第28話 中間テスト①

冴木陽斗の学校では、中間テストが1週間かけて行われる。この期間中、テストは午前中だけで、午後は部活動も禁止され、学生たちは勉強に専念することが求められる。


陽斗はこのテスト週間を迎えるにあたり、ある程度の緊張感を持ちながらも、普段通りに過ごしていた。彼の成績は全体的に平均点をうろうろする程度で、特別苦手な科目も得意な科目もない。そんな彼にとって、テストはいつも少しばかりのプレッシャーを感じさせる程度のものだった。


一方で、中村亮太は、赤点回避に必死だ。彼の成績は決して良いとは言えず、特に数学と英語が苦手だった。


「来週からテストか…。なんとか赤点を回避しなきゃ。陽斗、お前はテスト前どうしてるんだ?」亮太が尋ねる。


「普段通りだよ。特別なことはしないけど、一応復習はしてるかな。」陽斗は答えた。


「俺も勉強しないとな…。」と亮太と陽斗が話をしていると、


「夏美、お願い!助けて!」


夏美は真由の突然の大声に驚いたが、すぐに事情を察した。「またテスト前に泣きついてくるんだから…。仕方ないな。」


「授業ちゃんと聞いてればいいのに…」と軽く説教をしながらも、夏美はノートを広げ、真由のために説明を始めた。


「わかんないことが多すぎて、どこから手をつけていいのか分からないんだよ…」真由は涙目で言った。


「まったく、真由ったら…。じゃあ、一緒に図書館に行こう。ここだと他の人にも迷惑かかるし、集中できる場所で勉強しよう。」


「うん、ありがとう!夏美、本当に助かるよ!」


二人は教科書やノートを持ち、図書館に向かうことにした。途中で美優紀も加わり、三人で図書館へと向かった。


「真由、しっかり聞くんだよ。夏美ちゃんが説明してくれるから、ちゃんと理解しようね。」美優紀が優しく声をかけた。


「うん、頑張るよ…。本当にありがとう、美優紀も。」


図書館に到着すると、三人は空いている席に座り、勉強を始めた。夏美は丁寧に説明をし、真由は一生懸命にノートを取った。


「これで分かった?次の問題もやってみようか。」夏美は問題を出しながら、真由に理解を深めさせようとした。


「うん、やってみるね!」真由は必死に取り組み始めた。


美優紀も自分の勉強に集中しながら、時折二人の様子を見守っていた。彼女は友達と一緒に勉強することで、自分も励まされていた。


その日の勉強会は充実しており、真由は少しずつ自信を取り戻していった。


「ありがとう、夏美、美優紀。本当に助かったよ。」真由は心から感謝していた。


「大丈夫だよ、真由。これからも一緒に頑張ろうね。」美優紀が微笑みながら答えた。


「そうそう、次はもう少し早めに勉強しようね。」夏美が優しく言った。




週末に陽斗のスマホに「陽斗、頼む。俺に勉強教えてくれ。」と亮太からのチャットが届いた。


「いいよ。ファミレスで勉強しようか。」と陽斗は返信し、出かける準備を始めた。


二人は近くのファミレスで合流し、静かで落ち着いた場所に席を取った。周りの席には少しだけお客さんがいて、程よい静かさが勉強にはちょうど良かった。


「さて、まずは数学から始めようか。これ、分かる?」陽斗はノートを開き、亮太に問題を見せた。


「うーん、これか…。全然分からないんだよな。」亮太は困った顔をしながら答えた。


陽斗は亮太に分かりやすく説明し、少しずつ問題を解いていった。途中で、陽斗の視線がふと遠くの席に向かうと、見覚えのある顔が目に入った。


「えっ、大森さんたち…?」


遠くの席には、美優紀と真由、夏美が座っていた。三人は楽しそうに話しながら、メニューを見ていた。


「どうした、陽斗?急に黙り込んで。」亮太が不思議そうに尋ねた。


「あ、いや、なんでもないよ。続けよう。」陽斗は慌てて視線を戻し、勉強に集中しようとしたが、美優紀の姿が気になって仕方なかった。


少し経ってから、美優紀たち三人がドリンクバーを取りに陽斗たちのテーブルに近づいてきた。


「あ、冴木君、中村君、勉強してるの?」真由が気軽に声をかけた。


「うん、そうだよ。中間テストが近いから、亮太に教えてるんだ。」陽斗は笑顔で答えた。


「冴木君は勉強できるんだ。頑張ってね。」夏美が微笑みながら言った。


「いやいや、亮太ができないだけで俺は普通だよ。そっちも勉強してるの?」陽斗が尋ねた。


「ううん、今はちょっと休憩してるだけ。でも、後で勉強する予定だよ。」美優紀は優しい笑顔で答えた。


「この子に勉強教えないと赤点取っちゃうからね。」と真由を見ながら夏美が笑う。


「そっか、お互いに頑張ろうね。」陽斗は少し緊張しながらも、美優紀と話せたことに嬉しさを感じた。


「じゃあ、また学校でね。」真由が手を振りながら言い、美優紀たちは再び席に戻っていった。


陽斗は美優紀たちの背中を見送りながら、勉強に集中しようと努力した。しかし、美優紀の笑顔が頭から離れず、どうしても気になってしまう。


「おい、陽斗。どうしたんだよ?集中してくれよ。」亮太が笑いながら言った。


「ごめんごめん。ちょっと気が散っちゃった。でも、勉強に戻ろう。」陽斗は気持ちを切り替え、再び亮太に数学の問題を説明し始めた。


勉強が一段落ついた頃、陽斗と亮太は休憩を取ることにした。ドリンクを注文し、一息つく。


「やっぱり、ファミレスで勉強するのっていいな。リラックスできるし。」亮太が言った。


「そうだね。でも、今日は特に気が散ることが多いけど…。」陽斗は笑いながら答えた。


「大森さんたちのことか?気になるのは分かるけど、集中しろよ。」


「亮太には言われたくないけどね。でも、やっぱりあの3人は気になるよ。」


陽斗は遠くの席に座る美優紀たちをちらりと見ながら、再び勉強に戻った。彼の心には、美優紀との偶然の出会いと、その笑顔が深く刻まれていた。


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