第5話ー④「ブーメラン」
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午後7時。大きな花火の音が、救護スペースに大きくこだました。
「えぇッ!」
いきなり、救護スペースの椅子で飛び上がるように、起きた妃夜にあたしは大した言葉を掛けることが出来なかった。
「おきた?」
「えっ・・・。うん」
困惑した声の彼女の姿に、あたしは何処か安心し切ってしまっていた。
「歩けそう?」
「うん、平気」
平気と口にはしているが、目に見えて、平気じゃないことがよく伝わって来る。 ムリさせたことに、あたしはどうしていいか、分からなくなっていた。
「ごめん、あたしが目を放したから」
まるで、幼子が逃げ出した後の母親みたいな口調で、話す自身の情けないこと、この上ない言葉に妃夜は下を向いてはいたが、ちゃんと話を聴いてくれたようだった。
「飲み物、これ飲んで」
あたしはペットボトルのお茶を差し出した。
「ありがとう」
妃夜はペットボトルのお茶を受け取り、キャップを開け、少しずつ飲み始めた。
「それと・・・」
花火の音がどんどん大きくなっていく中で、あたしは同じイスに座りながら、あたしはぼそぼそと話し始めた。
「今度、クレープ食べに行こう」
「えっ・・・」
「今日はこれ終わったら、凄い混むから食べにいけないけどさ。今度、クレープ食べに行こう。それでいいよね?」
頭を掻いても、気の利いたことが言えないあたしは、自身の食べたかった物の話をしていた。
「いや、私そこまで、クレープに関心無いんだけど・・・」
「そこは関心持てよぉぉ」
気が抜けた表情のキミにあたし自身も少しばかり、安心した。
「そうね、そうしましょう」
妃夜は勢いをつけて、立ち上がり、あたしに視線を合わせた。
「帰りましょう。今度、クレープ食べに行こうね」
「うん!」
あたしも立ち上がり、視線を合わせ、笑みを浮かべながら、家に帰ろうとしたその直後、見知らぬ男性が近づいて来た。
「羽月さん・・・、羽月さん、だよね?」
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