第2話ー④ 「どうにかなるさ」
羽月はこんなあたしの為に一生懸命勉強に付き合ってくれた。
ノートを書き写したりしながら、分からない所は教えてくれたし、無理そなのは、捨てろと言われたりと合理的であたしのことを熟知した教え方にはムダな要素が一つもないように思われた。
授業終わりでも、昼休みも、放課後も羽月はあたしの為に時間を割いてくれた。 練習が終わった後でも、あたしのことを待ってくれる彼女にあたしはどうしても、申し訳なさが生まれた。
「待たなくてもいいって、言ったのに」
「こんなにやって、結果が出なかった時のことを考えたくないだけよ」
羽月はいつも真剣だ。勉強に対しても誠実で真摯で怖い程、真面目だ。
「趣味は無いの?勉強以外で?」
「言いたくない」
羽月はふくれっ面で後ろを振り向き、帰ろうとしていた。
「ごめんってぇ・・・。教えてよ、先生!」
そうは言いながらも、羽月はあたしに勉強を教えてくれた。 あたしは羽月の優しさに甘えてしまったのかもしれない。彼女の善意をいいように、利用してるだけかもしれない。
それでも、あたし達は不器用だから、誰かを頼ってしまう。人は1人じゃ、何も出来ない生き物なんだから。
ようやく、ノートを書き終えた放課後の図書室。
あたしの頭には連立方程式と原子と分子、Be動詞の過去形でせめぎ合っていた。
「とりあえず、連立方程式やBe動詞の過去形は覚えたわね」
「頭がパンクしそう・・・・」
「パンクする位が丁度いいわ。後はそれをちゃんと活かせるようにしなきゃね」
「一つ聴いても良い?」
軽率にあたしは羽月にこう訴えかけた。
「何よ?」
「何で、羽月は頑張れるの?」
「私にはこれしかないから」
「本当に?」
本当に思っていたことだった。
きっと、彼女はそうじゃないと。
「関係無い話をする位なら、私は帰るわ。残りの時間は頑張ってね」
あたしは席を立ちあがり、帰ろうとする羽月の進行方向を妨害した。
「あたし1人で勉強できると思う?」
「思う、思います。貴女ならできます。必ず出来ます、ですから」
「最後まで付き合ってくれるって、言ったよね?」
「そんなことは一ミリも言ってない」
「責任取ってよね」
「何の責任?」
「私と一緒に勉強すると言った責任」
「嫌と言ったら?」
「あたしが両親に怒られ、監督に怒られる。そうなった、責任は全部、羽月の」
冗談半分と本気混じりの言葉に羽月は困惑していた。
「あんたの努力不足でしょうが。私1人に責任転嫁やめろ」
「えぇー、だったら、どうすんの?」
「知らない。勉強は何処まで行っても、反復と反復。後はやる気だけ。分からなかったら、連絡して。回答するから」
あたしはにやりと嫌な笑みを浮かべていた。
「連絡先、シラナイ。オシエテクレルノ?」
「じゃ、じゃあ、私家に行くわ」
「じゃあ、連絡先教えてよ。時間分からないと不便じゃない?」
「そ、そうだ。用事が」
「テスト期間だよ?」
羽月の煮え切らない態度にあたしは言いたくもない言葉を言ってしまった。
「羽月、言いたくないなら、言わなくていいけどさ。言いたいなら、ハッキリ言って。そうじゃないと誰にも伝わらないよ」
「ごめんなさい。今は無理。私、ごめんなさい」
言葉が出なかった。気遣い無用って、こういうことじゃないだろうなとはき違えた思いにあたしの歩は一歩も進まなかった。
「また、あなたなの?暁さん!」
その後、滅茶苦茶、司書さんに叱られた。
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