第12話 親と友

「王 とにかく自室に戻りましょう」

「わかった」

そう言いながら2人は長い廊下を歩く、様々な扉を急ぎで通過していく。

ファウは大きな扉を開け、王を中に入れる

「さぁ 中へ」

「ありがとう」

部屋の中は暗く、静かだった。

ファウはそのまま裏の部屋へ入っていく。

ザルードは客人用の椅子に腰を下ろし、ため息をつく

「はぁ〜 疲れた」

とにかく暗殺者の方はハルがどうにかしてくれている、もし仮に暗殺者が2人いるとしても、この部屋であれば安心だ。

隣の部屋からファウが戻ってくる、手元にはコップを持って来ている

「王 お茶です」

「あぁ ありがとう」

コップを受け取りお茶を飲もうとする


「そこまでです」

部屋の中でありえない声がすると、ファウは魔法の縄で縛られる

「何!?」

縄をかけた者の正体が不可視の魔法を解きながら現れる

その正体はショウだった

「ショウ お前……」

「王 そのお茶には毒が入ってます」

ショウは断言する

「そんな…… そんなはずがあるか!」

「なら 僕が証明します」

そう言いながらショウは王からコップを取り上げ、中身を飲み干す

「がはっ……!」

ショウはその場に血を吐いた、血が止まらない、魔力を全身に回して、解毒の術式を組む、なるべく早く、そして正確に

「おい…… どういう事だよ……」

ザルードは理解が追いつかない、目の前のショウはお茶を飲み血を吐いている、だがそのお茶を入れてきたのはファウだ、その事実を信じることが出来ず、彼はその場でショウの背中をさすることしか出来なかった

「はぁ 意外とやってみればできるもんですね その場での解毒」

口元の血を拭きながらショウは立ち上がる

「おい 大丈夫か…… それにしても他にやり方はいくらでもあっただろ……」

「信用を得るためにはこれくらいやらなくちゃいけないと思って」

毒入りと思って飲むのはどう考えも常軌を逸している、しかし自分からの信用を得るために彼も覚悟を決めていたのだろう

「ファウ 全て話してもらおう」

しかしファウは口を開かなかった

「今思えば最初から違和感だらけでした」

解毒を済ませたショウが自分の仮説を話す

「まず最初に違和感を感じたのは動物達との視界の共有です 視界を共有してるだけなら暗殺者1人を追いかけ続けるのは非常に困難なはず なのに鳥はしっかり追いかけていた そして路地裏に入った時不自然に鳥はその後追いかけなかった その先を記録したくなかったからでしょう」

ここまで話してファウはまだ口を開こうとしない

「あなたは動物の視界を共有できると話していましたが 正確には動物を操り視界を共有できる魔法を使える が正しいでしょう」

「そんなの1級レベルの魔法だろ……」

「ええ 恐らく3級を取っても2級を取りに行かなかった 全てはあなたを騙すために」

ザルードはそう言われて何も言えなかった

「そして もうひとつの違和感は この暗殺者騒ぎを余計に大きくしていた所です 城の中に入られた訳でもない ただ街に入ってきただけで部下達に血眼になって探させていた あの暗殺者はまるでを黒幕を隠す為の囮のようでした」

ショウの仮説を聞いて、今回の一件の全てがファウの仕業だと言うことは、火を見るよりも明らかだった

「そして ザルードさんを狙った動機なんですが……」

「待ってくれ」

「はい」

「そこから先は ファウから聞きたい」

「分かりました」

ショウは後ろに下がる、ここからは2人だけで話をさせなければならない

「ファウ どうして俺を殺そうとしたんだ」

ザルードは真剣な眼差しで彼を見つめ質問をする。

ファウが口を開いた

「私の父は誰に殺されたか知っているか」

「それは……」

「お前の父親だ! お前の父があんな無駄な城を、人々に過酷な労働をさせて造らせた! 私の父は日を追う事に弱っていった!」

今までにないくらい、彼の憎悪を込めた声が部屋に響き渡る、その顔は王の全てを壊したいといわんばかりの形相だった

「だからってザルードさんを殺す理由にはならないだろ!」

ショウは思わず声を上げた、魔法試験の最後の時の最後に、手を伸ばした時と同じぐらいの声量で

「何を言ってる 今はもうこいつの父親に復讐はできない ならこいつを殺すしかないだろ!」

「ふざけんなよ! ただの逆恨みでザルードさんを殺して なんになるって言うんですか!」

「全部ムカつくんだよ! 親を失った俺に 王族の同い年のやつが同情してきやがって お前の親父が殺したんだろうが! そうやって近づいてくるのが大嫌いだったんだよ! ザルード!」

彼は心の内を全て話した、恐らくこれら全てが殺す動機だったのだろう、気持ちはわからなくはないが、やはり逆恨みでしかない事は確かだ。

ショウが黙っていると、ザルードが大人しく座るファウの前で土下座をする

「本当にすまなかった……」

「それは何に対してだ 知らなかったことにか? それとも父の代わりにか?」

「全てだ 俺はちゃんとお前に向き合ってやれなかった」

「向き合ったところでなんになる 俺の復習が冷めるとでも思ったのか?」

「俺はお前との日々が楽しかった いつも1人の俺の隣に友人がいてくれたことが ただお前にそう思って貰えなかったのなら 最初からお互いを知らないで出会わない方が良かった……」

そこまで話したタイミングで部屋の扉が開く、2人の兵士が入ってくる、ファウを捕まえた時にこっそり呼んでおいたのだ。

兵士達に連れていかれながら、ファウは口を開いた

「王 私はあなたと出会わなければ良かったなんて思ったことありませんよ」

そう言いながら部屋の扉が閉まった


2人は暗いまま部屋の中で話を続ける

「本当に申し訳ない」

「いえ ザルードさんが無事ならそれでいいです」

事件の首謀者がファウだった事に今も驚きを隠せないが、ショウにも彼の気持ちが理解できてしまう、小さな頃に親を2人とも失っている人の孤独と憎悪は痛いほど理解出来る

「これは俺の問題だ 俺があいつを見ていなかった しっかりと友人として関わってやることが出来なかった」

「いえ それでもあなたを殺そうとしたのは彼の過ちです 最も 僕にそれを咎める権利はありませんが」

ショウには彼を咎めることができない、自分も……

「俺 もう一度ファウと向き合ってみる」

「それは……」

「あいつを牢から出すことはできないだろうが 話すことはできる」

「僕もそれがいいと思います」

こうして、アステラ王暗殺事件は失敗に終わり、全てが解決したのであった



「何やってるのさ」

「おせーから寝てたんだよ」

ショウは城をでて、ハルと合流しようとしたのだが……

彼は城と街を繋ぐ大階段の中段辺りで寝ていた

「そんなに眠いなら先に宿に戻ってくれても良かったのに」

「まぁ 待ちたかったんだよ」

答えになってるか怪しい返答に2人は笑う

「とにかく こっちは牢屋に連れて行ってもらった どうやらザルードに1級試験を妨害されたのが動機だとよ」

「あの女か……」

ショウは彼女の姿をはっきりと思い出す、正直怖すぎてトラウマになっていた、恐らくその恨みを動機にファウは彼女を呼んだのだろう、だがほぼ囮としてしか使われてなかった要な気もするが

「こっちの方で捕まえた真の犯人は……」

「いいよ」

「えっ?」

ハルが話を遮る

「誰が黒幕かは興味ねぇ 城の内部の人間ってことがわかればそれでいい」

「そっか」

黒幕を聞かないのは、多分ハルの優しさだろう、正直ファウが黒幕だったのは予測できていたのだが、ザルードの父が暴君と聞くまでは彼が黒幕と断定したくなかった

「何しけた面してんだよ 早く宿に戻ろうぜ」

「そうだね」

そう言いながら階段を降りてく背中を見て、ショウは彼に聞きたかったことを聞いた

「ねぇ ハル」

「なんだ?」

「ハルは僕と出会って後悔してない?」

今日の一件を経て聞きたかったことだ、彼は後悔してないだろうか、彼は僕をうっとおしいと思っていないか、隣にいなくてもいいと思われていないだろうか……

それを聞いたハルが階段を登って目の前に来る

「痛っ!」

ハルはおでこにデコピンをしてきた

「後悔なんかした事ねーよ お前が一緒だから旅に出れた 一緒だから笑えるんだ 一緒だから楽しいんだよ」

「ハル……」

「俺はお前の親友だ 死ぬまでな」

「ありがとう」

感謝で涙が出そうになる、こんな自分を親友と呼んでくれる事、旅に連れ出してくれた事、太陽への行き方を教えてくれた事。

2人は宿屋へ戻るために、階段を降りていった


「本当に大変世話になった」

王が頭を下げる

「いえ とんでもございません」

「やることをやっただけです」

次の日、2人は城へ呼ばれた、事件を解決したことで王が礼を言いたいとの事だった

「それで 礼をしたいのだが」

「僕には1級試験の時の借りがあります 今回はそれを返しただけですから」

「だが 今回は命を救ってもらったんだ 少しでもいいから礼がしたい」

ショウは悩む、今自分達は金に困ってる訳では無い、褒美として欲しいものが思いつかない

ショウが考えてると隣の親友が提案する

「なら 王 俺達はこの先のエスメス砂漠をこえて山を登らなければなりません なにか安全に砂漠を進む方法とかがあれば教えて頂きたいです」

そうだ、ここから先のエスメス砂漠は渡るのがとても大変な砂漠だ、頼み事をするならそれが一番かもしれない

「僕からもお願いします!」

「そうか それならお前達にちょうどいい物があるぞ」


2人は街の東門の近くを歩いていく、出迎えにはすぐそこまで王が着いてきてくれていた

「本当はもっと観光して行ってくれても良かったんだけどな」

「それは旅が終わってからだな」

「必ず遊びに行きますよ」

「そうか それまで待ってるぞ」

2人は約束をしながら門を出ようとする、その2人の背中を見て王として助言をする

「2人とも! 」

2人がそう呼ばれて振り向く、そこには立派な王としてのザルードがいた

「これから先の旅 一期一会を大切にな そしてそれ以上に親友を大事にしろ!」

ザルードはそう言って手を振る

2人は門を出るまで手を振り返す

「なんだよ ちゃんと王様やれてるじゃねーか」

「彼が王ならこの国も安泰だよ」

そう言いながら2人は笑う


王を 旅を再開する2人を そしてアステラ王国を祝福するかのように真上の青い太陽が照らしていた

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