第7話ー⑦「どうでもいいよ」
7
現在
「暁、本当に陸上部なのか?これで、バトンパス4回目だぞ」
「これでも、リレーは4番手任せられるウチのエースなんだけどね」
もうすぐ、体育祭と言うその日のリレー練習。
あたしは、結城からのバトンを受け取ることが出来なかった。
「晴那、大丈夫ですの?」
「ごめん・・・」
「らしくないですわ。そこはミスっちゃったとか、余裕余裕という場面ですわ」
「リレーメンバー変えるか?」
今回のリレーメンバーの一人、結城雅人。野球部ポジションはセカンドの走りに絶対的自信を持っている。
彼からのバトンパスに、あたしは二回取り損ね、二回オーバーゾーンを出てしまった。
「いや、無理っしょ。矢車ちゃんはともかくとして、暁ちゃん以外で4番手任せられる人なんて、居ないよ。本気で勝つならの話だけどね」
同じ陸上部の緋村の言う通りだ。何より、あれだけ自信満々に言っておいて、此処で逃げる訳には行かない。
「大丈夫、何とか、取り戻すから」
「そうですかい。だったら、いいけどさ」
彼はあたしのことを邪見に扱ってはいるが、それでも実力を認めているのは、あたしが短距離で実績をあげられているから。
「今日はこれ位にして、別競技の練習に使おうぜ。最悪、一発で決めた方がいいかもな」
「緋村が良いなら、いいんだが」
「今日は解散に致しましょう」
その場は解散となり、あたし達は校庭を後にした。
結城と緋村の2人は、別のグループに合流し、あたし達2人は応援合戦の方へと足を向けようとしていた。
「どんまい、どんまい、その調子で行こうぜ」
背後から聞こえて来たのは、他でもない中村とクラスメイトとのバトンパスのやり取りだった。
「今はバトンを持つ感覚だけ、覚えればいい。これがあるか、無いかで色々変わるからな」
「ありがとう、中村さん。助かるよ」
「うちのキャプテンより、やりやすい」
「バカ、後ろ後ろ」
中村と同じ陸上部を含めたリレーメンバーとのやり取りを盗み聞きしていることが、バレたので、あたし達はその場を後にして、
「わたくしも中村さんとリレーやりたかったですわ。それもこれも、あなたの所為ですわ、晴那」
「だけど、最後に勝つのは、あたし等だよ」
「そういう方便は練習で実績上げてからにしなさいな」
その通りだと思った。このままでは、あたし達では勝てない。
それより、あたしは中村の人当たりの良い態度に驚いた。
担任すらも、匙を投げた彼女の転身ぶりには、引くレベルで驚いていたのが、実際の所だ。
「中村さんも変わろうと藻掻いているんですわね」
「そうかもね」
「べ、別に晴那が藻掻いてないとか、そういう話じゃありませんわ」
「気ぃ遣わないでよ。友達でしょ?」
天は何処か、照れた顔であたしを見つめた。
「ともかく、今は応援練習に向かいましょう」
「あたし、保健室行くわ」
あたしは、保健室に向かおうと天と別れようとした時だった。
「晴那。これだけは忘れないでくださいな」
「ん?」
「わたくしはあなたを一人にするつもりはございませんから」
「なんだそれ」
「何たって、わたくしはあなたの親友ですもの」
天の言葉は何処か眩しくて、それが何処か悲しくて。
中村も、妃夜も変わろうとしている。同じ場所を周回しているのは、あたしだけだった。
どうしたら、あたしはこの周回から抜け出せるのだろうか。分かり切った答えを前にしても尚、あたしはこのぬるま湯から、抜け出すことは出来なかった。
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