第18話 豊穣の国アズナド
この世界に来て結構な時間が経った。今の暮らしにも慣れ家族や友達もできてとても充実した毎日お送っている。だが食に関していえばまだ足りない。そう、お米がないのだ。近くの村や街へ出かけることがあるがどこにも売っておらず各国から商人が来てその国の特産品を売っている王都でさえも米は売っていないのだ。いったいどこにお米は売っているのだろうか。
そんな話を家に遊びに来ていたヴァニアにしたら。
「王都から東に海を渡ったところにあるアズナドという国にありますよお米」
「えっ!本当にあるんだ」
「王都から船が出ているはずなのでそれに乗れば行けますよ」
それを聞いたユウは二日後ルイナたちと王都の船着き場まで飛んでいった。
船着き場には多くの商業船が停泊していた。
「これがわたしたちの乗る船だよ」
「船ってこんなに大きいんですね」
「人間はこれに乗って海を渡るのか」
「これだけ大きければたくさんの物や人を運べますね」
ユウはこの世界で始め見る船に胸を躍らせながら乗船した。
それからしばらくして船が動き出し東の国アズナドへと向かい始めた。
「「おお、海だー!」」
ルイナとミゼルディアは動く船から身を乗り出しはしゃいでいた。
ふたりは空を飛ぶことができるからか初めて海を船で渡ることに興奮しているのだろ。
「ご主人様ぁこの船沈みませんよねぇ」
はしゃぐ二人とは対照的にリリィは猫の姿のままユウの鞄の中でプルプル震え怖がっている。
きれいな海を眺めているといつの間にかアズナドが目の前に見えてきた。
ユウたちは船を降り市場を目指して街を歩いた。
「海に近い街ですから市場には新鮮な魚が多いですね」
「ユウ、この魚生きてるぞ!」
「うわっ!本当だ生きてる」
「どの魚もおいしそうですね」
魚市場の中を歩きその先にある野菜や果物が売っているエリアに移動した。
このエリアにはアズナドにしかない食材や雑貨などが売っていた。
だが肝心なお米は見当たらなかった。ユウは近くにいた商人にお米について聞いてみることにした。
「あの、この市場にお米って売ってますか?」
「いや、この市場にはねぇな。今年は米が不作で市場に流れてこねぇんだ」
どうやらお米が育てられている田んぼが魔獣によって荒らされる被害が増えているらしくそのせいで今年は米の収穫量が少なく市場やほかの国には売られていないのだという。
仕方なく市場を去ろうとしたとき魚市場の方がなにやら騒がしくなっていた。
「クラーケンだ!クラーケンが出たぞ!」
海の近くにいた人々が一目散に逃げていた。ユウは海にいるクラーケンの様子を見に行きたいが人ごみに飲まれて前に進めなかった。
「ご主人様、私海にいるクラーケンの様子を見てきますよ」
「無理しないで遠くからでもいいからね」
「承知しました。では行ってきます」
リリィはユウと視覚を共有し鞄から飛び出し海の方へ走っていった。
ユウ達は人気のない場所へ移動してリリィの帰りを待った。
「どうだユウ、クラーケンはいるか」
「うん、街からは離れてるけどかなり大きいね」
「こんなところで何してるの?」
ユウがリリィの視覚共有越しにクラーケンを見ていると突然背後から声をかけられた。気配や物音ひとつせずに突然現れた
「わたしたちはクラーケンから逃げてここに隠れてたんだよ」
「そう、ならここじゃなくて少し歩いた先にあるギルドハウスに行くといい」
そう言って袴の少女は風に消えるように去っていった。
「只者じゃないなアイツ・・・」
「奇襲されていたら間違いなく命は無かったでしょうね」
ルイナとミゼルディアが袴の少女がいた場所を見つめていると今度は建物の隙間から魔獣が出てきた。
「なんで人間の暮らす街に魔獣がいるんだ」
目の前に現れた魔獣を倒したルイナはそうつぶやいた。
「もしかしたらクラーケンが現れたのと関係があるのかも」
「だとすれば街に降りてきた魔獣はこの一匹だけじゃなさそうですね」
「なら探し出して一掃しようか」
ユウはジョブチェンジ!【ハンター】を唱えると片手に弓を背中には矢の入った筒を背負った姿になった。
「サーチオン・・・まだ街の中には入ってないけど周りに魔獣が五体いるね」
ユウは街周辺をサーチして魔獣の位置を特定した。
「倒してこようか?」
「いや大丈夫、すぐ終わらせるから」
ユウはそう言って矢を五本取り出し弓を引き空に向かって五本の矢を同時に放った。
【ハンター】の能力【矢の雨】は矢を上空に撃つことでサーチに掛かった敵に必ず命中する。
「よしサーチから魔獣が消えた」
「これからどうするんですか?」
「そうだなぁ、いったんこの街のギルドハウスに行ってみようか」
そうしてユウたちはギルドハウスへ足を運んだ。
「ご主人様、偵察から戻りました」
「お帰りリリィ」
ギルドハウスの前でリリィと合流し四人でギルドハウスの中へ入っていった。
「おい!どうなってるんだクラーケンなんて聞いてねぇぞ!」
「それだけじゃねぇ、魔獣の群れも山から下りてきてるらしいぞ」
ギルドハウスの中はクラーケンや魔獣から逃げてきた冒険者の怒号と悲愴であふれかえっていた。
「ここに長居するのはやめた方がいいかもな」
「そうだねこの状態じゃあまともに情報取れなそうだし落ち着くまで別の場所にいた方がいいかもね」
ユウたちが話していると正面から袴の少女が歩いてきた。その袴の少女を見てルイナとミゼルディアはすぐに警戒態勢になった。
「私はあなた達の敵じゃない。私はあなた達と協力したいの」
「協力?」
「そう、もしその気になったらここから西にある街はずれの家に来てほしい」
そう言って袴の少女はギルドハウスウを後にした。
「どうするんだ」
「うーんここに居ても大した情報なんて手に入らなそうだし強力な仲間が増えるなら家に行ってもいいかもね」
「分かった、ユウがそう言うなら私はそれに従う」
「私もユウさんに従いますよ」
「ご主人様の御心のままに」
四人の意思は一つに固まりユウたちは袴の少女が待つ家へと向かった。
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