第24話 美優紀の異変

冴木陽斗は、学校へ向かう途中に隣のクラスの佐藤和也を見かけた。


「おはよう、佐藤。元気?」陽斗が声をかけると、和也は疲れた表情で振り返った。


「おー、冴木おはよう。最近部活でしんどくてさ。」


「そうなんだ、それじゃ配信とかも追えてないの?」


「そうだな。元々すごく見るわけじゃないし、最近は部活で余計見れてないな。」


「そっか。V友達出来たって喜んでたんだけど。」


「まぁ嫌いじゃないし、余裕あったらまた見てみるわ。」


と、陽斗は和也と話をしながら学校へ向かった。その途中、美優紀と真由、夏美が3人で登校しているのを見かける。


「あの3人、マジでかわいいよな。話すきっかけとか欲しい。」と和也が言う。


「そうだね、そっちのクラスでも話題にあがる?」


「そりゃ、学年でトップクラスの3人が集まってるわけだし話題には出るっしょ。」


和也の話を聞き、美優紀を含む3人の人気を改めて陽斗は実感する。


朝からそんな話をしていたからか、陽斗は美優紀の様子に気付いた。いつも優等生でしっかりしている彼女が、教科書を忘れ走って取りに行ってたり、先生の問いに答えられなかった。


「大森さん、大丈夫かな…。」陽斗は心の中でつぶやいた。



お昼休み、陽斗は中村亮太と一緒に昼食を食べていた。食べ終わった陽斗はトイレに行くために廊下へ出た。その時、教室に入ろうとする美優紀とぶつかりそうになる。


「わっ、ごめん!大丈夫?」陽斗が慌てて言うと、美優紀は軽く笑って答えた。


「こっちこそごめん、ちゃんと前見てなかった。」


二人が謝り合うと、陽斗はそのままトイレに向かった。戻ってくると、亮太が興味津々に尋ねた。


「さっき、大森さんとなんかあった?」


「あぁ、ちょっとぶつかりそうになっちゃって。」


「そうなんだ。なんか今日、大森さんおかしくない?」


「亮太もそう思う?さっきも教科書取りに走ってたし、何かおかしいよね。」


「まぁ、そんな日もあるか。」


二人が話をしているうちにお昼休みが終わり、午後の授業が始まった。陽斗は美優紀の様子が気になりながらも、授業に集中しようと努めた。



授業が終わり、亮太が陽斗に尋ねる。


「陽斗、今日は放課後どうする?」


「うーん、特に予定ないけど。亮太は?」


「あのさ、ココゼリアの虹ライブコラボ、もうすぐ終わりだろ?最後のチャンスで食べに行かないか?」


「いいね!今日でサクラちゃん当てよう。」


二人は笑顔でココゼリアへ向かうことにした。再びの挑戦に胸を躍らせながら、学校を後にした。


店に入ると、前回同様、虹ライブのキャラクターたちが描かれたポスターや装飾が目に入り、二人のテンションは一気に上がった。


「今日こそ、サクラちゃんを当てるぞ!」亮太が意気込んで言った。


「そうだね。スペシャルコラボセット、頼もうか。」


二人はテーブルに備え付けてあるタブレットから、前回と同じスペシャルコラボセットを注文した。タブレットから流れるサクラのボイスが、二人のテンションをさらに上げた。


「スペシャルコラボセットを頼んでくれてありがとう!これからも虹ライブをよろしくね!」サクラの声が流れると、二人は顔を見合わせてにやりと笑った。


「やっぱこの声だけでテンション上がるな!」


「本当だよ。声が聞けただけでも来た甲斐があるよ。」


しばらくして、料理が運ばれてきた。クリアファイルを気にしつつもまずは温かいうちに料理を食べる。


食べ終わると、いよいよ楽しみにしていたクリアファイルの開封タイムがやってきた。二人はドキドキしながらクリアファイルを一枚ずつ取り出した。


「さあ、どれが出るかな…」


亮太がまず一枚目を開封すると、なんとそこにはサクラのクリアファイルが入っていた。


「やった!サクラちゃんが出た!」


陽斗も驚きながら喜びの声を上げた。「すごい!サクラちゃん出たね!」


亮太はクリアファイルを手に取り、笑顔で陽斗に見せ、少し悩んだ後、ニヤリと笑って提案した。「二人で来たんだし、じゃんけんで決めよう。」


「いいの?じゃあ勝負!」


二人はテーブルの上で向かい合い、緊張の一瞬が訪れた。


「じゃんけん…ポン!」


結果は、亮太が勝利した。亮太は嬉しそうにサクラのクリアファイルを手に取り、大事そうに抱えた。


「やった!サクラちゃんゲット!」


陽斗も悔しさよりも友達が喜んでいる姿を見て嬉しく思った。「おめでとう、亮太。次は俺も当てるぞ。」


「ありがとう、陽斗。次は陽斗が当てる番だよ。」



その後、陽斗は切り抜きチャンネルついて話した。


「実はさ、最近チャンネルの登録者数が21人になったんだ。最高再生回数が596回で、動画もまだ9本しか上げてないんだよね。」


亮太はその数字を聞いて「最初はそんなもんじゃない?継続して上げていけば、きっと増えるよ。」


陽斗は微笑みながらも少し悩んだ表情を浮かべた。「ソラちゃんを応援したい気持ちは変わらないんだけど、自分が切り抜きをしていて本当にソラちゃんの力になれているのか、時々疑問に思うんだ。ただ、自分ができることはコメントで配信を盛り上げることと、切り抜き動画をアップすることくらいしかないし。」


亮太は陽斗の背中を軽く叩いて励ました。「でもさ、まだ10本も上げてないんだし、継続は力なりだよ。これからこれからだよ。」


陽斗はその言葉に少し安心し、頷いた。「うん、そうだよね。続けることが大事だよね。」


そんな会話をして二人は店を出る。


「ココゼリアのコラボもこれで最後だけど、本当に楽しかったね。」


「うん、またこういうイベントがあったら絶対行こうな。」


「もちろん!次はどんなコラボが来るか楽しみだね。」


二人は笑顔で別れ、それぞれの家へ帰った。陽斗は家に帰ると、サクラのクリアファイルを手に入れた友達の喜びを思い出しながら、次の挑戦に向けて意欲を燃やした。

「次こそは俺が当てるぞ…!」心の中でそう誓いながら、陽斗はその日を締めくくった。

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