女妖怪達が育てるようです
星野林
淑女の集い
「はぁ、なかなか良質な魂がおらんのぉ」
彼女の名前はクズノハ、安倍晴明の母親と知られる狐の大妖怪である。
元々は安倍晴明の父親に子狐に化けていた時に助けてもらった(というか助けてもらえるように計算して罠にかかった)恩というプレイで人に化けて子づくりした変態女狐である。
「良質な魂ってなかなかいませんからねぇ。クズノハさんの旦那さんは大当たりの部類だと思いますよ」
クズノハとちゃぶ台を囲んで茶を飲んでいるのは雪女と呼ばれる妖怪で、こちらも気に入った男と12名も子供を作った逸話があり、良妻としても有名である妖怪である。
「お二人共に良縁に恵まれて羨ましい限り···私も良縁に恵まれないかな」
そう話すのは牛女であり、角と巨体から鬼に間違われることがあるが牛女である。
「久しく人間界に出ていなかったが···今世の中は大いに荒れていると聞くが雪女か牛女は詳しくはないのか?」
「申し訳ありませんクズノハさん、私達も現世との関わりは疎くて」
「もう少ししたら天狗さんが来るので、彼女なら知っていると思いますよ」
そう牛女が言うのと同じタイミングで戸が叩かれ、中に女天狗が入ってきた。
「ちわ~! お久しぶりっす皆さん、また女々しい話でもしていたんすか?」
現れたのは女天狗であり、お土産として持参した饅頭を彼女達に渡した。
「のぉ天狗、今世の中は大いに乱れていると言うがどうなのかのぉ」
「んー、めちゃくちゃ荒れてるっすよ。嘉吉の乱ちゅう時の将軍が家臣に白昼堂々暗殺されたり、応仁の乱ちゅう将軍の家督相続問題で日ノ本全体が争ったんすが、あまりに長期戦になったのと大将格の人物が次々に病没したんで頭を失った人達が本当にバラッバラに動きまくったっす。平安の妖怪跋扈とは違うっすけど殺伐としてますよ」
「ふむ···そうなると良い魂がおるかもしれんな」
クズノハがそう言い、雪女も頷く。
「皆さん人に化けれるのなら今流行りの歩き巫女の真似事でもしてみるっすか? 牛女さんの巨大な胸を使えば一発で悩殺っすよ!」
「でも私皆さんに比べると芋っぽいというか美人とは違うので」
「なーに言ってるっすか! ふくよかな方が美人って思われる時代っすよ! 牛女さんならイケますって」
「そ、そうかな···」
女天狗が牛女を励ます。
「人間界に行くなら偽名がいるのぉ···クズノハは有名過ぎるからな」
「私はいつも通りお雪でいきますわ」
「お牛···」
「いや、それは辞めた方がいいっすよ牛女さん。チチでいいんじゃないっすか? 普通にいる名前っすから」
「チチか。うん。そうするよ···女天狗さんはどうするの?」
「私っすか? 私は同じ女天狗仲間の清少納言ちゃんの作品の枕草子から取って草子って名前で活動してるっす」
「ふむ、そうじゃのぉ、狐仲間の玉藻前から取ってお玉とするかのぉ」
その場のノリで偽名を決めた妖怪達は人の姿に化けた。
日ノ本の女ということで黒髪が基本であるが、顔が狐の様にシュッとしており、キツネ目なのが特徴であった。
お雪は瞳が青黒く、肌も一番色白である。
チチは胸がデカい。
顔は芋っぽく、全体的に肉つきが良い。
草子は糸目でデコの広い姿をしていた。
「服装は巫女服で良いな」
「歩き巫女っすからね」
「あ、服を仕立てるのは私がやりますね」
「流石お雪さん。服を仕立てるのは鶴女さんと競うくらい上手いですからね」
「鶴女も誘えば良かったかのぉ?」
「あー、あの人は最近失恋して萎えてるのでそっとしておいた方がいいっすよ」
「そうじゃったか」
「草子、行くとなるとやっぱり京?」
「いや、あそこは今瘴気がヤバいっすよ。激ヤバっす。死体がゴロゴロ転がってますし、貴族が餓死したり身投げするわ、山賊が貴族や武家を襲ったりするくらい治安がやばいっす。そんなところに巫女服で行ったら揉めるっすよ」
「あー、それは駄目やなぁせっかくや、ここは占いで決めようじゃないか?」
お玉は草子が持ってきた饅頭を指でなぞると尾張と出た。
「尾張っすか」
「尾張やねぇ」
「尾張だね」
「す、尾張ですね」
「尾張っちゅうと今どこが治めてるんやろ?」
お玉が草子に聞くと
「尾張は斯波家という守護がおりますが、力を失っていて織田家が守護代として代行をしてたんすけど、その織田家の奉行の織田弾正忠家が実質尾張を取り仕切っているはずっすね」
「どことなく執権北条家の最後の方に似ていますね···家臣の家臣に権力を握られているところが」
お雪がそう突っ込む。
この日は一旦解散となり各々準備を行なった。
「イケてる魂に出会いたいか!」
「「「おー!!」」」
「準備は出来たか!」
「「「おー!!」」」
「じゃぁ門を開くぞ」
お玉が呪文を唱えるとグニャと空間が歪んだ。
「流石お玉さん、空間跳躍もお手の物っすか!」
「ただ人間界から異界を繋ぐものだからな人間界で他国に移動するみたいな事は出来んから注意が必要だろじゃろうな」
そう言うと歪んだ空間に消えていった。
お玉に続き、お雪、チチ、草子が空間に入っていく。
一同が異空間を通ると廃寺に繋がっており、スタっとチチ以外は華麗に着地し、チチはドサッと尻もちを着いた。
「もう何してるんすか」
「えへへ、ごめんね」
草子にチチは起こしてもらい、とりあえず廃寺の屋根に登って周囲の様子を確認する。
「近くで戦が起こっている···みたいな事はなさそうやな」
「ん、ちょっと皆隠れて」
お雪が言うと屋根に隠れるとガリガリに痩せた男の子が廃寺の壁に背を預けて気絶してしまった。
その男の子をみた瞬間に雌妖怪共は下腹部が熱くなる感覚を覚えた。
「え、やばいっすこんな目の前に凄まじく上質な魂が」
「ショタ! ショタじゃん! 最高!」
お雪は鼻血を出しながら興奮し、チチは屋根から降りると男の子に近づいていて息があるかを確認した。
「お玉さん、息はあるけど凄い弱ってる。ろくに食べ物を食べられてないと思う」
屋根からふわりと降りたお玉は少年のデコを触ると
「そうじゃな、近くから薬草を探して来よう。チチ、お主乳が出るであろう? 飲ませよ」
「ええ!!」
「ええ、ではない。母乳には人が生きるために必要な物が詰まっている。衰弱していてろくに食事も取れないであろうから母乳を飲ませて体力を回復させるしかなかろう」
「わ、わかりました」
「では私は近場を情報収集してくるっす」
「では私はこの寺の修繕でもしましょうかね」
草子はタタタと足早に廃寺から離れていき、お雪は鼻血を拭いてから廃寺の修繕に取り掛かった。
「ん、こ、ここは?」
「おや気が付きましたか」
「柔らかい···甘い···」
「ゆっくり飲むと良いですよ」
母乳を少年に飲ませながら、チチは少年に優しく質問する。
「ご両親は?」
「おっとうもおっかあも戦に巻き込まれて殺された。村の皆も散り散りに···」
「それは辛かったですね。今は私達に身を委ねて眠りなさい」
「うん···」
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