百聞だけで済ますんじゃねぇ。
さんまぐ
第1話 二次会に舞う紙ナプキン。
友人の結婚式に呼ばれたのは二次会から、まあ一次会、披露宴には興味も何もない。
男はそんな事を考えていた。
新郎新婦はその男を呼ばない道を選べずにいた。
二進数の世界。
0か1か、男を呼ばず、友達も呼ばない。
お互いの両親のみの式か、親類と上司を呼ぶ披露宴までで、友人を呼ぶ二次会はやらない。
それか、男も呼んで友達を呼ぶ。
だがそれは諸刃の剣で、少なからず新郎新婦にダメージはあった。
男は高校で出来た友人。
高校の同級生で、新郎、新婦ともに学生時代を共に生きた。
「耳年増」
本来は聞きかじりの知識だけが豊富な女性の事を指したり、性知識のみが豊富な女性を指すがそうではない。だがそういえばまだ聞こえがいい。
とりあえず普段から人の話を聞いて、知識だけを満たしていく。
そしてそれをさも自分の経験のように語る。
男はそんな人間だった。
その界隈に明るくない者からすれば、知識が豊富だと言われるが、関わっている者からすれば間違った知識で自慢する姿には気分を害する。
新郎新婦からすれば、高校一年からの付き合いで、十数年の付き合い。
他の友人には男とは中学からの腐れ縁の人もいて、他にも付き合いはあったが、皆進学し、社会に出て、家庭を築くと段々と付き合いは希薄になってしまい、独身でフラフラしている男は新郎新婦からすれば、切るに切れない関係になっていた。
言い方を変えれば、縁の切り時を失っていた。
切るにしても皆で会えば、他の縁が切れない連中から本人に話もいくので、呼ばないわけにもいかなくなる。
早くに家庭を持った連中は切ったのか、切られたのか、疎遠になっていたが、大きな集まりの時だけは会う事になっていた。
嫌いなのか、悪人なのか、そんな話ではない。
まあとにかく恐ろしいまでに空気が読めない。
何度男のいない場所で、友人達と「あいつの背中に【釈迦に説法】って掘り刻んでやりたい!」と言い合って盛り上がった事かわからない。
聞き齧った知識を自分のものにした気になり、まるで経験してきたかのように自慢をする。
専門学校に進学したやつ、大学に進学したやつ、片っ端から話を聞いて極めた気になり、それを経験談のように話す。
大学進学した奴の専攻科目を自慢げに語って引かれるなんて序の口たった。
憎まれ、嫌われている訳ではない。
とりあえず来たい集まりにはほぼくるし、集まれば楽しそうにしている。
ただ、やりもしない知識自慢と、やってもいないのにする経験の話が鬱陶しい。
そう、鬱陶しい。
その一言に尽きる。
仕事をして社会に出た今だからわかるが、いっちょ噛みして、適当な事を言う姿は不評を買う。
だから新婦は大学でできた友達たちも集まるこの二次会に、男を呼ぶ事を嫌がっていて、「うぁ〜、お腹壊したとか、食中毒とか、交通事故とかないかなぁ」なんて、前日まで漏らしていた。
「それでもアイツは来るって。インフルエンザを隠して飲み会に来てパンデミックを起こしておきながら、予防の蘊蓄を披露するだけで謝らなかった奴だぞ?」
「嫌すぎる」
新婦は男が苦手だった。
3年間同じクラスになってしまった不幸。
新郎と恋人同士になった後、高校2年の時に男はとんでもない蘊蓄を述べた。
女子達は皆ドン引きしたが、本人はその顔と空気に気付かずに、知識自慢をして気持ちよくなっていた。
よりにもよって男は女性の日だった新婦に向かい、対処や備え方、心構えなんかを披露した。
そもそもお前には付いていないだろう?
お前にその器官はないだろう?
それなのに、鉄分だの温めろだの、2日目は辛いよねだのと言ってのけた。
あれ以来苦手意識がある。
夫になる新郎は、高校時代からキチンと男から守ってくれるし、接点も減らしてくれる。
だが大きな集まりには必ずと言っていいほどいるし、視線の端で蘊蓄をたれて、ご高説をのたまう男の姿を見ると、気分が盛り下がる。
新郎は新婦の顔を見ると「あー、あの時の思い出したろ?」と言う。
あの時は新婦がドン引きした女性の日の話。
「うん」
「アイツな…、本当に変わらないよな。アイツ、こんな言い方は嫌だけど、30で素人童貞なのに、この前の集まりで彼女がいる奴に前戯について知識自慢してたからな…」
もう、新婦はドン引きが加速する。
「やだよ〜、絶対二次会に来てトラブル起こす奴じゃん」
「まあ、そう言うなって、高校一年からの付き合いだし、これからは会う機会も減るし、席順だって、大学の人たちとは離してあるから平気だろ?」
そんな事を言った訳だが、どうしてこうなった?
盛り上がる二次会、次々に友人達が声をかけてくれて記念撮影をして乾杯をしていく。
酔い潰そうと悪ノリをする友達、キス写真をねだる友達。
それすら楽しい、結婚という特別な雰囲気の中、始まったビンゴ大会は、幹事を引き受けてくれたイトコが「少し持ち出しちゃったけど、いい会になるから期待してて」と言った通り、豪華賞品に皆が湧き立ち盛り上がる。
それなのに新婦の大学時代の友人。
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