第698話 また生えてくる

「ん~! サクッとしていてバターが香ばしいタルト生地! 爽やかな酸味とコクがあるチーズクリーム! 濃厚な甘さとさっぱりとした瑞々しさのマスカット!! どれも最高ですわ~!!」

「マスカットの皮のプチっとした食感とタルトの食感の違いが、口の中に不思議な体験をもたらしてくれる」

「マスカット果汁とチーズクリームの相性が良い。初めから混ざる事を想定しているような味付け」

「してるだろうさ。カケルが用意するスイーツはどれもこれも計算されつくした味わいだからな」

「タルトとワインの表情が違う甘さのマリアージュも楽しいものだ」

「何故かカケルが用意するデザートはすいすい食えるんじゃよなぁ……」


 知ってたけど大絶賛ですわね。

 期間限定とか書いてあるデザートはどれもこれも大体美味い、日本の真理ですわよ。

 ……そして、また食べたいと思っていたら別の期間限定商品に置き換わってて二度と出会えなくなるまでがセット。

 だから、ブルーベリーのパンナコッタをフレッシュパックで買っておく必要があったんですね。


「マスカットがビッシリ敷き詰めてあるが、だからと言って飽きることはない」

「結局、味わいが甘い一辺倒では無いからだと思うのですわ。甘い、程よい酸味、コク、香ばしさ。様々な味の形成要因をバランスよく盛り込んでいるからこそ、美味しいけど飽きが来ず、もっと食べたいと求める味にまとまっていると思いますの」

「食感の違いってのさっき言ってたが要因の一つだろ。味だけでなくそっちにも変化を持たせてるから、より飽きにくいんだ」

「クリームの甘さとマスカットの甘さ、タルト生地の甘さと、同じ甘さだけでも三種類ある上に、そのどれもを認識出来る。結局はそのバランスよな」

「ワインと合わせても、マスカットの甘さに合わせてよし、タルト生地のバターのコクに合わせてよし、チーズクリームの酸味に合わせてよしの相性三よしのん」


 唐突に出て来たけど誰だよよしのんって。

 翻訳魔法の精霊さんの趣味か?


(顔を逸らしとるぞ)


 図星かい。

 よしのんって言われて誰かパッと思い浮かばないんだよな。

 ちょっと調べてみるか……。

 ――ん? ほうほう。

 なるほどなぁ。

 翻訳魔法さんはこういうタイプが好みなのかー。


(趣味が失せ物探しという所に惹かれたようじゃの)


 ……あ、そっち?

 俺が思ってた方とは違うよしのんだったわ。

 まぁでも、うん。

 可愛いと思うよ、そっちのよしのんも。


「カケル? どうかしましたの?」


 なんて脳内やり取りをしていたら、リリウムさんから声を掛けられた。


「ああ、いえ。ちょっとごちそう様って気分で」


 色んな意味で。


「なぬ!? まだタルトが残っているじゃないか! 仕方がない、俺が食べよう」

「あ、大丈夫です。普通に入るんで」


 ごちそう様も、タルトに対しての言葉じゃないしね。


「やっぱりシャインマスカットって美味いですねぇ」

「うむ。瑞々しくジューシィ。蜜は甘く、酸味も程よくあってかなりクオリティが高い果実だと思うぞ」

「蜜の甘さがキャンディとかのそれに匹敵するの、控えめにバグってンだよな」

「甘いは正義。……ラベンドラ、この果実を実らせる魔物に心当たりは?」

「あったらとっくに流通させてる。つまり、未発見か存在しないか、だな」

「……残念」


 ……ちなみに神様、お尋ねなんですけれど……。


(ん? 何じゃ?)


 シャインマスカットを実らせる魔物って居ないんですか?


(……存在せんのぅ)


 作らないんですか?


(わし、シャインマスカットの味知らんし)


 実は、お供え用に買って来たシャインマスカットのデザートがあるんですけれど……。


(ひゃっほい! それ食べたら思わず作っちゃいかねんぞい!!)


 じゃあ、どこら辺に出現させるかと、どんな魔物になるかの情報を……。


(待て待て。作ると言ってもそうポンと生み出せるものでもない。周辺の魔力操作から生態系へ介入する影響などと考えることは多い)


 あ、じゃあすぐには食べられない感じですか?


(結局繁殖させねば数は増えん。ある程度は時間が経つ方が望ましくはある)


 なるほど。


(ま、作りやすいのは深海じゃな。ほとんど手つかずで生態系へ介入しても影響が少ない)


 深海にシャインマスカットを生やすんですか?


(そちらの世界で言う海ぶどうのようなものじゃ。一定の水深で繁殖するようにしておけば、いずれどこの海でも取れるようになるじゃろう)


 ほへー。

 ……ちなみにマスカットを使ったワインなんて言うのもありますけど?


(なぬっ!? ……いや、見た目がブドウと変わらんならワインに使ってみようと考えても不思議では無かろう)


 確かに? まぁでも、楽しみの一つにはなりそうですね。


(じゃのぅ)


 お供えは皆さんが帰ってからやりますよ。

 ……今やったら、横から取られかねませんし。


(取られたら祟るだけじゃの)


 変な争い起こりそうなんで……。

 少なくとも巻き込まれたくはないです。

 ……ちなみに神様用に用意したお供えは、シャインマスカットを葛饅頭で包み、ワインのクラッシュゼリーとシロップに浮かべた物、との事。

 残暑があるこの季節にピッタリの、清涼感あるつるんとした食感の一品だってさ。


(あー! あやつらはよ帰らんかなぁー!!)


 あまり大きい声でそんな事言うんじゃありません。

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