第38話 妹としどー君の初顔合わせですが、なにか?

 そもそも何で、私がしどー君に妹と浮気を勧めたのかは、彼が誠一君で妹が真面目系処女ビッチだったからである。

 二つの言葉が全く繋がらないと思うので、簡単にストーリーで説明していくとしましょうか。

 今回は妹目線も踏まえてね?


 ◆


「初めまして」


 という訳で、妹としどー君の初顔合わせだ。

 理由は単純、学校が横浜市内にある妹が帰れなくなったからだ。

 横浜市営地下鉄が台風で夕方四時ごろ浸水してしまったのだ。


「ごめんね、しどー君。

 妹泊まらせてもらっちゃって」

「いいよ、別に。

 しかしあまり恰好は似てないな。

 顔つきとかは似てるけど」


 というのも、妹の格好はメガネ、後ろにぶっきらぼうにゴムで止めた髪型、色気の欠片もないのだ。

 外せばそっくりである。髪も天然茶色。

 素材は良いから何とかしたいと頑張ったことはあるのだが、姉妹仲が拗れただけだ。

 妹は妹の矜持があるのだろうと最近、理解できた。

 さておき、


「妹よ、何緊張してるのよ」

「しない方がおかしいと思うんだけど。

 とはいえ、姉ぇが付き合うって言った人がこんな真面目そうな人で少し安心したわけだけど」


 なお、しどー君はマジメガネモードである。

 家だし、特に妹にかっこつけさせてもである。

 それに惚れられても困る。

 何だかんだ姉妹だ、男の趣味が似ている可能性がある。

 さておき、


「晩御飯は食べたの?

 ウチラも何とかかんとか、タクシーで返ってきた所だけど」

「まだだけど」

「なら、用意するからしどー君と遊んでて?

 あ、つまみ食いならしどー君を食べていいわよ?」

「姉ぇじゃないんだけど……」


 知ってる。

 妹もしどー君と同じ真面目ちゃんだ。

 料理をしながら様子を見るが、マジメ同士とっかかりがないのか会話が無い。


「仲良くはしてほしいんだけどなー」


 とはいえ、初対面ならこんなもんか。

 私だって初対面は緊張する。

 特につい最近まで誰にでもビッチだった訳で、初対面で危険か否かを定めないといけなかった訳だから。

 さておき、


「しどー君」

「なんだい?」

「妹に勉強おせーたげて」


 とりあえず、きっかけだ。

 経験則だが、人間というのは共通の話題や物事をクリアしていくと打ち解けていく感じがある。

 ビッチ的に言えば、いきなりマッサージを希望される人よりもトークで楽しませてくれた人の方がポイントは高い。

 肌を重ねたり、マッサージなんかも結論、共同作業なわけでしてね。

 前準備は必要なのさ。

 とはいえ、独りよがりの自慢話とかされても困る訳だが。


「妹よ、なんと私の彼氏は学年五位だ」


 上位三位内は満点二名、一問ミス一名の化け物なので除外してほしい。

 しどー君だって、記述の減点とマークの一問ミスだ。

 大差無い。


「はいはい、のろけのろけ。

 言ってもウチの学校じゃ、自分は三位だけど」

「レベル一個下じゃん。

 やーいやーい」

「……この姉ぇめ……!

 姉ぇの見直してたらマークミスで受かってたし……!」


 運も実力のうちである(震え声)。

 真面目な話、受かっていなかったらしどー君と出会ってなかった訳でして、ハイ。それは素直に恐ろしいことだと思う。


「なお、補欠合格の私を上位三割まで伸ばしてくれた先生でもある」

「それはすごいんだけど……」


 疑いの眼差しをしどー君に向けたままの妹。このままではらちが明かないので、

 

「とりあえず、やってみたら?

 しどー君、お手柔らかにお願いねー」

「判った、負けないように頑張る」


 そして教科書をリビングで広げあうのを見て、微笑みが浮かぶ。


「昔の私から見れば、一人の男にこんなに入れ込むなんて思わないんだろうけど」


 思い返せば、遠い過去の事にも思える。

 医者を目指そうなんて考えは絶対なかった。

 そうでなくても一つ道が違っていただけで、絶対、私の運命は変わっていた。

 しどー君とあの時出会わなかったら、私は色んな男とやっていただろうし。

 しどー君の提案が無ければ、私は今でもお金のためにパパ活を続けていただろうし。

 しどー君が中間テストでミスをしなければ、ここまで私は惚れなかったかもしれないし。

 しどー君が道を一つでも間違えて間に合わなかったら、私はここに戻ってこれなかっただろう。


「なんともなんとも」


 今の自分から見れば、怖い話である。

 結果、今、ここにいるわけで……。

 うん、ここにいるよね?

 っと、自分の体を浅く抱く。

 実感が沸く。


「初音?」


 呼ばれ、向けばマジメガネ。

 どうやら冷やしほうじ茶の追加を取りに来たようだ。

 心配そうな顔で見てくれていて、うん、ごめんと思う。


「私、ここに居るんだよね、ってちょっと怖くて」

「君はここにいるから安心しとけ」


 と、マジメな顔をして言ってくれる。

 うん、いつものしどー君だ。

 彼を通して私は自分を認識し、安心する。

 全く、良い彼氏さんである。


「抱きしめてくれないの?」

「妹さんが居るからな」

「確かに、妹が居なければ私だって襲っていただろうし……」


 マジメガネな回答であるが致し方なし。

 ちくせう。

 今日は夜もお預けだ。

 まぁ、時間をおけば後のは昂るから、これはこれでありなのだが。

 ふふふふふふ。

 何しようかなぁ、今からエロい妄想が出てくる。

 結局、カラオケ耐久してしまっていけなかった、ラブホいくのもありかもしれんね? 台風の中、つっきて。


「初音、顔が邪悪になってる」

「ふふふ、しどー君でエロい妄想してたからねー」


 言ってやると口元がバッテンになって、頬を赤らめる。

 くくく、初心よのう、可愛いのう。

 心の中で涎が出てしまう。


「ほらほら、お客を待たせたらだめだぞー」


 とはいえ、スイッチが入る前にしどー君をリビングに返却だ。

 そして私は晩御飯に集中するのであった。

 ビッチは手を抜けない性質なのだ。

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