第58話

「これでこの国のものどもの魔力を全て飲み込めば...... 足りねばバルチアも」 


「それが目的だったのか」


 ぼくはダレスの前にたった。


「貴様...... なぜここに」


 詠唱もなくその杖から連続して業火をはなつ。

 

 ぼくはなんとか左右に移動してかわした。


「ちょこまかと、ケットシー、もはや貴様も必要ない......」


 無限の魔玉から黒い霧のようなものがこちらに迫る。 


「これは......」


「それは魔玉の魔力、逃げることなどできん」


 離れるも黒い霧は、すごい勢いでぼくを飲み込む。


「すべての魔力を失い、消え去ったか...... いや、はやすぎる」

 

 その時、ぼくの伸ばした猫舌鞭タンウィップで黒い珠を巻き取った。 すると黒い魔力は散った。


「なっ!」


 ぼくは猫足鎌ポーシクルで地面を叩きつける。 そして土煙を起こすと珠をもち走る。


「くっ、さっきのは分身! 貴様! 仕方ない......」


「がはっ!」


 ぼくは殴られ地面を滑る。 そこには後ろににいたはずダレスが目の前にいて、杖を突きつけられている。


(なっ!? さっきあそこにいたはずなのに! くっ、体が動かない魔法か......)


「くっ...... かなりの魔力を......」


 ダレスはふらふらし頭を抱えている。


「貴様ごときに、邪魔をされてたまるか...... なっ、これは剣を魔玉に見せていたのか!? 魔玉はどこだ!」


 そう怒鳴る声をききながら、ぼくは意識を徐々に失っていった。


(......こむぎ、頼むぞ)



 目が覚めると、牢獄のなかにいた。 ぼくは身に付けているものを全て取られていた。


「ここは......」


「ここは、エクロートの地下にあった牢屋た。 上にはモンスターに破壊されなにもないが、地下のここだけはのこっている」


 そういう方を見ると、精悍な顔の青年が隣にいた。


「あなたは......」


「おれはグラード」


「ぼくはいつからここに」 


「昨日ほうりこまれた。 ケットシーなど始めてみたな。 存在するとはな」


(もうこむぎは王女に伝えられたかな......)


 ぼくは魔玉をこむぎに渡していた。


 なにやら上が騒がしい。


「なんですか?」


「ああ、戦争になるらしい。 次はバルチア王国だ......」


(あの魔玉を手に入れようとしてるのか! その為に戦争を!)


「くそっ! はやくかえらないと!」


 ぼくは鉄の格子を壊そうとするがびくともしない。 


「温度をあげる魔法も無理か!」


(持っている魔法じゃ壊せない! 魔晶剣さえあれば......)


「無駄だ。 魔法をはじく特殊な牢だ。 逃げられやしない。 なぜ外にでようとする。 でてもすぐ捕まるぞ」


(このまま、ここにいても、ダレスが戦争を起こす!) 


 とにかく藁をもつかむ気持ちで、かいつまんで事情を話した。


「なに!? タルタニアの王が殺された。 ダレス、あの魔法使いか......」


「なんとかここを出て、王女につたえ、対策を!」


「そうか......」


 その青年は懐から水晶をだした。


「それ、魔鉱石...... でも魔法は効かないんじゃ」


「ああ、魔法は効かなくても使える。 手伝え」


 後ろにおいてあった木製のベッドを格子においた。 グラードが魔力を込めると魔鉱石は輝き、ベッドごと格子を吹き飛ばす。


「なんだ今の音!」


 兵士たちが近づいてきた。 するとグラードが魔鉱石を使い兵士たちを吹き飛ばした。


「衝撃波をはなつ【ショックウェーブ】の魔法だ」


「ありがとう! じゃあ!」


「俺もいく、剣をもて」 


 兵士たちから剣を奪うと、ぼくは魔力探知で人の位置を確認しながら上へと向かう。 


「入り口、左右に四人」


「たいしたものだ。 馬はいるか」


「えっと、先に馬小屋があります!」


「よし、四人を衝撃波で奇襲して、馬に乗るぞ」


「わかった。 ぼくが前に出る」


「ああ」


 タイミングを合わせて入り口からぼくは飛び出す。


「なんだ!?」


「とらえろ!!」


 兵士たちがこちらに向いたあと、後ろから衝撃波が起こり、兵士たちは吹き飛んだ。


「よし! のれ!」


 ぼくたちは馬に乗り、町から飛び出した。


 

「そういうこと......」


 アシュテア王女はこむぎに持って帰らせた珠をみている。 ぼくたちは王女に会い、事細かに事情を説明していた。


「ピィピィ!」


 こむぎはぼくに抱きついてくる。 


「ありがとう、こむぎよくやってくれた。 ......すみません。 それを使わせてはいけないと思って持ってきたことで戦争に......」


「いいえ、この魔玉とやらを使わせると、ダレスが無限にモンスターを産み出すようになる...... いえ、もっと厄介なことになるかも」


 王女は真剣な顔でそてと珠をおいた。


「やはり世界を支配するつもりなのでしょうか」


 リディオラさんが首をかしげると、ガルバインさまもうなづく。


「わからないな。 しかしダレスはとてつもない年月計画していた。 なみの執着じゃない......」


「アシュテアさま......」


 そうミネルバさまが不安そうにきく。


「......文献に、はるか昔そのような魔法道具があったという記述はあるけど、願望の魔玉なみに夢だと思ってたわ、本当にあるなんて」


 王女も当惑しているようだった。


「王女!」


 その時、兵士がはいってくる。


「なに、今は忙しいの」


「ダレスが面会を申し出てきました!」


 ぼくたちは驚き、顔を見合わせた。

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