼を示してくれる。
「燦が男性を友達にあげれる程度には回復しているし、何だかんだと女生徒相手にもやりあってたし。
友達と、カテゴリーを区切って人と付き合わなくても良いと思うし。
それにだ」
っと、誠一さんが視線を教室の反対側に向けると、心配してくれていた男子生徒達と女生徒が、遠巻きに私達を観ている。
「ちゃんと心配してくれる人も居るのは判ったし。
これからちゃんとすれば友達にでもなれるだろう」
「そうね」
「燦、僕らだけで従来通り顔合わせに行ってくるから、彼らを安心させてあげてくれ」
っと、笑顔で背中を押してくれる誠一さんだ。
「判りました。
それと誠一さん」
私は笑顔で振り返り、
「……今日、泊っていいですか?
全部終わったら緊張が解けてきて……。
反動もあって、興奮の衝動が来始めていて、その……」
内またになり、モジモジしながら他の人には聞こえないように小さく言う。
ジンワリと下着が湿り気に濡れ、頬が熱を帯び始めているのだ。
今日は女の部分が出すぎたのかもしれない。
「断らなくていいんだぞ?」
っと返してくれるので、嬉しくなって笑顔を彼に向けれた。
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