第38話 マンション自警団事務所

 あの後にカルチャールームの見学を全員で行って、明日から早速始める事を告げて解散したんだけどね。


 あー……びっくりしたぁ。


「アラタの世界では違っただろうが、この世界では住み込みで働けるだけでも高待遇だからな?」


 安堵と驚きのため息を吐いていると、呆れたようにテーブルに肘をついて僕に教えるゲンデ。


 そういや、そうだった……と、フェイが淹れてくれた紅茶を飲む僕。


 そうそう。僕らは今、一階のエントランスラウンジに移動しているんだ。


 え?なんで此処に居るのかって?


「今日はボルグド殿下が指揮をとっていますね」


「そりゃ、明日からしばらく騎士講座なんて持つから今日ぐらいだろう?外の移動で稼げるのは」


「ゲンデから見た殿下の評価がわかる気がする」


 画面を見ているフェイに自らコーヒーを取りに行ったゲンデ。僕の感想にブフッと吹き出していたけど、まあそれだけボルグド殿下に気を許しているって事だろうね。


 なんて思っている僕の提案で、外はどんな感じなのかを確認に来たんだ。エントランスラウンジでは、常時『マンション』の外の様子がわかるからね。


 そのエントランスラウンジは、毎日賑やかなんだよ。


 交代の時間が近い騎士さん達の待機所になっていたり、従者さんやメイドさんが今の状況を確認に来たり、トレーニングフィールド帰りの騎士さん達が飲み物を飲みに来たりしているからね。


 そんな中、今大画面で映っているのは襲いかかって来たフォレストウルフを討伐中の殿下達の映像。


「おー!流石はスレッド!騎士団員の中では一番動きが良いな」


「いや、辺境伯家のポーターもいい線いってね?」


「っかー!ケインの剣筋速すぎて見えねえ!」


 あ、これは僕らの斜め向かいで大画面TVを見ている騎士さん達だよ。多分今日は非番だろうね。三人共私服だから。


「だけどよ……やっぱりまだ馴染めねえよなぁ」


 ……なんか一人の騎士さんが気になる事言い出したね。もうちょっと聞いてみようかな。


「あーわかる……。俺ら第一騎士団からの招集だったからな。そりゃ殿下の専属と辺境伯家の騎士達とも距離感じるわ」


「自警団になった奴らは良いよなぁ。あっちは結構距離詰めて来るみたいだぜ」


「俺らみたいに後から混ざったやつらも結構苦労してんじゃないか?まあ、生活自体は格段に快適だからなんとかなっているけどな」


 そっか、新しく入って来た騎士さん達だったんだね。


 ……そういわれれば、ボルグド殿下って騎士団長だったよね?どこの所属だったんだろ?


「ねえ、フェイ。殿下って今まで何処の隊を率いていたの?」


「殿下の本来の立場は、第一、第二、第三騎士団の総轄騎士団長でしたよ。いわば騎士団員のトップですね。その下に第一、第二、第三の騎士団長が続きます」


「スレッドの奴らは第三だったらしいぞ」


「へえ……やっぱり殿下って、実はすごい人だったんだ」


「いやいや、アラタ。それ本人が聞いたらまた拗ねる案件だから」


 なんてゲンデと会話していると、僕らが聞いていた事に気付いたのか、三人の騎士さん達は頭を下げて立ち去って行ったんだけどね。


 ちょっと悪い事しちゃったかな?


 それにしても、いつもの殿下だけ見てると王子って事も忘れるんだよねぇ。あの人、最近ジャージ着てうろついてるし。


 因みに、今騎士達の間ではジャージが流行中なんだ。発端は僕だけどね。


 鍛錬やトレーニング中に動きやすい服ありますよ?って宅配ボックスのアパレルショップで見つけたジャージを殿下とダノン父様に渡してみたらね。


「かなり動きやすい服だな!激しく動いても伸縮性はあるし、通気性もあって暑くもない!しかも肌触りがなめらかで、汗を掻いてもベタつかないぞ!」


 殿下はどこの評論家だろう?ってコメント言ってたよ。まあ、某有名メーカーの開発したジャージだから当然だね。


 因みに、ダノン父様は「部屋でくつろぐ時にも良いな」だって。実は、既にジャージを訓練時に着用経験済みのダノン父様。


 某有名メーカーのジャージは色も豊富だしデザインも良いし、何よりマンション自警団トップの二人が愛用しているからね。当然部下にも影響したんだろうね。


 まあ、そんな殿下とダノン父様の日常の事は置いといて……


「ゲンデ。騎士さん達の様子どう?」


「ん?まあ、こんなもんじゃないか?まだ来たばかりだしな。でも騎士同士はギグシャクしてても、『マンション』の生活はかなり気に入ってるみたいだぞ?アラタ、見たか?騎士達の階の掲示板」


 ちょっと気になってゲンデに聞いてみるとニヤっとして教えてくれたのがね———


「え?どの階にも貼ってあるの?」


「そ。見た時は笑っちまったぜ!『我らマンション騎士団!守れ!国の未来と己が楽園を!』だってさ。よっぽど快適なんだろうよ。此処での生活が」


 ゲンデの言葉にそっかぁ、と僕がホッとしていたら「当然ですね」と頷くフェイ。


「ですがマスターもご存知のように、投書箱には専属自警団員の増員を願う匿名の投書が多数届いていますね」


「うん、それについては考えてるよ。でもまずは、この王家からの依頼が終わってからかなぁ。今は辺境伯領で何があるかわかんないし」


「確かにな」


 なんて話していたら、突然周囲がざわめき始めたんだよ。


 なんだろう?って思っていたら、どうやら外の映像で更に異変があったんだろうね。皆が大画面TVを指差していたんだ。


「うわっ!すげぇ!みたか!今の殿下の動き!」


「見た!というか見えなかったというか……」


「殿下どこに目があるんだよ……!真後ろからの魔法攻撃だったぞ?」


「でも【保険】ってやつかけているんだろ?確か【人災】と【火災】だったか?どっちにしろ大丈夫だったんじゃないか?」


「バーカ。殿下がそのまま攻撃を受けるなんて事するわけないだろう?」


「おい!見ろよ!殿下が捕まえたぞ!あ、誰だアレ?」


「殿下の知り合いか?」


 騎士さん達の会話じゃ状況の詳細が分からなくてね。状況を把握していたフェイに聞いてみたよ。


 そのフェイによるとね。どうやら殿下が魔物の討伐指揮しているところを、真後ろから火魔法付与された矢の攻撃で襲われたらしいんだ……!


 とはいえ、そこは身体能力が桁違いの殿下。後ろを振り返りもせずにスッと矢を避けたんだって。


 更に矢が放たれた方向に瞬時に駆け出し、射手を見つけ敵が持っていた弓を一閃し無効化させた殿下。


 そして、殿下の攻撃の後即座に射手と逃げる敵を拘束したのは、殿下専属諜報員の皆さん。


 凄いよねぇ。あの殿下の動きを読んでいるんだから。


 そういえば、「悔しいけど……アイツらの腕は俺のかなり上をいく」って前にゲンデが悔しがっていたっけ。


 そんなゲンデ自身も強くなっていると思うけどね。


 あ、そうそう。避けた矢は地面に刺さって、誰も怪我はしてないみたい。一応みんな保険かけているけどやっぱり心配だったから良かったよ。


「おい、今殿下が[エントランスキー]を使って[扉]を出したよな?」


「ああ。だけど此処に来ないって事は、アレが例の自警団事務所に繋がる専用扉か……!」


「確か自警団事務所には尋問室や地下牢みたいなものあるって言ってなかったか?」


「ああ、自警団員が持つ専用キーでしか入れない所だろ?」


「自警団ってやっぱり特殊だよなぁ」


 なんて騎士さん達がまた会話していたけど、確かに[自警団専用キー]には色々特殊な機能がついているんだよね。


 その内の一つが、さっき会話で出た特殊牢への扉。


 実は、自警団事務所には勿論事務所らしく団員達の専用机もあるけど、色々な空間が繋がっているんだ。


 例を上げれば、魔物の素材置き場や尋問室そして特殊牢かな。まだ種類あるけどね。


 何が特殊なのかって言うと……自警団以外は、逃亡・自決防止、魔法・スキル能力の無力化、魔導具無効化、自白効果がかかった空間なんだって。


 当然マスターの僕も入れるらしいけど、ここは専門家にお任せしたい案件だね。


 それで、どうやら殿下はそこに射手とその仲間を連れて行ったみたい。現場はケインさんに任せたみたいだよ。


 大画面の映像を確認すると、外の魔物討伐は無事終わっているみたいだし、やっぱり気になるよね……


「フェイ。僕も自警団事務所に様子を聞きに行こうと思うけど、どうかな?」


「いえ、マスターは部屋に戻りましょう」


 僕の提案を即座に断るフェイ。そしたら念話でこう言ってきたんだ。


『マスターに何かあっては遅いですし、何よりベースルームのTVで特殊牢の確認も出来ます』


 そっか、僕は施設なら確認出来るんだっけ。


 そんなフェイの色々な気遣いに感謝しつつ、情報を得る為に僕も部屋に戻る事にしたんだけどね。


 一体誰がどうして殿下を狙ったんだろうね?


—————————————

 次回更新は9/18になります。仕事が忙しくなった為に、これから基本二日ごとに一話の更新予定です。急な変更もあるかもしれませんがご了承下さいませ。


 いつも読んで下さりありがとうございます!

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