第6話ー④「こういう時間」

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 それは昼休み終わりの出来事。 

 ミーティングを終え、教室に戻った時のこと。 

 すれ違う中村を後目に、戻ってみるといきなり、間宮さんが倒れ込んでいたのだ。 すかさず、あたしは彼女を抱きかかえた。


 「間宮さん、平気?」


 気絶する間宮さんを一度横向けにして、持ちやすい格好で持てるよう、お姫様抱っこの形で持ち直し、一緒にいた朝と共に彼女を保健室に運ぶことにした。


 その時、一瞬、妃夜からただならぬ視線を感じた気がした。 

 何か、怒らせるようなことしたかな?


 「そういうとこだぞ、晴那」


 「何が?」


 フンと朝に嗜めらたものの、あたしは話の意味を上手く理解出来て無かった。


 間宮さんを保健室まで運び込み、あたし達は教室に戻ろうとしていた時のこと、中村が何の前触れも無く、現れた。


 「体育祭の勝負の事なんだが」


 「もうすぐ、次の時間始まるから、あとで」 

 あたしと朝は急いで、その場を後にした。


 「なんでよー!」 


 「中さん、それ正論っすわ」


 今日の授業も終わり、部活に行かなきゃと思い、教室を離れ、靴を履き替えた時のこと。 

 中村が再びあたしの目の前に現れた。


 「体育祭の勝負のことなんだが」


 「ごめん、あたし忙しいの。また今度」


 「てめぇ、ぜってぇわざとだろ!」


 急いでいたのは、本当だったけれど、あたしは中村から逃げるように、その場を後にした。  


 何とか、中村から逃げ切り、あたしは部室までたどり着いた。


 それから部室の鍵を開け、部員全員がなだれ込むように、入っていく。 

 その中に、櫻井の姿は、何処にも見えなかった。


 「櫻井は?」 


 「さぁ」 


 「あんまり、関わりたくないんで」 

 皆、櫻井のことが、苦手らしい。 

 昔なら、面倒くさく絡んででも、連れて来たのだろうが、個人が尊重されるこの時代に於いて、こういう行為は忌避される傾向にある。


 今はただ、自分の出来ることを全うするしかなかった。


 そして、部活も終わり、朝と共に帰ろうとした時だった。


 「おせぇんだよ、ばか晴那」 

 中村が一人であたしの帰りを、正門で待機していた。


 「はいはい。何の用ですか?忙しいんですけど」


 「嘘こけ」 

 あたし達が、自転車で帰ろうとする道を中村が止めに入った。


 「前回言い忘れてたけど、リレーで勝負だ!」


 「浮いてるヤツがよく言ったもんだ」 

 朝のきつい一言にも、中村は屈する素振りも見せず、堂々とした姿で、あたしに突っかかって来た。


 「そういうことだから、逃げるんじゃねぇぞ」 

 中村は、それだけ言って、自転車を走らせた。


 「あんなにいきいきしてるあいつ、久しぶりに観た」 

 あたしの素直な言葉に、朝は関心していた。


 「何があったんだろうな」  

 朝の反応を後目に、あたしは益々、中村には負けられない。そんな気持ちを高めていた。 

 あいつが抱いている気持ちも知らぬまま

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