第2話 夜景の綺麗なレストランで話そうか

「貴方が勇者アレンね…!私は魔王軍百七将が1人!ルルラン・トニーニよ!あなたのお命頂戴させて貰うわ!」


俺の名前はアレン。役職は勇者で今日も今日とて上司の命令で魔王軍を倒すために最前線に駆り出されている。


そして俺の前には際どいコスチュームに身を包んだグラマラスな美女が立ちはだかっている。

あ、この前まで百八将だったのに俺が1人倒したからちゃんと百七将になってるね。


「今回はまたえらい美人だな?百七将って顔採用なのか?」


この前倒したシュルトも美形だったしなさもありなんだ。


「へ?え、わ、私が美人…え、えへへ!…じゃないわよ!なんなのだ貴様!私のことを舐めているのか!?」


あ、コイツもチョロそうだな。さてと今日もハキハキ攻略していこうか。


「ルルランだったよな?ルルって呼んでもいいか?」


「ふぇ…?は、はぁー!?気安く愛称で呼ぶんじゃないわよ人間風情が!」


「まあまあそんな固いこと言わなくていいじゃないか、フィールド魔法発動、【夜景の綺麗なレストラン】」


俺は指をパチンと鳴らしながら自分と対象の相手を俺の指定した場所にいるような感覚に誘う、フィールド魔法を発動させた。


「な、なんだここは?レストランか!?」


さて、本日のフィールドは王国でも最高評価の超高級ホテルの最上階に位置するレストラン『天空亭』のVipルームだ。窓のからは王国が見渡すことができライトアップされた王城や誰かの労働の証であるオフィス街の灯りが宝石のように散りばる夜景が一望できる。


俺みたいに薄月給な庶民には縁がない場所だが、魔王討伐を王女から直々に依頼されたときにこの部屋に訪れたことがあり、その時にフィールド魔法のストックとして保存しておいた。

因みに敵に情報を掴ませないために城下町の地理は少し弄ってある。


「ルル、こちらにどうぞ。」


俺は窓辺にある椅子を引きルルに着席を促す。


「はぇ…?は、はい。」


ルルは割りとあっさり椅子に座ってくれた。いい調子だな。

俺は自分で椅子を引きルルランの対面に座る。


「いや、なんなのよこれ!?私達敵同でし…」


「しっ…」


「…ッ!!」


俺はルルの唇にそっと人差し指を当てて黙らせる。このタイプはしっかりリードした方が効果的だろう。積極的に主導権を握っていく。


「はしゃぎたくなる気持ちもわかるけどこういう場所ではお淑やかにしないとね。」


「…わ、わかったわよ。」


「ルルは素直でいい娘だね。」


チョロいな~この娘。ちょっと心配になるぞ?


「ところで、なんでルルは百七将なんかしてるんだい?」


「うむ、私は昔から周りよりも力も強く素行も悪かったからな…更正のために親から魔王軍に入隊させられたのだ。そこで私に筋肉女やメスゴリラとか言ってきた同期や先輩をボコボコにしていたらいつの間にか将の地位まで登り詰めていたのだ。」


「信じられないな…」


「なに?私の実力を疑っているのか!」


ルルランが椅子から少し腰を浮かして威嚇をしてくる。おー怖。


「そうじゃなくて、君にそんなことを言ってきた奴らが信じられなくてね。君はこんなに可憐で美しいのに…。」


「ふぁえ、?にゃ、にゃにを言うんだ貴様っ!」


よし、ルルランの話からして今まであまり女子扱いをされたことがなかったのだろう。この場合は余裕のある男を演出しつつ押せ押せだ!!


「なあルル一緒に逃げないか?君が戦い傷つくことに俺は耐えきれそうにない。」


「な、なにを言うんだ…私から戦いを取ったら何も残らないじゃないか…。」


「確かに君は強い…でも君を思う俺の気持ちはもっと強い。」


「なっ何をキザなことをっ!大体私達は会ったばか…」


「俺は真剣だよ。」


「…ッ!!」


俺は真っ直ぐにルルの目を見つめる。もう少しだな。仕事なんて忘れさせろ。現実を直視なんてさせず俺だけを見ていればいい!


「正直に言おう。俺は君に一目惚れしたんだ…。確かに君とは会ったばかりかもしれない、しかし愛というものは時間じゃないはずだ!そうだろう?」


「ふぇぇ…。」


ルルランはもうのぼせ上がってるっといった様子だ。もうひと押しだな、ここで決める!


「俺は勇者で、君は魔王軍の将…でも、それがなんだ!俺がルルを一生を守ると誓って見せる!だから、ルル!俺と一緒に行こう!」


「は、はい…」


顔を真っ赤にさせてルルが俺の差し出した手を握ってきた。ふっ…勝った!


思った通りルルは雰囲気に流されやすいタイプだったな。そんな奴には最高なムードとロマンチックなストーリーを作ってやればいい!


今回、俺はここまでルルの言葉を一切否定せず少しずつ好感が得られるように絶妙に会話でコントロールしていった!

生物学的に女は男よりも共感を求めるもの…否定は厳禁なのだ!


次に、俺は余裕のある男を演出した。言うまでもないがルルみたいな男慣れしてないタイプには紳士でいてレベルの高い男であるように見せるのが大切だ!

これによりルルは警戒心を徐々に解いていき俺を1人の男として意識するようになった!


そして決め手は甘美なストーリーを共有させられたということだ!いい雰囲気でムードに溺れさせ甘い言葉と意志の強い言葉で感情を揺らし、即席のロマンチックなストーリーをお互いに共有することで相手を陥落させる!悪用厳禁なナンパテクニックだ!


「そ、それにしても、な、なんだか喉が渇いたな!」


ルルが火照った顔を手でパタパタと扇いでいる。さぁチェックメイトだ。

俺がパチンと指を鳴らすとウェイターがドアから入ってきてワインの入ったグラスを机に置いた。

因みにこのウェイターは予め呼んでおいた業者だ。戦いが始まる前に岩陰に隠れて待機して貰っていた。

俺はグラスを手に取りルルランに掲げる。


「それじゃあ君の瞳に乾杯。」


「ふふっ、まったくキザな奴だ。」


チンと透き通ったガラスの音が響き俺たちはお互いにグラスを仰いだ。


「ぐっ…!?」


ルルランが机の上に崩れ落ちる。


「き、貴様、ど、毒を、盛った、な…?」


そう、俺は今回も予めワインに王国謹製超強力痺れ薬を混入させておいたのだ。


「ダメだよルル?初対面の男に疑いもせずホイホイついて行くったら?」


本当にダメだと思う。


「ぐっ、じ、地獄に、落ちろ…」


そう言い残してルルランは気絶した。大丈夫、乙女心を弄んだんだ、心配しなくても俺は地獄行きだろうさ。


「それじゃあこの人回収しときますね。」


さっきまでウェイター役を演じてくれていた回収業者の子が俺にそう言う。


「あぁ、出来るだけ丁重に運んでやってくれ。俺はもう少ししてから帰るよ。」


「勇者も大変ですね。」


そう言い残して業者の子はルルランを回収して行った。ほんと、割に合わない仕事だよ。


                つづく

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